ハリード達が東方にいる頃、トーマスはピドナへ戻り、トレードの続きをしていた。アビスリーグはまだ壊滅していない。トーマスは独自の情報網でいろんな情報を集めていた。そして、あれからハリード達が行方不明になったことを知ったのである。神王の塔での一騒動を思い出す。その後ハリード達はどうなったのだろうか。リブロフやピドナへ戻った形跡がないようだ。砂漠からいずこかへ姿を消した?トーマスは不安になった。サラのことを思い出す。トーマスにとってサラは何かと心配になる存在だった。エレンとはまた違った形でサラを常に気にかけていた。ハリード達はアビスゲートを閉じる旅をしている。残る一つは南方のジャングルにある。ジャングルに向かっているのならいいのだが……



ロアーヌではミカエルが相変わらず施政を行っていた。今は外交に力を入れている。今度はランスとの外交を成立させようとしていた。そして、『影』に国を任せてお忍びの旅にも出ようとする。そこでミカエルはカタリナを誘った。

「カタリナ、そなたも同行せよ」

聖剣マスカレイドは代々ロアーヌ候妃に授けられる。そのマスカレイドをカタリナに授けたのはミカエルの父。この事実に気づいてから、ミカエルは何かとカタリナをそばに置くようになった。今となってはモニカはいない。カタリナがミカエルに直接仕えるようになったところで何も不思議はない。ミカエルはカタリナのことをどこまでどう思っているのか、その冷徹な表情からはうかがい知れない。カタリナは憧れの人のそばに仕えることを内心嬉しく思い、だが二度と失態は犯さぬように心していた。
ミカエルはランスに赴き、ロアーヌとの外交をまとめた。そしてアビスゲートについても調べる。残るゲートはあと一つだが、果たしてそれで終わりなのか。言いようもない不安があった。

ミカエルがランスにいる時、ちょうどトーマスと居合わせた。トーマスはトレードで世界各地を駆け回っている。トーマスはハリード達が行方不明になっていることをミカエルに告げた。

「あの後、何かがあったのだろう。ハリード達に万が一のことがあれば誰か別の者がアビスゲートを閉じなければならん。トーマス、そなたは南方のジャングルを探してくれ。ハリード達がいないかどうかと、魔炎長アウナスの火術要塞がどこにあるか突き止めるのだ」
「はい!」

その後、ミカエルはロアーヌに戻ることにした。必要となれば自らアビスゲートを閉じることも考えていた。



ここはウィルミントン。ユリアンパーティーはこの街でゆっくりしていた。ユリアンパーティーはユリアン、モニカ、詩人、タチアナ、雪だるま、ポールの六人。彼らはフルブライトが所持する別荘の一つに住まわせてもらっている。モニカはこの穏やかで平和な暮らしを充実させていた。モニカは読書が趣味である。別荘にあった本や新しい本を入手しては読みふけっていた。

「モニカ、町の人達から果物をもらったよ。ほら、モニカは柑橘類が好きだったろう?」
「まあ、ユリアン、ありがとうございます」
「ねえねえ、柑橘類ってな~に?」タチアナが尋ねる。
「要は蜜柑だよ」
「なあ~んだ」

彼らは至って平和な時を過ごしていた。ユリアンとモニカはここの生活に満足しているようだったが、他のメンバーはそうではなかった。

「ねえねえ、ここでゆっくりしてるのもいいけどさ、たまには冒険にも行きたいよー」とタチアナ。
「そうなのだー。冒険にも行きたいのだー」と雪だるま。
「俺もだ。冒険者として土産話を持ち帰れるくらいのことをやらないとキドラントに帰れない」とポール。
「おやおや皆さん、仕方ないですねえ。それでは私が何か情報を集めてきましょう」

詩人がそう言った時、ちょうどトーマスが訪ねてきた。そしてハリード達が行方不明になったことを知る。

「俺達の知らない間に神王の塔でそんなことがあったのか…」
「ユリアン、俺はこれから南のアケへ向かう。まだアケでトレードをやってないんだ。あそこにもアビスリーグに加盟している物件がある。そしてアウナスの火術要塞の場所を探そうと思ってる。ハリード達ももうジャングルのどこかにいるかもしれないからな」
「そうか。そういえばグゥエインはどこかへ飛んで行ったと思ったら帰ってきたみたいだな。トム、おまえの話だとグゥエインはハリードを乗せて神王の塔へ行ったんだろ?ハリード達があれからどうなったか何か知ってるだろうか」
「そうだな。じゃあユリアン、おまえはルーブ山地へ行ってグゥエインにハリードのことを聞いてきてくれ」

ユリアン達はグゥエインのところへ行くことにした。そしてトーマスはアケへ向かう。

アケ。ジャングルの海岸線付近にある原住民の村。トーマスはここでトレードをやりつつ、情報収集をする。

「ジャングルには妖精の住んでいる所があるよ」
「ジャングルの妖精は人をだまして喜ぶんだ」
「ジャングルの奥地にはアビスの魔炎長アウナスの火術要塞が廃墟となって眠っているはずです」

