無事に西へ戻ることができたハリード達はしばらくロアーヌに滞在していた。今までの旅の疲れを取り、ゆっくり休む。サラと少年もしばらく休ませ、落ち着かせる必要があった。ハリード達と共に西へやってきたツィーリン、バイメイニャン、ヤンファンはロアーヌ候ミカエルに会いに行った。東方と西方の今後の国交について話し合う。その合間にツィーリンはロアーヌの町を見て回った。前から西へ行ってみたいと思っていた彼女は目を輝かせて西の町を散策する。時にはヤンファンを無理やり引っ張って付き合わせた。

「西の国ってこんなところなのね!見て見てヤンファン!人々の服装も建物の建築様式も、東とは何もかもが違うわ!」
「ツィーリン、私はまだミカエル候と話が……」
「そんなの老師に任せておけばいいじゃない!さ、行きましょ!」

ヤンファンの都合などお構いなしにグイグイと引っ張っていくツィーリン。東西で全く文化が違う。未知の世界にツィーリンは好奇心いっぱいだった。東方の民である二人はロアーヌの町で非常に目立った。皆の注目を浴びる。ツィーリンは好奇心旺盛に西の国の食べ物や店に売っている品物などについて尋ねていった。ヤンファンとツィーリンが二人で歩いていると、無邪気な子供が話しかけてきた。

「ねえねえ、お兄ちゃんとお姉ちゃんは恋人同士なのー?」
「なっ!?何を言うんだ。私達は兄妹弟子だ」
「兄妹弟子ってなあに~?本当の兄妹とは違うの~?」

子供に一生懸命兄妹弟子について説明するヤンファン。そして時々店の店員や商人にも恋人と間違われて冷やかされるのに戸惑った。真面目に誤解だと言い続けるヤンファンにツィーリンは眉をつり上げた。

「なあに?ヤンファン、私と恋人に間違われるのがそんなに嫌なの?」
「い、いや、そういうわけでは……」

ヤンファンはしどろもどろになった。こういうことで女性に睨まれるのも困る。ヤンファンは将軍としては頭脳明晰だが、女性とのやり取りが得意な方ではなかった。



ロアーヌでは、マスカレイドを取り戻したカタリナが、今まで以上に忠義を尽くしてミカエルに仕えていた。剣の稽古も一日たりとも怠ることがない。今日はウォードに手合せをしてもらっていた。
現在、ミカエルのパーティーにはウォードと偽ロビンのトラックスが加わっている状態である。
カタリナとウォードは共に大剣使いである。そして二人共、相当の手練れだった。

(ウォード……流石はミカエル様の遠縁……強いわ)
「姉ちゃん、なかなかやるじゃねえか。流石はマスカレイドを授けられるだけあるな。今日のところはこれくらいにしておこうぜ」

ウォードが剣をおさめたのでカタリナもそうした。

「よー姉ちゃん、剣の稽古もいいが、たまには女らしい趣味もやりなよ。おっと、余計なお世話だったかな」
「……」
「そういえばミカエルは文武両道な美人が好みらしいぜ。完璧主義なあいつらしいが、全く贅沢だぜ」

カタリナは内心動揺した。ミカエルの好みのタイプなど今まで聞いたこともない。どうやらウォードはミカエルと相当親しいようだ。ウォードはカタリナの様子を見て、ミカエルに想いを寄せていることに気づいた。カタリナは恋心を隠すのが得意な方ではなかった。

(ま、いいんじゃねえかな。カタリナの方もミカエルに気があるなら)

その時である。ノーラが息せき切ってやってきた。

「カタリナ、大変だよ!仲間達が拉致されちまったんだ!」
「え?」

カタリナはしばらく硬直していた。ウォードも黙っている。

「ちょ、ちょっと待って、ノーラ、一体何があったの?」
「あの東から来たバイメイニャンとかいうお婆ちゃんがウンディーネ達を連れていっちまったんだよ!西の術について教えろとかなんとかいって」

現在、カタリナパーティーはカタリナ、ノーラ、ウンディーネ、ボストン、ブラック、それに神王の塔から帰る途中でティベリウスが加わっている。この内、術を使えるウンディーネ、ボストン、ブラック、ティベリウスがバイメイニャンによって拉致されてしまったというのだ。

その頃、ミカエルも臣下からバイメイニャンの暴挙に関する報告を受けていた。

「ミカエル様、あのバイメイニャンという老婆ですが、ロアーヌの術士を見つけては片っ端から拉致しています。西の術について知りたいだけのようですが、捕まった術士は皆ひどい目に遭ったと訴えています」


その後、カタリナは慌ててバイメイニャンの元へ行った。ウンディーネとボストンは何事もなかったように座っているが、ブラックとティベリウスは必死に抵抗していた。

「ソーンバインド!」
「コラァ!婆さん、離せ!俺の蒼龍術はもういいだろ!いい加減解放してくれ!俺はあの怪傑ロビンとかいう奴の作った酒が飲みたいんだよ!」
「バ、バイメイニャンとやら!このわしに向かってこのような無体を働くとは許さんぞ!」

カタリナは止めに入ろうとしたが、バイメイニャンに『小娘は黙っておれ!』と邪険にされる。これまでロアーヌでカタリナを『小娘』呼ばわりした人間は一人もいなかったので、カタリナは思わず瞠目してしまった。そこへウンディーネとボストンが穏やかに仲裁に入った。

「大丈夫よ、カタリナ。私達は進んでバイメイニャンさんのお話を聞いているの。術士同士興味深い話がたくさんできるの」とウンディーネ。
「そうですよ。バイメイニャンさんの東のお話は聞いていて楽しいです。私もいつか東へ行ってみたいものです」とボストン。

