ここはロアーヌ。ミカエルは日々、施政を行っていた。産業政策に重点を置きながらマスコンバットで使う戦術研究も行う。
先日モニカの誘拐事件があったばかりである。どうもあの事件により、ゴドウィン男爵は無念の最期を遂げたようだ。そんな矢先にエドウィンという者から書状がきた。ゴドウィン男爵の弟だと名乗り、男爵の領地を返せと言ってきたのである。ゴドウィンに弟などいない。ミカエルはエドウィンと名乗る偽男爵と矛を交えることにした。
敵はなかなか手強かったが、ミカエルも今まで取得した戦術で見事勝利をおさめた。



ユリアンはロアーヌ宮殿の片隅で一人物思いに耽っていた。今は休憩時間中である。先日のモニカの誘拐事件のことを思い出していた。

(モニカ様って…なんというか…随分積極的だよなあ)

『ユリアン、手を握っていて。不安なのです』
『モニカで構いません。お父様が亡くなられて、そう呼んで下さるのは今ではお兄様だけです』
『さあ、もう一度。モニカと呼んで下さい』

手を握って欲しいだなんて、あの時は不安に駆られてのことだったのかもしれないが、一介のプリンセスガードに過ぎない自分に呼び捨てにするように言うとは。まさかモニカは自分に気があるのだろうか、などと考えてはいけない!思いあがってはいけない。相手はお姫様だ。所詮、身分が違う。ユリアンは自分の頭をポカポカと叩いた。しかし、あれ以来ユリアンはモニカに強く惹きつけられていた。あの穏やかで優しい笑顔。いつも淑やかで優雅な仕草。
ユリアンがそんな風に考えていた矢先だった。ツヴァイク公の子息とモニカとの縁談話が持ち上がったのは。

「モニカ、ツヴァイク公から正式な申し入れがあった。おまえを次期公爵の花嫁として迎えたいそうだ。しばらく考えるといい」

ツヴァイク公の息子は父親に輪をかけたバカ者と陰で有名であった。モニカの幸せを願う大臣は反対しているが、ミカエルは取り合わない。モニカが結婚すると聞き、しかも相手の評判は良くないと知ってユリアンは動揺を隠せなかった。しかしミカエルは冷徹な態度を崩さなかった。

「あの、ミカエル様、モニカ様はツヴァイク公とご結婚なさるのですか?」
「公のご子息とだ。まあ、どちらでも変わりはないがな」

ユリアンは今まで敬愛していた君主ミカエルを初めて冷たい人間だと思った。否、支配者とはそういうものなのかもしれない。王侯貴族の間では政略結婚は当たり前のことなのだろう。愛の無い結婚で好きでもない相手と夫婦になり、世継ぎを生まなければならない。モニカもそんな運命にあったのだ。ユリアンはなんだか急にやるせない気分になった。ミカエルにとってモニカはたった一人の最愛の妹のはずである。このたびの縁談、本当になんとも思っていないのだろうか?そう思いながら宮殿内を歩いていると、ミカエルとモニカが二人でいるのに出くわした。ユリアンは慌てて身を隠してしまう。モニカは俯いており、ミカエルはモニカの肩に手を置いていた。

「モニカよ、これもロアーヌ候家に生まれた者の定めだ」
「これが私の宿命…ですか…」
「今しばらく考える時間をやろう。決心がついたら私のところへ来い」

ミカエルが去っていくと、ユリアンはモニカに近づいた。モニカは伏し目がちにユリアンを見た。

「ユリアン、私、結婚しなければならないの。お兄様はそれを望んでいらっしゃるわ」
「……モニカ様はそれでよろしいのですか?」

モニカはぎゅっと手を握り、ユリアンを必死の表情で見つめた。

「絶っっ対に嫌です!ユリアンお願い、私を逃がして!」

モニカは一見、優しく大人しい印象を受けるが、芯は強い。モニカの必死の様子を見て、ユリアンも覚悟を決める。

「わかりました。モニカ様の為です。その代り、俺も行きます。モニカ様を逃がしたことがミカエル様にバレたら、俺は釜茹でか逆さはりつけの刑にされます」
「ありがとうユリアン。私を守ってくれるのね」
「はい。俺はこれから一生、モニカ様をお守りします!」

ユリアンとモニカは人目を盗んでこっそりロアーヌ宮殿から抜け出した。モニカは最後に振り返り、ロアーヌと兄ミカエルに別れを告げる。

(長い間、本当にお世話になりました。お兄様、いつまでもお達者で…)



「ユリアン、これからずっと私のことはただの『モニカ』と呼んで下さいね。私はもうロアーヌ候女の地位を捨てたのですから」
「は、はい!モニカさ…いえ、モニカ」

二人はまずミュルスへ向かう。船に乗ってロアーヌからずっと遠くへ行ってしまうつもりなのである。ユリアンもモニカもどこにも行く当てはない。ただ、トーマスが別れ際にピドナに行くと言っていたのを思い出し、ピドナ行きの船を探す。しかし、あいにくピドナ行きの船は現在出ておらず、ツヴァイク行きの船しかなかった。
酒場でユリアンとモニカは、先日の誘拐事件で出会った詩人と再会した。

