巨大な鳥のモンスター、グリフォンにさらわれたサラと少年。少年はなんとか逃れようとする。見ると、大木を発見した。少年はなんとか刃物でグリフォンを斬りつけた。グリフォンは暴れる。少年は細心の注意を払ってサラを抱え、グリフォンから逃れた。そして大木の枝に飛び移る。グリフォンはまだ襲いかかってくる。木の枝の上のバランスの悪い場所での戦い。落ちないように気をつけながら少年は刀で斬りつけ、サラは弓で攻撃した。なんとかグリフォンを倒すことに成功すると、二人は大木から枝を蔦って下に降りた。

「サラ、大丈夫かい?怪我は?」
「大丈夫よ。それにしても……ここはどこかしら?」

二人は互いの無事を確かめると辺りを見回した。ここは見捨てられた地と呼ばれる場所の北部である。風が身を切るように冷たい。動植物もほとんど見当たらず、荒廃した、寂しい土地であった。この場所からラシュクータまで戻るには一体どうしたらいいのか。考えあぐねているうちに空模様が怪しくなってきた。昼なのに空は真っ暗になり、雷雲が立ち込めてきた。ゴロゴロと雷鳴が轟く。稲光が走ったかと思えば大きな落雷の音が響き渡った。

「キャーッ!!!!!」
「サラ!」
「私、雷が怖いの」
「サラ、安全な場所を探そう。大丈夫だよ、僕がついてるから」

少年は怖がっているサラを抱き寄せながら、どこか避難できる場所を探した。手ごろな洞穴を見つけると、二人はそこでしばらく身を隠すことにした。天気はひどい雷雨である。雷鳴と落雷の音が何度も響く。そのたびにサラは怯えた。少年はサラをしっかりと抱き寄せた。好きな少女と二人きり。少年はドキドキした。



やがて、雷雨はおさまった。しかし空はどんよりとして薄暗い。寂しい風が吹きすさぶ。

「ここからラシュクータへ戻るにはどうすればいいんだろう…ハリードさん達はきっと僕達を探してる。なんとかみんなのところへ戻らないと」
「そうね。きっとお姉ちゃんはとても心配してるわ」
「僕達は宿命の子。でも宿命の子って普通の人とどこが違うんだろう。僕達は一体何ができるんだろう。アビスゲートだって僕達でなくても閉じることができるんだ。宿命の子って何かすごい力を持ってるんだろうか」
「そういえば……」

かつての宿命の子は魔王となり、その次の宿命の子は聖王となった。しかし、何か特別な力を持っていたのかどうか、詳しいことはわかっていない。少年は、もし宿命の子として特別な力があるのなら、その力を仲間の元へ合流することに使いたかった。この死の風が吹きすさぶ空しい土地から仲間達のいる場所まで戻りたい。

その時だった。またしてもアビスの魔物達がサラと少年を見つけ、襲いかかってきた。今度は未だかつてない大軍である。何千、何万という数である。無数のモンスター軍団。とても二人では戦って生き延びることは不可能である。このままアビスの手に落ちるしかないのだろうか。

「宿命の子…宿命の子…その力を解放せよ……その身に宿る死の宿星の力を放つのだ……!!」

グロテスクなモンスターの大群がサラと少年の周りにどんどん群がってくる。皆、ぎょろりとした目つきで二人を見てくる。おぞましさに思わず身震いしてしまう。

「うわあああっ!!!!!」
「きゃああああっ!!!!!」

二人は自分でも何をやったのかわからなかった。窮地に追い込まれ、宿命の子としての力を使ったのだけはわかった。凄まじい光が放たれた。その光は空高く雲の上まで突き抜け、その場所から広範囲に渡って広がった。それだけの凄まじい光は当然ハリード達の目にも止まる。

「何だあれは?」
「あそこへ行くぞ!」



サラと少年が気がつくと、モンスターの大軍は全て死滅していた。何千、何万といたはずのモンスターが一瞬にして死んだのだ。無数の死骸が二人を中心に横たわっていた。それだけではなかった。この見捨てられた地の北部は、二人の力により徹底的に破壊されていた。わずかにいた動物も、ひそやかに生えていた植物も、全て死んでいた。累々たるモンスターの屍の山、わずかにいた動物の死骸、わずかに生えていた植物の無残な姿。地面も肥沃な大地と比べると不毛で、土地全体がまるで生気がない。死んだようになってしまった。虚しく冷たい風が吹きすさぶ。空もどんよりとした曇り空。薄暗く、死の世界が果てしなく広がっていた。サラと少年は恐怖に慄いた。

「こ、これが宿命の子の力……」
「僕ら宿命の子二人の力が合わさったら、アビスも世界も、何もかも破壊してしまう」

宿命の子二人の力が合わさるとどうなるかを知って、サラと少年は絶句した。

サラと少年はしばらく放心状態だった。

「僕らは世界を滅ぼす存在なんだ…全てを破壊してしまう…」

宿命の子二人の力の破壊力は絶大だった。ここは見捨てられた地だったからいいようなものの、これが西の大都市だったらどれだけの人々の命が失われたか。それを思うとぞっとする。

