ここはロアーヌ。アビスゲートの向こうへ消えたサラを助けに行く為、ハリードパーティーは再び東方へ向かうことにした。バイメイニャン達に事情を説明する。
「東にアビスゲートが……そうかい。それでゼルナム族を倒してもアビスの妖気が消えなかったわけだ。ならばアビスゲートの場所はわかる。帝の住む、いや、ツァオガオの住む黄京城じゃ。あやつ、アビスの力の虜になったのじゃろう。欲の深い奴じゃから」
「バイメイニャン、その場所を教えてくれ」
「慌てるな。黄京の警戒は厳しい。ヤンファンとも相談しよう」
東方の帝の住む黄京城にアビスゲートがあると聞いてヤンファンは信じられないようだった。
「老師、本当に黄京城にアビスゲートが……?」
「何を今更、そこがお前の甘さじゃ。アビスの力の本当の恐さが分かっておらん。ツァオガオの心なぞ、すぐにアビス色に染まってしまうわ」
「黄京城には大将軍もいらっしゃいます。あの方がそのようなことを許すはずがありません」
「とにかくハリード達と共に東へ戻るぞ!リンリン、ファンファン」
「老師、その呼び方はやめて下さいってば!」
その時、ロアーヌの兵士がミカエルの元に報告にやってきた。
「殿、ゲートを失ったアビスの魔物共が最後の決戦を挑んできました!」
「何!そうか……ハリード、ここは私に任せておまえ達は東方へ行け。アビスの魔物は私が食い止める」
「わかった。皆、行くぞ!」
エレンはまだサラが宿命の子の一人だという事実に混乱していた。今まで大切に守ってきた自分の妹。このまま放っておけばアビスで死んでしまう。自分の中から永久にいなくなってしまうのだ。そんなことは絶対にさせない!エレンはひたすらサラを思い、仲間と共に東方へ向かっている。
ラシュクータで仲間に加わった象は何かと少年を気にかけていた。特にサラが消えてからは落ち込みが激しい。
少年は自分が犠牲になるつもりだったのだ。それについてサラは何か言いたそうではあったが何も言わなかった。それは少年が死んでしまうことを望まないが他にどうしようもないと思っていたと解釈していたが、まさかサラ自身が身代わりになるつもりだったとは。サラ。少年が生まれて初めて惹かれた美しい少女。どんな手を使ってでも助けたい。宿命の子に特別な力があるのなら、それを愛する少女サラを救うことに使いたい。この身がどうなっても構わない。サラに生きて欲しい。幸せになって欲しい。
東方へ向かう途中、レオニードは静かに呟く。
「宿命の子が二人。未だかつてない出来事だ。さて、アビスで我々を待ち受ける運命は……」
「なるようにしかならねえさ。そして俺達は全力を尽くすだけだ。そうだろう?ハリード!」象が答える。
「ああ。俺達で全てを終わらせよう」
ミカエルは久しぶりにマスコンバットの準備をした。そして先発隊を何隊か送った。
結果は散々だった。先発隊は敵にことごとくやられ、ほぼ壊滅状態になってしまったのだ。辛うじて生き残った兵士達から状況を聞く。敵は地形を変える術を使えるようだった。地形を沼地や砂漠、坂道に変え、こちらの軍を苦しめる。そして奇策の兵法を使うとカウンターとして同じ作戦をやり返してくるのだ。先発隊の悲惨な状況を目の当たりにしたミカエルは、この戦いは果たして勝てるのだろうかと思った。マスコンバットとして最後の戦いである。国威の為にも全力を尽くさなければならない。傭兵を雇い、ミカエルは兵を率いてアビスの軍へ向かった。
「幻魔陣っ!全軍出撃!!」
「疾風陣!」
敵の幻魔陣に対してミカエルは疾風陣で対抗。そして戦が始まった。
「皆の者!行くぞ!後列前進!」
ミカエルは戦闘開始直後から後列前進で全軍に強行軍を強いた。敵が幻影で地形を変えても怯まず、ひたすら進軍していく。下手な小細工は一切無しにゴリ押しでガンガン攻めていく。そして敵の指揮官を倒すことに成功した。指揮官が倒れると敵は全軍突撃をしてきたのでこちらも全軍突撃。そして見事勝利を掴んだ。
敵が幻影の術を使って地形を変えたり、奇策の兵法をやり返したり、策が多いのならこちらは単純戦法、力押しで行ったまで。
