全てのメンバーがそろった一行は、残り最後のアビスゲートを閉じる為、南へ向かった。船でグレートアーチに行く。今日はここで一泊して翌日アケへ向かう。そしてアウナスの火術要塞へ向かうのだ。グレートアーチに着き、一番楽しそうにしていたのはツィーリンだった。

「わあー!みんな楽しそう!西ってこんなところもあるのね!」

水着姿になり、浜辺ではしゃぐツィーリン。彼女にとっては西の世界は全て真新しいものばかりだった。一方、同行しているヤンファンは困った顔をしていた。彼はお堅い将軍である。いつも厳粛な雰囲気に慣れている彼は、女性達の水着姿を見ては、目のやり場に困っていた。

「ファンファン、お主もまだまだ修行が足りんのう」
「老師!あなたまでそんな恰好を!」

ヤンファンが振り返るとそこには水着姿のバイメイニャンがいた。これはこれで反応に困る。

「どうじゃ?アタシの水着姿は。似合っとるかえ?」
「…………………………」
「どのみち明日までアケへの船は出ん。今日はここでゆっくり楽しませてもらおうかのう」

他のメンバーもそれぞれグレートアーチで余暇を楽しんだ。

象は海に入ってバタフライで泳ぎ始めた。凄まじい水飛沫である。

妖精は羽が濡れるといけないので海からは離れた場所にいた。

フォルネウスを倒して元の姿に戻ったブラックはのんびりと過ごしていた。彼は偽ロビンのトラックスが作った酒がお気に入りである。二人で酒を飲んで談笑していた。

ティベリウスはハリードに見つからないよう、ホテル内の部屋で瞑想していた。



浜辺ではナンパする男達もおり、トラブルも起きていた。

「おい、姉ちゃん、ここにいる間くらい付き合ってくれたっていいじゃねえかよ!」
「やめて下さい!困ります!」
「そこの君達!彼女が嫌がってるじゃありませんか。やめなさい」
「何だとコラァ!」

ナンパしていたガラの悪い連中が振り向くと、そこにはロブスター族のボストンの姿が。

「君達、喧嘩なら受けて立ちますよ!」

ボストンの姿を見て固まった者もいた。そして巨大なハサミは太陽の光を受けてギラリと輝く。ナンパ男達は恐れをなして逃げて行った。



「おい、ミカエル、あのカタリナって姉ちゃんも水着姿になってるぜ」
「それがどうしたというのだ、ウォード?」
「二人でデートでもして来いよ、ほら!」

ウォードに背中を押され、ミカエルはカタリナの元へ行った。カタリナは水着姿になったものの、ミカエルを見て緊張してしまう。

「…あ…似合っているぞ、カタリナ」
「…あ…ありがとうございます、ミカエル様」

堅物のミカエルとカタリナはお互い思うように会話ができなかった。



「トーマス、どうしたんだ?浮かない顔だな」
「フルブライトさん……サラの様子がおかしいんです。とても思いつめた顔をしていて。話しかけてもろくに返事が返ってこない。心配です」
「じゃあ君もハリード達について行ってアウナスと戦うかね?」
「火術要塞の場所を知っているのは僕達です。途中まで案内する約束になっています。しかしそれから先は……」

そもそも四つのアビスゲートを閉じれば全て終わりなのか。トーマスは嫌な予感がしていた。



それぞれのメンバーがグレートアーチで余暇を楽しんでいる頃、ハリードパーティーはホテルの部屋に集合していた。サラと少年の様子がずっとおかしい。二人とも非常に思いつめた表情をしていた。

「サラ、少年、おまえ達は時々アビスのモンスターに攫われた。その時に何が合ったのか、俺達は今まで聞かずにいた。だがこれからアウナスの元へ向かう。最後の戦いだ。おまえ達に何があったのか話してくれないか?」

サラも少年も俯いたまま、黙っている。ハリードもエレンも二人を心配していた。

「サラ、お願い。私達はあんたが心配なの。姉の私にも言えないことなの?」

サラはびくりとした。しかし沈黙ばかりが続く。エレンも困ってしまった。やがて少年が口を開く。

「ハリードさん、心配しないで下さい。アウナスのゲートを閉じれば全て終わります。僕が宿命の子としての役割を果たせば世界に平和がもたらされます」

少年はそれ以上のことは言おうとしなかった。何か言いたそうなハリードとエレンをレオニードが止める。

「アウナスとの戦いを終えれば全て明らかになる。全ては運命のなすがままに……」
「……わかった。明日になったらアケに出発だ」

そう言ったものの、ハリードは二人が気がかりだった。サラも少年も、まるで死を覚悟したかのような顔をしている。今までの四魔貴族との戦いとは違う何かがあるのだ。全てのゲートを閉じればアビスの魔物達は完全にこちらにやってくることはできなくなる。アビスも必死だろう。ハリードは何が起きてもおかしくないと覚悟した。



少年は死を覚悟していた。自分が犠牲になることで世界が平和になるならそれでいい。平和になった世界でサラや他の大勢の人々が幸せに暮らせるなら。今まで少年に関わった人は善人悪人問わず死んでしまった。人を死に追いやるのではなく、人を生かす為、少年は自ら犠牲を選ぶ。

サラが何か言いたそうな顔をする。

「大丈夫だよ、サラ。僕がアビスへ行けばこの世界は平和になる。サラ、君と出会って今まで楽しかったよ。ほんの少しの間だったけど。生きててよかったと思う。サラ、僕の分まで幸せになって」

少年にとってサラは普通の少女。自分は関わった者全てを死に追いやる死神。犠牲になるのは当然自分だと思っている。サラは納得していないようだが他に方法もない。死ぬのは怖い。天涯孤独の身である少年は死を覚悟し、世界を平和にする為にハリード達と共に最後のアビスゲートへ向かう。





単にグレートアーチで遊ぶイベントを全キャラやらせたかっただけだったりする。ツィーリン達だったらどうなるかなって。
ミカエルとカタリナも少しずつ距離をつめています。
さて、思いつめているサラと少年ですが、次回はとうとう四つ目のアビスゲートです。



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