ハリードパーティーと東方のツィーリン、バイメイニャン、ヤンファンは、西へ行く為に大草原からねじれた森へ向かっていた。すると象の町を見つけた。正確には象人間の町である。ハリード達は唖然とした。

「な、何だここは?」
「象の町か…北の地には雪だるまの町があったし、西の果てにはロブスターの島があったし、東に象の町があってもおかしくないか」
「えっ!?ちょっとハリードさん!私そんな話聞いてないわよ。西にはそんな変わった生き物がいるの?」とツィーリン。
「おや、こんなところに旅人とは珍しい。ここはラシュクータという町ですよ」

象人間の一人が挨拶してきた。とりあえずハリード達はラシュクータの町を探索してみることにした。

「わあ、象さんがいっぱい」とサラ。
「過去の文献によると、見捨てられた地の中央部には未知の者が住むという話があったが……これは興味深い」とレオニード。

ラシュクータの文化はハリード達西方のものとも、ツィーリン達東方のものとも違い、また独特であった。

「私達は何も考えていないように見えるかも知れませんが、いろいろ大変なんですよ」
「私達はな~んも考えてません。ハハハハ」
「私達は魔王の呪いでこういう姿になってしまいました」
「私達は象族。昔から象です」

象によって言うことが違う。一体どっちが本当なのか。不思議な象達に困惑しながらも町の中を探索する。

「十五年ほど前、腐海のそばで赤ん坊を拾ったのだ」
「何だって!それは宿命の子じゃないのか!」

ヤンファン達は血相を変えた。ハリード達も思わず少年を見る。

「少年、おまえ…」
「…ごめんなさい…僕…小さい頃のことはあまり覚えてないんです」
「どういうことじゃ?」

少年が宿命の子だということはハリードパーティーは全員知っていた。サラのことはまだサラと少年だけの秘密にしており、レオニードが密かに気づいていた。しかし今回ハリード達についてきたツィーリン達は何も知らされていない。バイメイニャンはどういうことか説明しろとハリード達に要求した。

「そうじゃったのか。おまえが宿命の子か。随分と気の弱そうな子じゃのう。とても魔王や聖王になるとは思えんわ」

バイメイニャンにそう言われると、少年は俯いてしまった。

「で、そこの象が言うには十五年前にこの辺で赤ん坊を拾ったということだが」
「ああ、そうだよ。赤ん坊は男の子だった。その子はすくすくと成長したよ。ところがある日、腐海の城のモンスターにさらわれてしまったのだ。兄貴がすぐに取り返しに行ったんだが……あれ以来兄貴は眠ったままだ」

おそらくその男の子の赤ん坊は少年のことだろう。少年に聞いてももう覚えていないという。ずっと眠りっ放しという象の兄貴のところへハリード達は向かった。ベッドの横に少年が立つと不思議な光が放たれた。そして象の兄貴は起きた。

「ここはどこだ?俺は……あの子はどうした!……君は一体誰だ……」
「兄貴!兄貴が起きた!あれから十五年も眠ったままだったんだぞ!」
「そうか、そんなに寝ていたのか。ありがとう、君のおかげだ。ひょっとして君は……」
「僕にはわかりません……」
「とにかく、ありがとう」

象の兄貴は寝すぎたと言って身体を動かしていた。

「兄貴も元気になったし、俺は出かけるか」
「待て、弟よ、話がある」

象の兄弟は十五年ぶりに話をした。

「弟よ、十五年前あの子を取り返しに腐海の城へ行った時、俺はモンスターに呪いをかけられた。モンスターは宿命の子でなければ解けない呪いだと言っていた。何故そんな呪いを俺にかけたのかわからないが、呪いをかけられた俺は眠りっ放しになってしまった」
「じゃあさっきの男の子が宿命の子に間違いないんだな」
「ああ。そこで頼みがあるんだ。弟よ、俺の変わりにあの子のそばについてやってくれ。俺はずっと寝たきりだったからすっかり身体がなまってしまった。宿命の子には何が待ち受けているかわからん。俺にとってはあの子は自分の子供同然なんだ。あの子を守ってやってくれ」
「そうか、わかった」

