ハリードは仲間を連れて諸王の都にやってきた。ここにハリードの生き別れの姫、ファティーマがいるという噂があるのである。エレン達は先日の神王の塔の一件もあり、ハリードの気の済むようにしてやりたいと思っていた。諸王の都。滅亡したナジュ王国の王族が眠る墓。今ではアンデットを始め、数多くの強力なモンスターが巣くっていた。ハリードはファティーマ姫を求めながら奥へ進む。
最深部にはゲッシア朝ナジュ王国の初代アル・アワド王の墓があった。そこには王の名剣カムシーンがおさめられている。ハリードは今まで自分の剣にカムシーンと名付けてきた。カムシーンはハリードにとって憧れだったのである。これまでも多くの人間がカムシーンを手に入れようとし、命を落とした。

「今の俺に真のカムシーンを手に入れる力があるだろうか……」

アル・アワドの墓から謎の声が語りかけてきた。

「汝、カムシーンを受け継ぐ者か?」
「はい」
「汝、その証を立てるか?」
「はい」

すると、黒い巨大なドラゴンが襲いかかってきた。それはドラゴンルーラーだった。氷銀河でも戦った強敵である。『竜を統べる者』の名を持つ、ドラゴンの王者。氷銀河で戦ったのは白い鱗だったが、ここに現れたのは黒い鱗をしている。黒光りする鱗を持った闘神と呼ぶに相応しいドラゴン。アル・アワド王の剣を受け継ぐ者を試すだけの、有り余る力を持っている。この黒いドラゴンルーラーは、ハリード達が今まで戦ったどんな敵よりも強かった。通常の牙や爪、角を使った攻撃の他に、強力なアシッドスプレーと地震で全体攻撃をしてくる。獰猛な唸り声を上げてハリード達を踏みつけようとしたり、尾を振り回したりした。

「……強い!!四魔貴族より強く感じるのは気のせいなのか?」

ハリード達は未だかつてない苦戦を強いられた。しかし回復しつつも強力な技で攻撃する。

「分身剣!」
「竜神烈火拳!」
「ミリオンダラー!」
「地すり斬月!」
「ファイナルレター!」

死闘の末、ドラゴンルーラーを倒すことに成功した。ハリード達はかなり体力を消耗し、あちこち傷だらけだった。
そして真のカムシーンを入手する。カムシーン。『砂嵐』を意味する名高い曲刀。今まで憧れてきた名刀を手にすることができたハリードの感慨は深かった。

だが、ファティーマ姫の姿は見当たらない。

その後、ハリードは諸王の都の隅々まで探し回った。最愛の姫を求めて。襲い来るモンスター達を蹴散らし、ひたすら姫の姿を求める。

だが、どんなに必死に探してもファティーマ姫は見つからなかった。

(やはり噂は噂にすぎん)

ハリードは、表向きはパーティーのリーダーとして平静を保っていた。カムシーンをはじめ強力な武器防具を手に入れることができた。ドラゴンルーラーとの戦いにより、また強くなったことを純粋に喜んだ。姫が見つからなくても、元からそれはただの噂だったのだと。仲間達は何も言わなかった。彼らはハリードの心中を十分に察していた。この周辺には町がない。冒険の途中で手に入れた結界石で休息をとる。



その日、エレンはなかなか寝付けなかった。ファティーマ姫を求めるハリードの姿が目に焼き付いて離れない。
共に旅をするにつれて、エレンはハリードに惹かれていった。ハリードの強さや頼れる性格、がめついところも含めて、彼の全てに好意を持ってしまう。気づけばいつまでも一緒にいたいと望むようになっていた。
エレンはハリードが好きだ。だがハリードの方は、エレンが思うほど好意を持ってくれていないように感じた。そんな時に知ったファティーマ姫の存在。ハリードには想い人がいるのだ。生き別れの姫を今でもずっと想い続け、探し求めている。