村人から情報を集めると、トーマスはジャングルへ向かった。

ジャングルは非常に蒸し暑く、見たことも無い動植物がたくさんある。複雑に入り組んでおり、どこにいるのかわからなくなってくる。モンスターと戦わなければならない上に元に戻れない。そんな風に迷っていると、ジャングルの中に妖精の村を見つけた。ここで一休みするとしよう。アケの住人が言うにはこのジャングルの妖精は人をだまして喜ぶいたずら好きのようだが…妖精達に話を聞いてみる。アウナスの火術要塞の場所を知っているようだが、それぞれ言っていることが違う。ある同じ色の蝶を追っていくと火術要塞へ辿り着くらしいのだが、蝶の色がバラバラである。どの色の蝶が正しいのか。妖精は悪戯っぽく笑うばかりで本当のことは教えてくれない。

トーマスパーティーは現在トーマス、シャール、ミューズ、フルブライト、本物ロビンのライムの5人である。妖精のいたずらに引っかかるのは主にロビンだった。

「蔦を登って行くと雲の上の世界へ出られるわ!」
「何?本当かい?」

妖精の言うことを信じたロビンは蔦を登って行った後、地面まで真っ逆さまに落下した。

「その窓からジャンプすると、空中にある隠れた宝が取れるのよ」
「本当かい?」

妖精の言うことを信じたロビンは窓からジャンプし、見事に下まで落下していった。妖精達は楽しそうに意地悪く笑っている。

「ティーはいかが?」
「まあ、美味しそうなお茶」
「ミューズ様いけません。きっとまた何か悪さをするつもりなんですよ」
「チェッ」

トーマスもフルブライトも悪戯好きの妖精が淹れたお茶は飲もうとしなかった。ミューズが無警戒に飲もうとしたが、シャールに押しとどめられた。ロビンは試しに飲んでみたが、案の定、

「わ~い、ひっかかった ひっかかった!」
「ロ、ロビン、大丈夫か?」

ロビンはしばらくぐったりして動けなかった。

トーマスは妖精達を眺めた。この間グレイトフェイクショーの見世物小屋に捕まっていた妖精と同じ種族のようだが、あの妖精もどこかにいるのだろうか。そう思って探していると、村の奥の方にあの時助けた妖精がいた。

「この間はお礼も言わないで、ごめんなさい。逃がしてくれてありがとう。お茶をご馳走するわ。安心して。恩人には変なもの淹れたりしないから」

この間助けた妖精の部屋で、トーマスパーティーはお茶をご馳走になった。変なものが入ってさえいなければ、妖精の淹れたお茶は非常に美味であった。トーマスはアウナスの火術要塞を探していることを話した。

「正解は白い蝶。白い蝶を追っていくと、アウナスの火術要塞へ行けるわ!」
「そうか。ありがとう」
「ねえ、私も連れて行って。私は昔から好奇心旺盛で、人間の世界にも行ってみたいの。この間は人間の仕掛けた罠にハマって捕まってしまったけれど、あなた達みたいないい人間と一緒に旅をしていれば大丈夫よね?」

トーマス達は顔を見合わせた。ミューズは嬉しそうである。喜んで仲間にしようとする。妖精を連れていたらさぞかし目立つだろう。しばらく考えた結果、妖精を仲間に加えることにした。

「よろしくね!!」

その後、トーマス達はジャングルでアウナスの火術要塞の場所を探る。妖精の言う通り白い蝶を追って行くと要塞を発見した。中には四魔貴族の一人魔炎長アウナスがいる。場所を確認すると、ひとまず戻ることにした。
ジャングル内での戦闘で妖精は早速かなりの戦力を発揮した。

「大車輪!無双三段!流星衝!」

その強さはトーマスもシャールも顔負けである。

「あの………妖精くん……君は随分強いんだね」
「ええ!私の宿星は太白、武人の星よ!向かうところ敵なしなんだから!」

見かけからは想像もできない強さを見てトーマス達は圧倒されるのであった。



一方、ルーブ山地へ向かったユリアンパーティーはグゥエインにハリード達が行方不明になったことを伝えた。

「そうか………ハリードは我が戦友だ。わかった。我が探しに行こう」

黒き竜は空高く舞い上がり、大空を巨大な翼で飛んで行った。ハリードと最後に別れた神王の塔付近から探すつもりであった。





妖精はトーマスパーティーに入れることにしました。火術要塞の場所をつきとめるまではトーマスにやってもらいます。
ミカエルは施政イベントの外交をやっています。ハリードは東方にいる間、西では行方不明ということに。
練磨の書によるとモニカの趣味は読書、好きなものは柑橘類だそうです。



次へ
前へ

二次創作TOPへ戻る