乾いた大河に流されて戻れなくなってしまったハリード達。なんとかして元の場所に戻る方法はないか探る。乾いた大河の向こうは不気味な陽炎が漂う死の砂漠だった。ハリード達はひどく疲弊していた。砂漠の日差しは強い。どこか休める場所はないだろうか。そう思って砂漠を彷徨い続けると、水晶の廃墟を見つけた。輝く水晶が一面にあしらわれた、水晶づくりの廃墟。中はひんやりとして涼しそうだ。ハリード達は中に入ってみることにした。

「ここはおそらく、かつて魔王に滅ぼされた国の王の墓だろう」

レオニードはそう言うと、廃墟の美しい建築様式を見て賛美した。壁に埋められた水晶が美しく光り輝く。建物内は非常に涼しいのでしばらくここで休息をとりたい。だが、中にはモンスターがたくさんいた。砂漠の強い日差しからしばらく逃れられるだけでもいい。ハリード達は中を探索する。水晶龍が何匹かいた。落とし穴に落ちなければ行けない場所があった。無限に増え続けるスライムがいた。モンスターに囲まれている女性を発見したが、近づくとその女性もモンスターであった。
それほど強い敵がいたわけではないのだが、ハリード達の疲労は徐々に蓄積していった。結界石を使って休みつつ、先へ進む。

やがて、広大な草原に出た。水と食料にありつける場所を探して彷徨うハリード達。疲れも溜まっている。どこか休める場所がないか。しばらく進むと村を発見した。

「ここは草原の民、ムング族の村。それにしても変わった格好ね」
「キャハハ、ヘンなカッコ!」
「変な格好の人、休んでいかれるかね?」

変な格好だと言われるが、ハリード達から見ればこの村の住人達も見慣れない変わった格好をしていた。

「変な格好はわかった。それより休ませてくれ。くたくたなんだ」

ムング族の村で休ませてもらっていると、黒髪の女性と老婆がこちらへやってきた。やはり見たこともない髪型と服装である。

「私はツィーリン。この方はバイメイニャン老師よ」

黒髪の女性はツィーリン、老婆はバイメイニャンというそうだ。二人共ハリード達をしげしげと眺めている。

「こりゃ確かに西から来た人間のようだね。生きてるのが来たのは初めて見たよ。言葉はわかるようじゃな。一体ここへ何しに来た?」
「乾いた大河で流されて戻るに戻れずここまで来たんだ」
「まったく間抜けな話だね。しかしまあ、よく生きて辿り着いたもんだ。この村から東へ行くと玄城という町に出るんだが、あんた達が行けばたちまち捕まるよ。怪しすぎる。あたしにちょっと協力してくれれば玄城のヤン将軍に口をきいてあげてもいいよ。将軍もあたしの弟子だからね」
「何をすればいいんだ?」
「な~に、西のことを色々調べたいだけさ。特に術のことをね。色々と調べさせてもらうよ。ついでに、ネフト族の所へも行ってきてもらおうか。詳しいことは、その娘に聞きな。あの砂漠を越えてくるぐらいだ、役に立つじゃろう。リンリン、一緒に行くといいぞ」
「リンリンはやめて下さい!もう、そんな子供ではありません」

すっかり疲れ切っていたハリード達は、その日ムング族の村で一泊した。



少年が目を覚ますと、空は快晴だった。昨夜は疲労が溜まっていたのでぐっすり眠れた。青空を眺めながら少年はアビスゲートのことを考えた。最後の一つは南のジャングルにあるらしい。しかしそこへ行くにはまず西へ戻らなければならない。果たして戻れるのだろうか。東方の民族に会うことができたのだから、何か方法があるかもしれない。
そう思っていると雨が降ってきた。晴れているのに雨が降っている。変な天気である。すると、近くにいたサラが嬉しそうに起きた。

「うわあ、お天気雨だ!」

サラは嬉しそうに雨を見ている。

「私ね、お天気雨が好きなの」
「え?お天気雨が?」

こんな変な天気が好きとはよくわからない。少年は怪訝な顔をした。

「お天気雨の時は虹が綺麗に見えるんだよ。ほら、見て、あっち!」

サラの指さす方向を見ると、確かに綺麗な虹が見える。七色の光が円を描いて地上から天に上り、またどこかの地上へ向かって沈んでいる。普段見る虹より鮮やかだった。そうか、虹が綺麗に見えるからお天気雨が好きなのかと、少年は納得した。

しばらくすると、雨は止み、通常の晴れ間に戻った。そして皆でネフト族の元へ向かう。ムング族のツィーリンという女性が案内役だ。

「草原の南にはネフト族という虫の姿をした部族がいるの。彼らとは言葉は通じないけれど、今まで大きな争いも起こさずに共存してきたわ。老師の術でネフト族と話し合いをしようとしているのよ。このサイコメットというかぶとでネフト族と言葉が通じるらしいわ。草原の南からネフト族の住みかへ行けるわ。では、行きましょう」

