とうとう最後のアビスゲートを閉じる為、魔炎長アウナスの火術要塞にやってきたハリード達。中は暑く、あちこちで炎が噴き出している。今まで多くの戦いを経験してきたハリード達にとって、火術要塞のモンスターは最早敵ではなかった。どんどん敵を蹴散らしてアウナスの元へ辿り着く。アウナスは悟ったような様子でハリード達を待ち受けていた。
「定めじゃ……」
アウナスとの戦いが始まった。炎のバリアで近づく者にカウンターで反撃する。ハリード達はカウンターを受けない技で攻撃することにした。
「蛇剣!」
「霧氷剣!
「ミリオンダラー!」
「タイガーブレイク!
「分身剣!」
アウナスは炎を使った攻撃や烈風剣などで攻撃してきた。だが、ハリード達は相当強くなっていた。それほど労せずしてアウナスを撃破する。
「宿命の子よ、いざ、ゲートを開け」
少年はゲートに向かった。
「ハリードさん、エレンさん、レオニード伯爵、そしてサラ。今までありがとうございました。僕が魔貴族達をアビスへ押し戻します。僕がアビスの魔物達と共にゲートの向こうへ行き、ゲートを閉じればこの世界はまた三百年平和が続きます。みんな、今まで本当にありがとう。さようなら」
少年はゲートを閉じようとした。しかしその時、背後から急に突き飛ばされた。
「ゲートを閉じるのは私の定めよ。あなたじゃない」
「サラ!?」
少年が振り向くとサラはアビスゲートの奥まで行ってしまっていた。少年も驚いたがハリードとエレンも驚きを隠せなかった。
「サラ!?」
「サラ!?どうして?僕が犠牲になるはずだったのに」
「私、今まで幸せだった。私が犠牲になるから、私の分まであなたは生きて。私の分まで幸せになって」
「そ、そんな……!ダメだ!戻ってこれなくなる!君は向こう側へ行く人じゃない!ダメだ!行っちゃダメだ!」
「どういうことだ!おまえ達!」
サラと少年にハリードが尋ねる。
「ハリード、今まで黙っててごめんね。私も宿命の子なの。今回の死食では宿命の子が二人生き残ったの」
「ちょっと何言ってるのよ!サラ!あんたは16歳でしょう?」
「お姉ちゃん、私はお姉ちゃんの本当の妹じゃない。知ってるんでしょ?私が死食の生き残りの赤ん坊だって知らずにお父さんとお母さんは私を拾ったの」
「……!!」
「みんな、今までありがとう。私の分まで幸せに生きて。さよなら」
そう言うとサラはアビスゲートの向こうに消えた。
「サラ!!」
ここはランス。ハリード達はヨハンネスの元にいた。そして少年から宿命の子について一部始終を聞いていた。
「前から様子がおかしいと思っていたが、そういうことだったのか」
「ハリードさん、今まで黙っていてごめんなさい」
「ちょっと待ちなさいよ…サラが宿命の子だなんて…何かの間違いでしょ…?」
エレンはパニックを起こしていた。
「落ち着け、エレン。おまえは姉なんだから、当然サラが実の妹じゃないのは知っていたんだろう?」
エレンはしばらく呆然としていた。
「そんなことすっかり忘れてたわよ……」
エレンはがっくりと肩を落とした。
「……私が四歳の時、お父さんとお母さんが赤ん坊だったサラを拾ってきた。その時から家族としてずっと一緒に育ってきたのよ。血がつながってないとか、そんなこと気にしたことないわ。サラは私の大切な妹よ」
混乱しているエレンとハリード。その一方でレオニードは落ち着いていた。
「レオニード、おまえは感づいていたようだな」
「いかにも」
「ちょっとどうしてもっと早く言ってくれなかったのよ!少年、あなたも!」
「いずれにしても宿命の子についてあまり知られるべきではなかったであろう。神王教団も世界各地にいる。知られたら厄介なことになっていたはずだ。それに二人とも宿命の子としてハリードに同行し、四魔貴族と戦うことを選んだ。自分達が宿命の子であることがわかったからこそアビスとの戦いを決断したのだろう?」
「はい……」
エレンは納得がいかないようだった。
「それよりサラを助けに行く手段は、アビスへ行く手段はないんでしょうか?僕とサラのどちらかが犠牲になってアビスへ行き、死を迎えることでまた三百年平和が続くんです。このままではサラは死んでしまう」
「冗談じゃないわ!サラは私の妹!絶対に死なせやしないわ!」
その時、ヨハンネスがやってきた。
「ああ~こんな時なのに悪い知らせがある」
「もう何が起こっても大丈夫だ。言ってくれ」
「四つのアビスゲートを閉じ、これですべて終わりのはずなのだが、星の位置のズレがわずかに残っている。あと1つゲートが残っているようなのだ」
「どこに!?」
「東だ。見捨てられた地か、それよりももっと東か……。おい、一体どうする気だ?」
「ヨハンネス、ありがとう。いい知らせだったぞ」
「まさか、サラを助けにアビスへ行くつもりか!」
「みんな、東の玄城へ向かうぞ。バイメイニャン達にも事情を話そう」
再び東方へ向かおうとするハリード達をヨハンネスは呼び止めた。
「待ってくれ、私が調べたところによると、アビスゲートは人間は六人までしか入れないぞ」
「何だって?」
ハリード達はずっと五人パーティーで行動してきた。今はサラが抜けて四人になっている。
「おーい、俺を忘れるなよ」
「象!」
「ラシュクータから俺が一緒にいたことを忘れてもらっちゃ困るぜ。俺を入れて五人。そしてアビスからサラを助けて六人でこの世界へ帰って来る。これでいいだろう?」
「よし。東へ向かうぞ」
ハリード、エレン、少年、レオニード、象の五人は再び東方へ向かうことにした。後に残されたヨハンネスはおろおろしていた。
「たった六人でアビスへ行って帰って来ることができるだろうか?私にできることは……」
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