弟の象は簡単に説明し、ハリードパーティーに加わることにした。

「象と一緒に旅をしていたら目立つな。雪だるまよりましか」
「どっちも変わらないわよ」とエレン。

一方、少年は象の兄弟にどうしていいかわからなかった。赤ん坊の頃の記憶は既に無い。しかし象兄弟からはまるで我が子に対する暖かい情を感じた。今まで関わった者が全て死んでしまうという苛酷な運命の元、孤独に生きてきた少年は目頭が熱くなった。ハリードは少年に関して、宿命の子についてもう少し何か手がかりが欲しいと思った。

「腐海の城に行ってみるか?少年が昔さらわれた場所なんだろう」
「西の腐海の中の廃城は俺達象の城だったとも言われている。俺が案内しよう」

腐って変色している湖の中央に立つ廃墟。中にはモンスターが徘徊しており、一見すると通れそうで通れない場所があった。中を探索すると、思いの外、お宝がたくさんあった。少年についての手がかりは結局何も無かったが、お宝が手に入ったという点で収穫はあった。最後に一番奥の宝箱を取ると、巨大なドラゴンが襲いかかってきた。それは緑色のドラゴンルーラーだった。諸王の都にいた黒のドラゴンルーラーも手強かったが、こちらもなかなか手強い。ドラゴンルーラーとは『竜を統べる者』。強いのは当然であろう。緑のドラゴンルーラーはとにかく猛毒ガスが強力だった。全体に何度も何度も強力な猛毒ガスを吐いてくる。テラーボイスも使って味方を混乱に陥れる。
諸王の都にいた黒のドラゴンルーラーはハリード達五人で戦ったが、今回はツィーリン、バイメイニャン、ヤンファン、象もいる。緑のドラゴンルーラーも手強かったが、無事倒すことに成功した。腐海の廃墟のお宝を全て回収したハリード達はラシュクータへ戻った。



その日はラシュクータで休むことにした。パブでは象達が宴を開いてくれた。ラシュクータ独自の料理と酒をご馳走になる。酒に酔っていい気分になったハリードは久しぶりに歌を歌いたくなった。ハリードの歌はプロ並みである。ゲッシア朝に古来から伝わる歌を歌い始める。今は無き祖国。神王教団。生き別れのファティーマ姫。心のどこかで割り切れない思いを抱えながら、ハリードは歌った。歌は象達に好評だった。

「いい歌だ。他の国の歌は初めて聞きましたよ。それでは今度は私達がこのラシュクータの歌を歌いましょう」

パオ~♪ パオパオパオ~♪

心の底に哀愁が漂っていたハリードの気分は見事にぶち壊しになった。象達の歌は全く違う曲調である。その後、象達に囲まれながら、ハリード達はラシュクータで楽しい夜を過ごした。



事件は翌日に起きた。アビスの魔物がラシュクータに大量に押し寄せてきたのだ。おそらく目的は宿命の子であると思われた。ハリード達の旅でも今まで何度か起きている。象達もモンスターの目的が宿命の子だとわかると少年を守ろうと勇敢に戦い始めた。ハリードも少年を戦わせるより安全な場所へ避難させようとした。

その時だった。

巨大な鳥のモンスター、グリフォンが一緒にいたサラと少年をかぎ爪で掴み、あっという間に飛び去って行った。

「サラ!少年!」

エレンは少年だけでなくサラまでさらわれたことにパニックになった。ツィーリンが弓で射落とそうとするが、グリフォンに届かない。ここにいるのは空を飛ぶことのできない人間だけである。

「くそっ!こんな時にグゥエインがいれば!」

ハリードは舌打ちした。ハリード達とラシュクータの象達は集まった。この地を下手にうろつくのは非常に危険である。手分けして探すにしても、必ずラシュクータの象達と一緒に行動することにした。グリフォンが飛び去ったのは北の方向である。ハリード達は落ち着いて北の地へ向かった。





ラシュクータの象の兄貴が眠ったままで、サラか少年がいると起こすことができます。私なりに推測しオリジナル設定を考えた結果、象の兄貴は宿命の子でないと解けない呪いをかけられていたということにしました。だから少年ではなくサラでも兄貴を目覚めさせることができるのだと思います。

次回はまたしても完全にオリジナルの話です。もちろん宿命の子についての独自の設定の為、必要なエピソードです。



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