「おや、お二方、またお会いしましたね。一曲いかがですか?」

詩人は歌い終わると一緒に旅をしたいと強制的に仲間に加わった。別れようとしても『嫌です』の一点張りである。ユリアンは困ったが、一旦考え直した。おそらくミカエルからはモニカ捜索隊が出ているだろう。男女の二人連れより他に仲間がいた方がいいかもしれない。詩人は各地を旅しているので世界情勢にも詳しいだろう。こうして新たな仲間が加わった。
船着き場へ行ったがやはりツヴァイク行きの船しかない。あまりもたもたしているとミカエルに発見されてしまうだろう。ユリアン達はやむなくツヴァイク行きの船に乗った。モニカの正体がバレないようにくれぐれも気をつけなければならない。


ユリアンは船内を調べて回った。ミカエルの追手らしき人物はいない。

「大丈夫ですよ、モニカ。船内に怪しいものはありません。船員も俺達に気づいてないようです。風も良いし、ツヴァイクまですぐに着きますよ」

この船の船長は気さくな人物で、船旅の途中、ユリアン達を部屋に案内して航海の話をしてくれた。

「見て、ユリアン。変わったものがたくさんある部屋ね。ほら、このワールドマップ、聞いたことも無いような場所が書いてあって、世界の大きさが本当によくわかります」

その時、船のどこかで悲鳴が聞こえた。ユリアンが船室から出るとモンスターがうようよしている。

「ユリアン!一体どうしたの?」
「モンスターです。船も危ない、行きましょう」

甲板に出るとタコのようなモンスターが五体、襲いかかってきた。ユリアン達は一体ずつ確実に止めを刺していった。モンスターを蹴散らすと船は転覆し、ユリアンとモニカはしっかりと手をつないだまま泳いだ。詩人も後に続く。どれだけ泳いだであろうか。街が見えてきたところで三人は力尽きた。



モニカが意識を取り戻すと、そこはどこかの民家だった。民家の夫婦が優しく声をかけてくる。

「おや、気がついたかい?昨日、流れ着いた時はびっくりしたよ」
「お世話になったようでお礼の言葉もございません」
「いいっていいって、ゆっくりお休み」

しばらくするとユリアンと詩人がやってきた。彼らもこの民家の夫婦に助けられたのだという。一見、優しそうに見えた夫婦だったが、ドア越しに話し声が聞こえてきた。

「なんだってあんなのを休ませとくんだ?」
「あんた本当にバカだね。ありゃいいとこの娘だよ。ここで恩を売っておけばお礼はたんまりさ!」

夫婦の会話を聞いて暫し沈黙する三人。すると詩人が提案を持ちかけた。

「ユリアン殿、モニカ殿、ここは私が一肌脱ぎましょう。私の歌で彼らの心を買収するのです」
「詩人さん、大丈夫です。私のことをうまく誤魔化せればいいのですから」

モニカは夫婦の元へ行った。

「あ、あたしシノンに帰って家の手伝いをしないと。家族多いし、掃除とか洗濯とか、あと、あのー」
「シノン?あんた、あんな外れの小さな村から来たのかい?」
「どうもお世話になりました」
「ああ、さっさと帰りな!」

なんとかうまく誤魔化して三人は夫婦の家から出た。ここはツヴァイク。船旅の途中で思わぬ事故があったが無事に到着したのだ。普通に歩いている分にはモニカのことがツヴァイク公にバレることもないだろう。なるべくロアーヌやツヴァイクから離れたところへ行ってしまおう。

「モニカ、安心して下さい。これからずっと俺が傍についています。どんな時も一緒です。そしてあなたをお守りします」
「ありがとう、ユリアン。私は今や自由の身。あなたと共に世界を旅して回りたいですわ。そしてどこか私達が安心して住める居場所を探しましょう。私、これから自分が幸せになる道を探していきたいのです。ユリアン、あなたと共に」
「モ、モニカ…!!」
「お熱いですな、二人共」
「詩人さん、あなたは旅慣れていて世界情勢に詳しい。どうかしばらく私達と行動を共にして頂けますか?」
「もちろんです。あなた方を見ていると新しい詩を作る意欲が湧いてきます。こちらこそ一緒に旅をさせてもらいますよ」

ユリアンとモニカはツヴァイクから新たな旅立ちをしようとしていた。



一方、ロアーヌではモニカがいなくなったことで宮殿中が大騒ぎであった。モニカの他にいないのは最近プリンセスガードになったばかりのユリアンだけ。彼らは先日の誘拐事件でも二人きりで行動していた。今回も二人で逃亡したと考えられる。ミカエルは顔色一つ変えずに報告を聞いていた。何を思ったのか、その表情からは窺えない。ミカエルは静かにモニカの捜索を続けるように命令を下した。



ツヴァイク公の息子とモニカの縁談のイベント。ユリアンと駆け落ちするパターンと縁談を受けるパターンの複合です。
結婚するパターンで船に乗った後に発生する展開を混ぜてみました。どのみちミュルスから船に乗ることに変わりはないので。
私が考えたストーリーの都合でユリアン達にはツヴァイクへ向かってもらうことに。


次へ
前へ

二次創作TOPへ戻る