エレンはファティーマ姫がどんな女性なのか想像してみた。かつてハリードは優しい女性が好きだと言っていた。王家に生まれ、厳しくしつけられた淑女。きっとさぞかし心優しく淑やかな女性なのだろう。王族なのだから高貴な気品のある人かもしれない。ハリードも王族なのだ。そんな女性が好きだというのも頷ける。そして相思相愛のハリードとファティーマ姫。生き別れになっても尚、相手を求め続ける。
そんな二人の間に入る余地はあるのだろうか。エレンは元々勝気な性格なのもあり、身分など気にせずハリードにぶつかっていった。恋をするのも初めてである。恋の駆け引きなど全く知らない彼女は自分なりのやり方でハリードに接していた。そんなエレンの恋敵は高貴な身分の優しい王女。男から見たら正に理想の女性。

エレンは急に自分に自信がなくなった。今までは自分の美貌に無頓着だったが、果たして自分は魅力的な女性なのだろうか。ファティーマ姫を上回るほどに?それは無理だろう。エレンはシノンの開拓民。ただの一般庶民の村娘である。元々王族のハリードとつり合う女ではないのだ。初めから。エレンは急に切ない気分になった。



夜中にレオニードの鋭い声で目が覚めた。

「三人とも起きろ!ハリードの様子がおかしい」

エレン、サラ、少年が目を覚ますと、ハリードが砂漠の向こうへ一人で歩いて行くのが見えた。

「ハリード!?」

エレン達が慌てて呼びながら追いかけても、ハリードは気づいていないようだ。一人で遠くへ行ってしまう。走っても走っても追いつけない。一体何が起きているのか。まるで蜃気楼のように近づくと消えてしまう。また遠くにハリードの姿が見える。その繰り返しである。



ハリードは砂漠の海を一人歩いていた。蜃気楼に包まれて幻が浮かび上がる。それはかつてのゲッシア朝ナジュ王国の懐かしい光景だった。砂漠の乾いた空気と照りつく太陽。国内を行き交う人々。かつてハリードに剣を教えた師匠がいる。王族の仲間達がいる。そして――ファティーマ姫が。

「姫……」

故郷への懐かしさと姫への愛おしさでいっぱいになる。だが、ハリードを見たファティーマ姫は悲しそうな顔をした。

『ハリード、こっちへ来てはダメ』
「何故です?姫、姫!」



「ハリード!!」

気がつくとエレンが後ろからハリードに抱きついている。ハリードが我に返ると、仲間達が心配そうにこちらを見ていた。エレンもサラも少年もレオニードも走ってきたらしく、息を切らしている。

「ハリード…行かないで…一人で行かないで…」

エレンはハリードに追いつこうと必死に砂漠を駆けていた。そしてやっと捕まえたのだ。しっかりと抱きついて離さない。ハリードは状況を把握しようとした。

「おまえ達……すまなかった。どうやら砂漠の見せた幻に捕らわれていたようだ」
「一体何が起きたの?」とサラ。
「砂漠の蜃気楼の為せる業か……」とレオニード。
「エレン、心配かけたな。すまなかった。もう大丈夫だ」

ハリードは必死にしがみついているエレンをなだめた。一体何が起きたのか、本当のところはわからない。砂漠で起きた謎の現象であった。

「ところでここは一体どこなんでしょう?」

少年がそう言うと、全員辺りを見回した。もうそこは砂漠ではなかった。


そこは――乾いた大河だった。


「砂漠を東へ行くと乾いた大河だ。流されると、もう戻ってこられなくなる」

ハリードは慌てて仲間を先導し、元の場所に戻ろうとする。しかし空を見上げても星が無い。太陽もまだ出ていない。方角がわからない。そうしているうちにサンディーヌという魔物が襲いかかってくる。それほど強い敵ではなかったので難なく撃破したが、その後、乾いた大河の流砂に流されてしまった。


もう戻れない。


ハリード達はなんとか西へ戻る方法を考え、彷徨い始めた。





諸王の都のイベント。四魔貴族の影よりこの諸王の都にいる黒のドラゴンルーラーの方が強いと思う…
ハリードとファティーマ姫、そしてハリードとエレンの話。
ストーリーとしては四つ目のアビスゲートを閉じる前に東方に行きます。理由はそうしないとツィーリン達の出番が少なくなってしまう為。
どういう経緯で乾いた大河の向こうへ行くことになったのか、独自のエピソードを考えてみました。



次へ
前へ

二次創作TOPへ戻る