「……でも待って。この力をコントロールして、破壊ではなく創造に使えないかしら……きっと魔王はこの力を破壊に、聖王様は創造に使ったのよ。私達もこの力を使いこなして創造に使おうよ、ね?」
「そ、そうか!やってみよう!」

サラと少年は必死になって宿命の子としての力を使いこなそうとした。うまくコントロールし、創造に使うのだ。しかし、力がコントロールできない。暴走した力は見捨てられた地を駆け巡る。二人を探しているハリード達はその凄まじい力に目を瞠った。

「お、おい、見ろ!」

宿命の子二人の力は全てを破壊していった。木々も川も全て無くなっていく。ラシュクータ周辺のねじれた森もあっという間に消滅した。見捨てられた地には何も無くなった。そして……

「ミカエル様、大変です!東の土地に異変が起きております!」
「一体何事だ?」
「今まであった森や山が全て消滅しました。現在東の土地は何も無い平坦な状態になっております。様子を見に行かれますか?」
「うむ。直ちに軍を率いて調査に向かおう。皆の者、慎重には慎重を期す。警戒は万全にせよ」

ロアーヌではミカエルが東の異変について報告を受けていた。そして何も無い平坦な土地になった東方の調査に向かった。そして……

「ヤンファン様!」
「玄城の者ではないか!どうやってここへ……」
「大変です!大草原からここまであった地形が何らかの力により破壊されました!現在ここは何もない平坦な地形になっております。今となっては玄城から大草原を通ってこのラシュクータという町まで何の障害もなく来ることができます!」
「なんと!一体何が起きたのだ……」

ハリード達は西へ戻る方法を探していた。そしてその西へ戻る道筋は、サラと少年の力によって地形が破壊され、何も無い状態になってしまったのである。ラシュクータから西には遠くロアーヌが見える。東には大草原が広がり、遠く玄城が見える。



「ダメだ!力がコントロールできない!このままじゃ本当に世界全てを破壊してしまう!」
「どうして……」

強大な破壊の力に絶望するサラと少年。そこへハリード達がやってきた。

「サラ!少年!二人共無事か!」

二人は身を寄せ合い、震えていた。駆け寄るハリード達。サラと少年の様子が明らかにおかしいが、とにかく二人を介抱する。

「ハリード、俺の家へ連れて行こう。あそこには兄貴もいる」

象がそう言うと、ハリード達はラシュクータへ戻り、象の兄貴の家で休むことにした。



その後のラシュクータは大騒ぎだった。東からは玄城の使者が、西からはミカエル率いるロアーヌ軍がやってきたのだ。皆、あまりのことに戸惑うばかりである。見捨てられた地が何かの力により徹底的に破壊された。何も無くなった結果、東と西の土地を行き来することが可能になった。それで玄城の者は西へ、ロアーヌのミカエルは東へ向かえば象の町を発見する。象の町ラシュクータの人々も、東西の人々の応対とこの土地がどうなったのか、現状把握に必死だった。そんな中、ハリード達はサラと少年を介抱してラシュクータで休んでいた。そこへミカエルと合流する。

「ハリードではないか!西では行方不明になっているぞ。何故このようなところにいるのだ?」

ハリードはしばらくミカエルと話し合った。神王の塔で別れた後どうしていたのか。

「そのようなことがあったのか……しかし見捨てられた地と呼ばれる東に人がいたとは……」

ハリードはミカエルと話をすると、東方のツィーリン、バイメイニャン、ヤンファンとミカエルを引き合わせた。そしてミカエルとヤンファンは東西の国交を今後どうすべきか話し合い始める。仲介にはラシュクータの象達が入ることになった。

「……なんだか大変なことになっちゃったわね……」
「エレン、サラと少年の様子はどうだ?」
「とても怖い思いをしたのは確かだけど、二人とも何も言おうとしないわ」
「随分込み入った事態になったが、これで西へ帰ることができる……ん?」

空を見上げると巨大な黒い影が現れた。グゥエインである。

「ハリード、こんなところにいたのか。無事ならばそれでよい。我に乗れ。空からこの土地を見てみろ」

グゥエインは友の無事を知り安堵し、ハリードも再会を喜んだ。上空からこの土地を見てみる。見事に何も無く平坦になっている。今後は東西で人々が行き来するようになっていくのだろうか。しかし一体何が起きたのか、どうも腑に落ちない。サラと少年が鍵を握っていると思われるが、二人とも怯えたまま何も語ろうとしない。まずは二人を落ち着かせ、西へ戻ろう。ハリードはそう決めた。

一方、レオニードは……

(あれはおそらく宿命の子二人の力……見捨てられた地が破壊され、東西の交流のきっかけになるとはな……此度の宿命の子は二人……これは一体何の前触れなのか……魔王と聖王の時代とは違う何かが起きつつある……)

ハリードについて旅をし、この世の行く末を自ら見ようと仲間に加わったレオニード。長久の歳月を生きる彼は何らかの大きな前兆を感じた。未だかつてない大きな出来事が起こる予兆を。









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