その後、暴れていたブラックはバイメイニャンから解放されると、悪態をつきながら偽ロビンのトラックスの元へ行った。ロアーヌに滞在中、トラックスの作る酒が気に入ったらしい。ティベリウスの方はまだバイメイニャンと揉めていた。

「わしはこう見えても神王教団長じゃぞ!神王様を見つけ出したら塔へ戻り、改めて神王教団を設立するのじゃ!」
「何じゃと?」

ティベリウスが旅に出た目的は神王を探すことである。神王教団の設立と教義を延々と説くティベリウス。バイメイニャンはそれを黙って聞いていた。バイメイニャン達東方の三人組はハリードパーティーと共に西へ向かう途中、ラシュクータで少年が宿命の子だということを聞いていた。それについて特に口止めされたわけではなかったが、ティベリウスの話を聞いてバイメイニャンは認識を改めた。ティベリウスの話を適当にあしらうとツィーリンとヤンファンを呼ぶ。そして宿命の子について他の者達に言わないよう口止めした。

「確かに宿命の子の存在が公になれば厄介なことになるでしょう」とヤンファン。
「そうね。『ここだけの話』っていう内緒話があっという間にみんなに広まっちゃった、なんてことはよくあるものね。でも老師、いつかはわかることですよ」とツィーリン。
「そうじゃ。じゃがその時がくるまで他言は無用。二人共よいな」

ハリードパーティーと東方三人組がロアーヌへ到着した後、ミカエルが機転を利かせた為、ハリードとティベリウスが鉢合わせすることは無かった。ティベリウスもハリードと事を荒立てたいわけではなかったので大人しくしていた。その後バイメイニャンに捕まったのだが。宿命の子の出現を待ち続けるティベリウス。宿命の子としての力に恐れおののくサラと少年。残るアビスゲートは後一つだが、それで万事解決するのかどうか。サラと少年は不安を抱えていた。



ハリードはミカエルと話をし、ここしばらくの西の世界情勢について聞いた。特別に大きな変化があったわけではないが、最近はスタンレーの近くの洞窟寺院跡にモンスターが棲みついているらしい。討伐に向かった者もことごとく失敗しているそうだ。

サラと少年はあれからどうしていいのかわからず、途方に暮れていた。二人とも今まで以上に口数が少なくなり、エレンを心配させた。

「サラ、あんたの好きなパンプキンパイを作ってきたわよ。食べない?」
「お姉ちゃん………ありがとう………」

食欲がないが、せっかくエレンが作ってくれたのだと思うと食べないのも悪い。逡巡しているサラを見てエレンは更に心配した。そんな仲間達をレオニードは全て達観して見ていた。そしてラシュクータの町で新たに加わった象はサラと少年のそばについていることにした。

「二人共、一度にいろんなことが起きたから混乱してるだろう。しばらくここでゆっくり休むんだ。なあに、もしモンスターがやってきても大丈夫だ。俺がおまえ達を守ってやるよ」

象は気さくに話しかけたが、二人の笑顔はなかなか戻らなかった。今現在、宿命の子だとわかっているのは少年一人。実はサラももう一人の宿命の子なのだと知っているのはサラと少年、そしてレオニードが密かに感づいていた。宿命の子が二人いるなどということは誰も想定してない。象もそうだった。サラはたまたま巻き込まれただけだと思っている。

ミカエルは時間を割いてレオニードと会った。日々マスコンバットと施政に負われるミカエルにとって、ゴドウィン男爵の反乱がもうだいぶ昔のことのように感じられる。あれから全てが始まった。あの時モニカをレオニードの元へ託したが、その時の礼もまだ満足にしていない。ミカエルはこの機会にレオニードに直接会い、礼をした。

「ミカエル候、礼には及びませんよ」
「それにしてもそなたがハリード達と共に四魔貴族を倒す旅をしているとは意外だな」
「たまには自ら運命の担い手になるのも悪くないと思ったまで。それに今回は未だかつてない出来事が起こる予感がするのですよ。そう、既に運命の歯車は回り始めた……」
「東方の異変もその一つだと?」
「おそらくは」

ミカエルとレオニードが会話をしている時だった。不穏な気配を感じてレオニードとミカエルが反応する。レオニードは退出を願いサラと少年がいる一室へ向かった。象が何かとサラと少年を元気づけようとしていると、一匹のモンスターがどこからか現れた。象は二人を守ろうとする。

「宿命の子…宿命の子…私のいる洞窟寺院跡へおいで…宿命の子の力について教えてあげよう…」
「宿命の子の力だって?おまえたちアビスの魔物は何を知っている?」

少年がそう問いかけたが、モンスターは姿を消してしまった。


今しがたの出来事をハリードに告げる少年。

「ハリードさん、洞窟寺院跡へ行きたいです。罠かもしれない。でも……僕の……宿命の子としての力について知りたいんです」
「そうか。わかった。今までもアビスのモンスター達は宿命の子としておまえを狙ってきた。このままでいても奴らの方から襲いかかってくるなら、今度はこっちから出向いてやろう」

こうして、ハリードパーティーは洞窟寺院跡へ向かうことにした。





私の完全なオリジナルの話を考えた結果、ツィーリン達が西に来て町を探索するエピソードを追加しました。
バイメイニャンは術の研究のあまり、いろいろやらかしそうです。
洞窟寺院跡のイベントも、宿命の子についての設定の為、またオリジナル要素が入ります。



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