ヤンファンの陽動作戦の隙にハリード達は黄京城に侵入した。城内に入ってすぐに真っ赤なドラゴンルーラーが襲いかかってきた。
ドラゴンルーラー。竜を統べる者。ハリード達が今までの旅で幾度か戦った巨大な竜である。今回遭遇したのは赤のドラゴンルーラー。真っ赤な鱗は炎を思わせ、見た目通り炎を吐いて攻撃してくる。ハリード達も強力な必殺技で応戦する。
「分身剣!」
「タイガーブレイク!」
「地擦り残月!」
「ファイナルレター!」
「オービットボーラ!」
赤のドラゴンルーラーを撃破すると、ハリード達は先へ進んだ。黄京城内では所々にモンスターが待ち構えていたが、どんどん蹴散らしていく。一旦先へ進めばもう後戻りはできない。否、後戻りなどするものか。今は一刻も早くアビスへ向かい、サラを助けるのだ。ハリード達はどんどん城の上まで登って行った。
ツァオガオのところへ行くと少年が巨大なモンスターに巻きつかれた。アビスナーガと呼ばれる魔物である。
「うわっ!」
「捕まえたぞ!この宿命の子がいればアビスの力は我がものだ!」
「ツァオガオ!少年を離せ!」
「これでもう少しでアビスの力が我がものなるのだ!」
ハリード達はツァオガオを追って城の屋根に上った。そして黄京城の頂上にはアビスゲートが。
ツァオガオはアビスナーガをハリード達にけしかけてきた。
「邪魔者共め、消え失せろ!」
少年はなんとかアビスナーガの呪縛から逃れ、ハリード達と共に戦う。アビスナーガはそれほど強敵ではなかった。倒すとツァオガオは悲鳴を上げて落下していった。
「ヒェーーー」
「少年、大丈夫か?」
「はい!あそこにアビスゲートがあります。サラを……助けなきゃ……」
今まで存在が確認されていなかった五つ目のアビスゲート。その先はアビスの魔物達の世界。
「行こう!」
アビス。そこは深淵の闇に包まれた場所だった。やってきた場所を振り返ると光がある。そこからは生の力が世界の側から流れ込んできた。
「体力が回復する。疲れたらここに戻ろう」
ふと、ハリードは隣に立つエレンを見た。エレンは黙って目を伏せている。一緒に旅をしている途中で様子がおかしくなったサラ。それはランスでの襲撃事件の時に自分が宿命の子の一人だと知ったからだったのだ。そしてエレンとは血がつながっていないと。
(サラ、どうして私に何も言ってくれなかったのよ。私はあんたのお姉ちゃんよ……血がつながってないなんて、そんなこと一度も気にしたことないわ。あんたは私の大切な妹。小さい頃からずっと一緒だった誰よりも大切な姉妹じゃないの。あんたのことだから私との関係が壊れるんじゃないかって思ったんでしょうけど……バカ、そんなわけないじゃない)
「エレン、大丈夫か?」
「ええ。早くサラを助けましょう。私、あの子と話したいことがたくさんあるの」
「よし、行こう」
アビスの先へ進むハリード達。見ると目立たなくうっすらと四つの柱が見える。
「そういえばグゥエインは俺達が戦っている四魔貴族は幻影だと言っていたな。そして本体はアビスの向こうにいると。ここがそうなのか……あの四つの柱から行けるのか……?」
試しに四つの柱の一つに入ってみると、そこは魔王殿地下そっくりの場所だった。おそらくここに魔戦士公アラケスの本体がいるのだろう。
奥に進むと、アラケスの本体と思われる姿があった。幻影とはだいぶ姿が違う。アラケスの本体は人の姿で体格はがっしりとしており、長い金髪をしていた。
「血と汗と涙を流せ!」
アラケスは相変わらず肉体派である。最強打や大回転、大震撃など、物理攻撃で攻撃してきた。ハリード達はカウンター技なども使いながら倒した。戦いが終わるとアビスの入口へ戻り傷を癒す。
次に入った柱の先は火術要塞とそっくりと場所だった。ここには魔炎長アウナスの本体がいるのだろう。奥に進むとアウナスの本体と思われる姿があった。幻影とはまた違った炎をかたどった姿をしていた。
「定めには逆らえんぞ!」
本体のアウナスも炎のバリアは健在である。カウンターを受けない技を使わないと反撃を喰らう。ハリード達は炎の攻撃や凝視、即死攻撃である死神のカマに注意して戦った。ここまで勝ち抜いてきたハリード達はサラを救う目的もあり、皆、必死であった。見事倒すことに成功すると再びアビスの入り口で傷を癒す。
次に入った柱の先はビューネイの巣にそっくりだった。それではここには魔龍公ビューネイの本体がいるのだろう。奥に進むと美しい女性がいた。彼女が本体のビューネイなのだろう。優雅なドレスを身に纏い、裾からは美しい脚が覗いている。ビューネイはどこか哀愁の漂う雰囲気をしていた。
「私はムシけらに倒される定めなのか……」
本体のビューネイも幻影の時と同じく、超高速ナブラ・アースライザー・トリニティブラスターを駆使してくる。それに加え、魅惑的な美女の姿をした本体は魅了凝視も使ってきた。アラケス・アウナスより手強く感じた。倒した時には全員かなりの手傷を負っていた。またアビスの入り口まで戻って傷を癒す。アビスの入り口はハリード達の世界との境目。そこから生の力が流れ込んでくる。そうすると、なんとしてもサラを連れて元の世界に帰ろうという気になる。
最後に入った柱の先は海底宮に瓜二つの場所だった。ここに魔海候フォルネウスの本体がいるのだろう。奥に進んだハリード達は思わず目を瞬いた。四魔貴族達は皆、幻影と本体では姿が大きく異なったが、特にフォルネウスは違った。幻影は巨大な魚の姿をしていたのに対し、本体は少年の姿であった。緑の髪を後ろで束ね、槍を手に襲いかかってくる。
「真のアビスの力を見よ!」
本体のフォルネウスは四魔貴族最強に感じた。メイルシュトローム、大車輪、マイティサイクロン。見切れない技も多く、今までの四魔貴族戦の中では最も苦戦した。おまけにフォルネウスは地相を玄武に変える技を多数持っているので自動回復もしてしまうのだ。常に相手の回復以上のダメージを与えなければいつまで経っても倒せない。マッドサンダー・クリスタライザー・風車。どの攻撃も侮れない。ハリード達は最強の技を使ってどんどん攻撃していき、四魔貴族の本体を全員倒すことに成功した。パーティーメンバーの負傷は酷く、体力もかなり疲弊していた。またアビスの入り口まで戻って傷を癒す。これで四魔貴族は全て倒した。あとはアビスの最深部へ行ってサラを助け出すのだ!
