あれからトーマスはアビスリーグ壊滅の為、引き続きトレードを行っていた。行方不明になっていたハリード達が見つかったことや、ロアーヌ東方の異変などの情報も入ってきたので、一度ロアーヌへ向かいたかったのだが、トレードの予定が詰まっていた。フルブライトもフルブライト商会の当主としてアビスリーグに対抗していた。先日はアビスリーグの物件により偽札が出回った。何かと悪事を行うアビスリーグとトーマス達の戦いは長期戦となっていた。
その日、トーマスとフルブライトは別行動をとっていた。フルブライトは単独で街中を歩いていた。すると、怪しげな連中が路地裏へ向かうのを目撃した。
(あれは最近不穏な動きがあるという○○商会……)
フルブライトはそっと尾行することにした。
路地裏では怪しげな連中が裏取引を行っていた。大きなスーツケースを開けて中を見せている。中には札束がぎっしりと詰まっていた。裏取引の現場を目撃したフルブライトはそっとその場を離れようとした。
(こういうシチュエーションで必ず起こるのは、何か物音を立てて奴らに気づかれてしまう、漫画とかでよくあるパターンだ。だが私はそんなヘマはしない)
そう思って慎重にその場から離れようとしたフルブライトだったが、近くにあったバケツにぶつかってしまった。大きな音を立てて倒れ、転がっていくバケツ。
(ああっ!しまった!!)
裏取引を行っていた連中が気づかないわけはなかった。一斉に注目を浴び、冷や汗が流れるフルブライト。
「…チッ!見られたからには生かしちゃおけねえ。殺せ!」
フルブライトは必死に逃げ出した。
アビスリーグはアビスの魔物と通じている。フルブライトにモンスターが襲いかかる。フルブライトは戦いは得意ではない。路地裏に追いつめられ、絶体絶命のピンチ!
「くっ!こうなったら戦うしか手はないか……仕方がない。私は戦いは不得手だが、仲間が極意を取得した技がある。棍棒が得意なノーラが極意を取得した技で対抗するしかない!」
フルブライトはツイスターと呼ばれる棍棒を手にモンスターと対峙した。ノーラが極意を取得した棍棒技で対抗するが、フルブライトは技ポイントが少ないのですぐに使えなくなってしまった。そうしている間にもモンスター達は次から次へとやってくる。
「フルブライト家のド根性を見せてやる!」
フルブライトは必死に戦い始めた。ツイスターをぶんぶん振り回す。
「ド根性ォォォォォ!ド根性ォォォォォ!」
なんとかして根性で乗り切ろうとするフルブライトに襲い来るモンスター達。
一方、トーマスはフルブライトと合流しようとして、こちらもかつてないピンチに曝されていた。凶暴な野良犬に囲まれてしまったのである。トーマスは犬が苦手だった。獰猛な唸り声を上げて今にもトーマスに飛びかからんとする野良犬達。トーマスの背中に冷や汗が流れる。野良犬達がトーマスに牙をむいたまさにその時――
「トーマス!無事か!」
シャールとミューズ、本物ロビンのライムと妖精が駆けつけてきた。シャールとライム、妖精があっという間に野良犬を蹴散らす。落ち着いて見ると野良犬達はどうやら何者かに操られていたようだ、ぐったりした犬達をミューズが介抱する。
「みんな、ありがとう。後はフルブライトさんと合流できればいいんだが……」
トーマスはフルブライトを探しに駆け出した。
「ド根性………ド根性………」
フルブライトはすっかり傷だらけになっていたが、根性で戦い続けていた。しかし弱りきっている。これ以上モンスターの攻撃を受ければもう成す術もなくやられてしまう。しかしモンスター達はまだわんさかといた。これまでかと思った時、トーマスが現れた。
「大車輪!」
強力な槍技であっという間にモンスターを一掃すると、トーマスはフルブライトを救出した。
「フルブライトさん、傷の具合はどうですか?アビスリーグも気を抜けませんね。僕が犬が苦手なことも知っていたようですし」
「怪我はしばらく寝ていればたいしたことはない。我々は生き延びた。生き延びた以上、いつかは奴らと決着をつけるのだ」
フルブライトは包帯だらけの状態だったが、何やらいつもと違うオーラを感じた。