ミカエルはこれまでのマスコンバットを全て勝利し、施政で外交も成功させ、ロアーヌの国威は最高になった。産業も住民感情も最高の状態になっている。ミカエル名君の噂は更に広がった。
ミカエルがマスコンバットで戦っている間にハリードパーティーとバイメイニャン達東方三人組は東の玄城へ向かった。ヤンファンが玄城へ戻ると早速部下がやってきた。
「ヤンファン様!大将軍が捕われました。ツァオガオの陰謀です。これを。大将軍の書状です」
東方の大将軍はヤンユーチュンという名である。
「ヤンファン、ユーチュンは何と言ってきた?」バイメイニャンが尋ねた。
『城内にアビスゲートあり ツァオガオの野望を絶て 大将軍ヤンユーチュン 衛将軍ヤンファン殿』
ヤンファンはしばらく考えていたが、やがて作戦を練る。
「私が打倒ツァオガオを旗印に兵を上げ、黄京城の兵を城外へおびき出そう。その間にハリード達が城へ突入するのだ。シンプルな作戦だが確実だ。ただし、城内にはツァオガオの手下が、ことにアビスのモンスターが残っているだろう」
「よし、わかった」
「アビスゲートはおそらく黄京城のミカドの間だ!黄京城へ突入したら後へは引けんぞ。準備はいいか?では作戦開始だ!」
玄城の兵による陽動作戦が始まった。
「防壁の波陣っ!全軍出撃!!」
「攻撃の波陣!」
敵のヤンユウチュンは防壁の波陣の陣形である。今回の戦いは陽動作戦というのもあり、こちらは攻撃の波陣にする。
そして戦いが始まった。これは陽動作戦である。ヤンファンは前進攻撃と全軍防御をこまめに繰り返した。
一時間……二時間……五時間経った頃、ヤンユウチュンはこちらの作戦に気づいた。
「……もしや、これは敵の陽動!?全軍退却……」
これを見て自軍の副将ヒィアンユーが大将であるヤンファンに話しかけた。
「ヤンファン将軍!敵に陽動作戦を気づかれてしまいました!」
「落ち着けヒィアンユー。まあ、見ていろ」
「奇策の兵法情報操作L1 作戦開始!兵士達は情報に踊らされた!部隊は前進攻撃を始めました」
ヤンファンの情報操作により陽動作戦は続いた。効果が切れた頃には十時間が経っていた。
「奇策の兵法情報操作L2 作戦開始!兵士達は情報に踊らされた!部隊は防御状態になりました」
再びヤンファンの情報操作により陽動作戦は続く。今度効果が切れた頃には二十時間が経っていた。
「作戦完了!全軍退却せよ!」
ヤンファンは二十時間の陽動に成功。作戦は大成功であった。作戦は終了し、その頃ハリード達は黄京城へ突入していた。
ロアーヌではミカエル達が宿命の子についての事実を知り、皆、物思いに耽っていた。まさか宿命の子が二人いるとは誰も思っていなかったし、その一人がサラだということが余計に皆を驚かせた。
「四つのアビスゲートを閉じれば、いずれは宿命の子についてもわかると思っていたが、このような事態は到底予想できなかったな、カタリナ」
「はい、ミカエル様、まさか宿命の子が二人いるとは思いもしませんでした」
「あのサラという少女が宿命の子の一人だったとは……もっと早くにわかっていればロアーヌ領主として保護したものを」
サラが宿命の子の一人だということについて更に衝撃を受けたのはトーマスとユリアンであった。幼馴染みでもあるサラがまさか宿命の子だったとは。ユリアンと一緒にいるモニカも、かつてゴドウィン男爵の反乱の折にサラと一緒に旅をした。彼女が宿命の子であることに驚きを隠せない。
「サラ様が宿命の子だったなんて……なんだか信じられませんわ」
トーマスはピドナでサラと再会した時のことを思い出した。ハリードと共に四魔貴族のアラケスを倒しに行く時である。
「サラ…いつから自分が宿命の子だと気づいていたんだろう…思えば四魔貴族と戦うと決めた時もやけに頑固だったが…あの時から既に気づいていたのか?」
サラはこのところずっと様子が変だった。しかしトーマスがいくら心配しても何も語ってくれなかった。
ユリアンはみんなでサラを助けようと言い出した。
「ダメなんだ、ユリアン。アビスゲートは六人しか通れないのだそうだ」
「くそっ!俺達はただ待っていることしかできないのか……?」
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