「さて、敵の本拠地アビスで宿命の子二人がそろい、何が起こるか……」とレオニード。
「僕は……宿命の子の力をサラを生かすことに使いたい。みんなが生きて帰れるように。宿命の子に特別な力があるというのなら、それをみんなが幸せになることに使いたい」と少年。
「おっ!いいこと言う!さすが俺と兄貴が育てた子だぜ!」と象。
「サラをこのままになんかしておけないわ。なんとしてでもみんなで一緒に元の世界に帰るのよ」とエレン。
「よし、みんな、これが最後の戦いになるだろう。覚悟はいいか?」
ハリードが尋ねると、皆、黙って頷いた。
「よし、行こう!皆でサラの元へ!」
一方、ハリード達が四魔貴族の本体と死闘を繰り広げている頃、ロアーヌでは……
ハリードパーティーは現在サラが抜けてハリード、エレン、少年、レオニード、それにラシュクータから加わった象がいる。アビスゲートは六人までしか通れない。五人でサラを救出に向かい、サラを含めた六人で元の世界に帰るつもりなのだ。
ロアーヌではハリードパーティーと東方三人組を除く全てのメンバーがそろっていた。
ユリアンパーティーはユリアン、モニカ、詩人、タチアナ、雪だるま、ポール。
トーマスパーティーはトーマス、シャール、ミューズ、フルブライト、本物ロビンのライム、妖精。
カタリナパーティーはカタリナ、ノーラ、ウンディーネ、ボストン、ブラック、ティベリウス。
ミカエルパーティーはミカエル、ウォード、偽ロビンのトラックス。一時的にツィーリン達東方三人組が加わっていたが、今は玄城にいる。
「ミカエル様、ランスのヨハンネスとツヴァイクの教授がお目通りを願っております」
ヨハンネスとあの変わり者の教授――妙な組み合わせだと思ったミカエルは僅かに顔をしかめた。
「通せ」
「はっ!」
用件を尋ねると、ヨハンネスはたった五人でアビスへ向かったハリード達が心配になったらしい。そしてツヴァイクで天才と名高い教授にアビスゲートについて説明し、何か良い方法はないものかと相談したのだ。そこで教授が得意げに変わったデザインの鍵を取り出した。
「見て頂戴!これが私が発明したゲートホルダー!アビスゲートは通常六人までしか通れない。でもこれがあればゲートの歪みを調節して何人でも通ることができるのよ!これでハリード達の加勢に向かうことができるわ!」
「な、なんと!」
日頃冷静なミカエルも驚きを隠せなかった。
「それならば各国の代表を集めて首脳会議を開き、軍隊をアビスへ向かわせる準備をしなければ」
「えっ!?ちょ、ちょっと待って。何人でも通ることができるっていっても軍隊ほど大勢は無理よ」
「この世界とアビスの、世界の命運を賭けた戦いなのだぞ!」
「いくらなんでもそこまでは無理。う~ん、そうねえ……このゲートホルダーなら三十人が限界かしら?あ、三十人連れて行くんじゃなくてハリード達も入れて三十人で帰って来ることをちゃんと考えておいてね」
「となると、あと二十四人か……」
ミカエルは考えた。
ハリードパーティーはハリード、エレン、少年、レオニード、象の五人がサラを連れて六人でアビスから帰ってくるつもりなのだ。
ユリアンパーティーはユリアン、モニカ、詩人、タチアナ、雪だるま、ポールの六人。
トーマスパーティーはトーマス、シャール、ミューズ、フルブライト、本物ロビンのライム、妖精の六人。
カタリナパーティーはカタリナ、ノーラ、ウンディーネ、ボストン、ブラック、ティベリウスの六人。
ミカエルパーティーはミカエル、ウォード、偽ロビンのトラックスの三人。そしてツィーリン、バイメイニャン、ヤンファンの三人が現在玄城にいる。
「このロアーヌに集結しているメンバーを全てここに呼べ!皆でアビスへ向かうぞ!」
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