「いいかい、トーマス君。我がフルブライト家では代々『ド根性』について教えられる。商人には『ド根性』が必要だ」
「根性が」
「ただの根性ではない!『ド・根・性』だ!」
「は、はあ…」
その後、いかに『ド根性』が大切なものかを力説し続けるフルブライト。いつもと雰囲気が違うのにトーマス達は戸惑ったが、あれだけの元気があるなら怪我も早く治るだろうと思って黙って聞いていたのであった。
一騒動の後、トーマスパーティーはユリアンパーティーと合流した。そしてハリード達が見つかったことを伝える。
「ハリード達、行方不明だって聞いて心配してたけど、無事見つかったなら良かったな」
「ああ。ところでユリアン、俺はこれからロアーヌへ行こうと思うんだ。ハリード達は今ロアーヌにいるらしいし、東の方で何か異変が起きたらしいんだ」
「そうか…でも俺達は今はまだロアーヌに戻るわけには行かないな…アビスリーグとの決着がついてない」
「これからどうする?」
「ハリード達は最後のアビスゲートを閉じるんだろ?ハリードに協力しようかな。ロアーヌに戻るかどうかはモニカとしっかり話し合って決めたいんだ」
「そうか」
「ねえねえ、フルブライト~。アビスリーグって結局何なの~?」
そう言ってフルブライトの元にやってきたのはタチアナだった。
「おや、タチアナ、君もラザイエフ家の娘なだけあって商人の世界に興味があるのかな?」
「そうじゃないよ!トーマスがやってる1回目のトレードは総資産を1億オーラムにすること。2回目は悪いことをやってるドフォーレ商会をやっつけること。でも3回目のアビスリーグのことがいまいちよくわかんないんだもん」
「商人達の中にアビスの魔貴族に協力して交易を独占しようという連中がいるんだよ。それがアビスリーグ。我々はなんとしても世界の交易を守り抜かねばならないのだよ」
「それはわかったけどさ、アビスの魔貴族は一体何がやりたいの?何が目的なの?」
「人間の経済界に介入して世界をメチャクチャにしたいのさ」
「例えば?」
フルブライトは少し考えた。
「簡単に言えば不景気が目的かな」
「不景気。確かに不景気になればみんな楽しくないけど……」
「タチアナ、君は不景気とは具体的にどんなことはわかるかい?」
「えーと、会社の経営が赤字になること?そういう会社が増えて、倒産する会社も増えちゃう状態のこと?」
「そうだね。会社が赤字になれば、経営が苦しくなるから社員は減給になるね。倒産すれば減給どころか失業になる。そうしてみんな貧しくなって生活が苦しくなってしまうんだよ」
「それがアビスの魔貴族の目的?」
「そう。生活が苦しくて職につけない人間が増えれば犯罪が増える。そうやって人間社会をメチャクチャにしようとしてるのさ。人々の平和を脅かすといっても、単にモンスターを襲わせるだけでなく、経済界から介入すると、こんなやり方もできるのさ。そうして人間社会の弱体化を狙い、最終的に世界をアビスのものにしようとしてるんだ」
「そうなんだ。モンスターと戦う以外でそんなやり方があったなんて……」
「わかったかな?」
「うん」
「ところでタチアナ、経済に興味があればフルブライト家の当主たるこの私が直々に教えてあげようか?」
「えーっ!?やだーっ!私は遊んでる方がいいもん!」
そう言った後でフルブライトは思いついた。
「私がこれからの未来を担う若者に経済学、経営学の講義をするというのも悪くないな」
「え?それならフルブライトよりトーマスの方が人気あるんじゃない?」
「なっ!?何故だね?」
「トーマスの方が先生って感じってゆーかー。優しくて教え方上手そうだしー」
その後しばらく落ち込んだフルブライトであった。
ちょっとしたフルブライトのネタが思い浮かんだので書いてみました。アビスリーグ関連です。
練磨の書によるとトーマスは犬が苦手だそうです。
最後のタチアナとの会話は、結局アビスリーグって何だったのかなと、私なりに考えてみた内容です。
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