ここは洞窟寺院跡。ハリード達はここに住み着いたモンスター達を退治しにきた。謎のモンスターが宿命の子である少年をおびき寄せようとしたのもある。アビスのモンスターはいつも宿命の子である少年を狙ってくる。ならばこちらから出向いてやろうというのだ。洞窟内のモンスターはハリード達にとってそれほど手強くはなかったが、途中で道を塞いでいる悪魔系のモンスターが非常に強かった。アスラというその悪魔系最強のモンスターは今までここにモンスター討伐に来た猛者を次々と葬ってきたらしい。四魔貴族やドラゴンルーラーを倒してきたハリード達にはおあつらえ向きの敵だった。このアスラと戦っているうちにハリード達はまだ閃いていなかった強力な技を閃いた。
「タイガーブレイク!」
「デッドリースピン!」
「オービットボーラ!」
アスラは修行して強くなるにはうってつけの相手だった。まだ極意を取得していなかった見切り技もある。ハリードはアスラを倒しては画面を切り替えて悪魔系シンボルを復活させ、何度も何度もアスラと戦って鍛えた。そのうち本来の目的を忘れる。そこへ謎のモンスターがサラと少年を密かに攫っていった。
「あっ!陣形がおかしいと思ったら、サラと少年はどこへ行った!?」
「サラ!」
エレンは最近元気のないサラが心配でたまらない。また少年と共にいなくなったと知ってパニックになった。慌てて二人を探すハリード達。
「ここは……?」
洞窟寺院跡の中でも特別に暗い場所。サラと少年は身を寄せ合った。そこへ謎の声がする。
「宿命の子…宿命の子…今回は二人いるとはね…これは私達アビスの者でも予想外だったよ…」
「誰だ!」
「我が名はガラテア…」
ガラテアの名乗ったモンスターからは不気味な光が放たれていた。
「宿命の子の持つ圧倒的な力…一人でも強大な力なのに二人もいては、いずれアビスも世界も何もかも破壊してしまう…それはおまえ達も実際に自分の目で見たはずだ…」
「う…」
「宿命の子が二人もいてはいけないのだ…力をコントロールしようと思っても無駄だったろう?宿命の子の宿星は死。破壊の力が勝つ」
「そんな…」
「宿命の子よ…平和を望むならおまえ達のうちどちらか一人をアビスへよこせ。そうすれば次の死食まで世界は生き延びられるだろう」
「何だって!?」
ガラテアは不気味な目をぎょろりと開いた。
「そうさ、おまえ達のどちらかがアビスに身を捧げるのだ!そしてアビスで静かに死を迎える。そうすれば次の死食まで三百年は平和が続くだろう。おまえ達宿命の子の片方の生命の犠牲を持って世界に平和はもたらされる!」
「そ、そんな!」
「そうでなければ、コントロールできない二人の宿命の子の力が合わされば、アビスも世界も全て破壊される…片方が死ねば力は安定するのだ。…さあ、二人の宿命の子よ、世界の平和の為に身を捧げるのはどちらか、決めるがよい」
サラも少年も心の動揺を抑えられなかった。確かに今のままで二人の力が合わされば世界もアビスも全て破壊されてしまう。ガラテアは、どちらかが死ねば力は安定するという。片方が人間界に留まり、もう片方がアビスに身を捧げ、静かに死を迎えることにより、次の死食まで三百年は平和が続く、それまで世界は生き延びられるというのだ。
「他にアビスも世界も生き延びる術はない。このままでは全て破壊される。さあ、残るアビスゲートはあと一つ。アビスゲートを閉じるのは他の人間でもできるが、ゲートを開くのは宿命の子にしかできない。残るアウナスのゲートからおまえ達どちらかがアビスへ向かうのだ!」
サラと少年は真っ青になった。つまり世界の平和の為にはどちらかが死ななければならないのだ。サラと少年どちらかが。二人共生きることを選べば全て破壊されてしまうというのだ。サラと少年は恐怖でガタガタ震え始めた。
「くそっ、サラと少年はどこへ行った!」
ハリード達はアスラとの戦いを切り上げて奥へ進んだ。祭壇を見つける。生の祈りと死の祈りを捧げることができるらしい。生の祈りを捧げると技ポイント・術ポイント・LPが全回復した。
「死の祈り…そういえば以前魔王殿の宝箱に何か書いてあったな」
『死を讃えよ 死は幸いなり いざ、幸いの地へ』
死の祈りを捧げるとサラと少年を発見する。そこにいたガラテアというモンスターを倒し、二人を救出した。
「おまえ達、大丈夫か!」
ラシュクータで拉致された時以上に青ざめているサラと少年。見たところ外傷はないが、ショックを受けているように見える。ハリード達は二人を保護して町に戻った。
結局ショックを受けたサラと少年は何も言いたがらない。頑なに口を閉ざしている。エレンは心配でたまらなかった。特に何かされたわけではないようだが……
「それにしても何でサラまで拉致されるんだ?」ハリードが疑問を口にすると象が答えた。
「偶然だろ?あの子は十六歳じゃないか」
「それはそうだが…」
ハリードはサラについて薄っすらと勘づきつつあった。レオニードは相変わらず達観している。
(宿命の子二人の力…アビス側から何らかの接触を受けたようだな…さて、残るアビスゲートはあと一つ。何が起こるかこの目で拝見させてもらおう)
翌日、ユリアンが会いに来た。
「やあ、ハリード。東で行方不明になったって聞いて心配したぞ」
久しぶりに再会したハリードパーティーとユリアンパーティーはお互いのこれまでの出来事を話した。その間も、ユリアンはサラと少年が明らかに深刻な悩みを抱えているようなのが気になった。
「そうか。ハリード達は本当に大変だったんだな」
「おまえ達は確かフルブライトの計らいでウィルミントンに滞在していたんじゃなかったのか?」
「そうだよ。平和な日々もいいけど、たまには冒険したいって仲間達が言うからね。ハリード達は残りのアビスゲートを閉じるんだろう?俺達も一緒に行っていいか?」
「そうだな………構わないが」
「よし、それじゃあ今後は俺達もハリード達と一緒に行くよ。アビスゲートはあと一つ。それを閉じれば世界は平和になるんだろ?皆で力を合わせて戦おうぜ」
「…ああ」
ハリードは嫌な予感がした。全てのアビスゲートを閉じればそれで終わるはずである。しかし何だろう、この胸騒ぎは。それで終わりではないという予感がする。
「あっ、そう言えばグゥエインに会ったか?ハリード達を探してくれって頼んだんだけどな」
「ああ。おまえ達が知らせたのか」
グゥエインはハリードにとって良き友である。戦友であり、人と竜でありながら心を通わせたかけがえのない友。ハリードがグゥエインについての知らせを聞いたのはそんな時だった。
「悪竜グゥエインが麓の村を全滅させたそうですよ」
「何だって!?」
「今、ルーブ山地周辺は危険です。あそこへ行ってはいけません。グゥエインは竜です。竜の凶悪な本性を現わして麓の村を次々と襲っているのです。そして人々は皆殺しに…」
「嘘だ!」
ハリードはルーブ山地の小さな村へ駆けつけるのであった。
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