ネフト族の住処へ行き、サイコメットを使って話し合いをしようと試みる。

「われわれの住みかはアビスの者に侵入されています。話し合いどころではありません」
「アビスの者か。そいつらを倒せばいいんだな」
「ハリードさん、あれはどうやらゼルナム族のようです。ゼルナム族というのは草原の北からやってきた得体の知れない部族です。何の理由もなく攻撃してくる連中よ」

ツィーリンが指した方向を見ると、サメのような乗り物に乗った部族がいる。ハリード達はゼルナム族を倒した。ドラゴンルーラーにも勝利したハリード達にとってそれほど手強い敵ではなかった。その後、再びネフト族と話し合おうとする。

「われわれはこの草原で人間と共存してきました。草原の平和の為にあのアビスの者と戦いましょう。ところで、あなた達は西から来たのですね。600年前、魔王の手によって東の国々が滅び、生き残った人間達がこの地方へやってきました。それ以来、西からやってきた人間はいません。何かが起こる前触れでしょう。アビスの者は草原の北からやってきます。そこに、何かがあるのです」

話し合いが終わると、ハリード達はムング族の村に戻った。バイメイニャンに報告する。

「ネフト族とは話がついたようじゃな。ゼルナム族というのは最近現れたのじゃ。ムング族はゼルナム族と呼んでいるが、あれはアビスの魔物じゃ。何かとんでもないことが起こっているのではなかろうか……まあよい。玄城のヤン将軍には話をしておいた。東の町を見てみるといい。あたしはゼルナム族について調べてみよう」

その日、ハリード達はまたムング族の村に泊まることにした。明日、玄城へ向かうつもりだ。今回行動を共にしたツィーリンはハリード達に興味津々で、夕餉の時、しきりに西のことを聞きたがった。

「ねえねえ、西はどんなところなの?私、何も知らないの。きっと今まで見たことも聞いたこともない世界なんでしょうね」

ハリードパーティーの中で一番旅をしているのはハリードである。西の諸国について話してやった。エレン達も今までの旅のことを話す。ツィーリンは一生懸命想像力を働かせながら聞いていた。

「ああ、西の世界…実際に行ってみたいわ……」
「というか、ここから西へ戻れるのか?」
「あの乾いた大河や死の砂漠以外のルート?どうかしら?でも安心して。私や老師、ヤンファンが探してあげる」

ハリード達は果たして西へ帰れるのか不安になった。

「明日は玄城へ行ってヤンファンに会うのね。ヤンファンは頭脳派の将軍でとっても頭がいいのよ。体術の心得はあるけど、あんまり肉体派じゃないのよね。私とヤンファンはバイメイニャン老師を師とする、兄妹弟子のようなもの。小さい頃からよく知ってるわ」
「あのバイメイニャンとかいう婆さんは相当な術の使い手のようだな。それに、老師と仰ぐのには、それだけの理由ではなさそうだな」
「老師は東の国随一の術使い。東の国に知らぬ者はいないと言われるほど有名なのよ。年齢はかなりお歳のはずだけど元気でいらっしゃるわ。いつも術の研究に没頭しているの。老師はただ術使いとして有名なだけじゃないわ。ネフト族、玄城に駐在する東の国の人々にも一目置かれた存在で、これらの諸国に暴挙を繰り返すゼルナム族打倒を呼びかけているの。外交官的な役割をも担っていらっしゃるのよ」

どうやらバイメイニャンは東の国にとって相当重要な人物であるようだ。これからどうなるのか皆目見当がつかない。西へ戻れることを願いつつ、その日、ハリード達は眠りについた。



翌日、玄城へ向かうハリード達。ムング族の村もそうだったが、まるで別世界を思わせるような造りの町だった。人の服装も建物も、全てが西とは違った。しかし呑気に町を見回している暇は無かった。玄城に入るとたちまち兵士達に捕まってしまったのである。バイメイニャンは話をしておいたと言っていたはずだが……この土地では右も左もわからない。抵抗するのも得策ではないと判断したハリードは大人しく捕まることにした。

「報告通りに怪しげな連中だな。私は帝よりこの町を預かるヤンというものだ。いくつか聞きたいことがある。正直に答えるように」

どうやらこの男がヤンファンのようだ。しかしバイメイニャンの話が通っていないようだが……ハリードはヤンファンの質問に答えつつ、ここまで来た経緯とバイメイニャンのこと、ツィーリンのことも話してみたが、取り合ってもらえない。

「にわかには信じ難い話だな。とりあえず牢へ入れておけ!」
「おい、ちょっと待て!」

問答無用で牢屋へ閉じ込められてしまった。

「困ったわね。こんなところで捕まってる場合じゃないのに」
「落ち着け、エレン。しばらく様子をみよう」





さりげなく一気に水晶の廃墟攻略。
練磨の書によるとサラはお天気雨が好きなのだそうです。
東方のイベントはゲーム中のセリフなどを参考にして書きました。



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