ハリード達は雪の中、レオニード城へ辿り着いた。ここへ来るのは、エレンとサラは二度目である。相変わらず不気味な城だと思った。ハリードは城門を叩いた。

「たのもー」

し~ん……………

その後、城門を二度叩いても三度叩いても反応が無い。

ドンドンドン!

強く叩いてもやはり反応無し。外は寒気で冷え切っている。このままいたら風邪をひきそうだ。

「仕方がない、ぶち破ろう」
「ちょ、ちょっとハリード、そんな乱暴なことしたら伯爵様が怒るわよ。聖杯ももらえなくなっちゃうわよ」
「この寒い中これ以上いられるか!」

その時、城門が勝手に開いた。中に入るとポドールイのヴァンパイア伯爵レオニードが玉座に座っている。

「ようこそ、旅の方。私がポドールイ伯レオニードだ」
「あんたが聖杯を持っていると聞いたが?」
「ああ、その通りだ。ですがまずは一緒に食事でもいかがですかな?」

伯爵の城だけあって城内は豪華である。ハリード達が通された部屋には長いテーブルがあり、白いテーブルクロスをかけてある。一人ずつ席に着くと、伯爵の配下らしきモンスターが食事を運んでくる。ヴァンパイア伯爵の城だけあって、ここには人間はいないのだな、などと考えながらハリードはポドールイの料理を味わった。

「あなた方は何を目的に旅をしているのですか?」
「俺は流れ者の冒険者だ。どこへ行くって当ても無いんだが、聖王の墓でも見に行こうかと思ってな。今はランスへ向かう途中だ」
「ほう。あなたは聖王に興味があるのですか?」
「過去の偉人だからな」

食事が終わるとレオニードはハリード達を地下の入り口まで案内した。

「聖杯は地下の私の部屋にある。そちらまで来てもらおう。ぜひ生きたまま辿り着いて欲しいな」

ハハハハハハ……

妖しい笑い声が城中に響き渡る。そしてレオニードは姿を消した。
サラはガタガタ震えていた。

「私、お化け苦手なの。これから城の地下へ行くのよね?私、怖い……」
「だ、大丈夫だよ、サラ!僕がついてるから」

少年はサラの手をしっかりと握った。それを見てハリードは荷物から一本の大剣を取り出した。

「ヴァンパイア伯爵の城の地下。おそらくここから先はアンデットモンスターの巣窟だろう。少年、これをやるからうまく使いこなせ。『ツヴァイク工房』で手に入れた『妖刀龍光』という逆刃の刀だ」

ハリード達は城の地下に入っていった。地下は驚くほど広く、予想通りに数多くのアンデットモンスターが徘徊していた。中には非常に手強いものもいる。道中に宝箱もあり、貴重なアイテムも手に入れながら、ハリード達は奥へ進んでいった。

「退魔神剣!」

『妖刀龍光』の固有技『退魔神剣』を使い、少年はしっかりとサラを守っていった。通路を進む時もサラは怯えている。少年は無意識の内にサラの肩を抱いて、モンスターが襲いかかって来ないか常に警戒していた。好きな少女を懸命に守ろうとする少年を見て、ハリードは思わず笑みがこぼれた。
最奥部にヤミーという強力なモンスターが立ちはだかっていた。ハリード達は苦戦したが、戦いの中で強い技を閃いたりして、辛くも勝利をおさめた。

長いダンジョンで強力な敵と戦い続け、ハリード達はかなり体力を消耗していた。城の最深部、苦労して辿り着いた先にレオニードはいた。

「よく辿り着いた。これが聖王の血を受けた聖杯だ。だがこれを授けるには条件がある」
「条件?」
「今回の死食で復活したアビスゲートを閉じることだ」
「何だって?」
「ここまで辿り着いたことでおまえ達の強さは証明された。上の階へ戻ろう。詳しい話はそれからだ」



ハリード達はレオニードに導かれ、最初にいた上の階へ戻った。そして先程と同じ部屋に案内された。レオニードの配下のモンスターが茶を運んでくる。

「聖杯は私にとって何よりも大切なもの。誰にでも簡単に授けられるものではない。おまえが聖杯を受け継ぐに相応しい人物かどうか、試させてもらった。強さの方は問題無いようだな。戦士としての器は認めよう」
「さっきの話だが、死食でアビスゲートが復活したって噂は本当なのか?」
「左様。四魔貴族はゲートを通じてこちらにやってこようとしている。そして今回の死食で生き延びた宿命の子を探している」
「アビスゲートは昔、聖王が閉じたんだろう?宿命の子でなければゲートを閉じることはできないんじゃないか?」
「おまえはランスに行くのだろう。詳しく知りたければそこで調べるといい。このたびの宿命の子がどのような人物か、未だにわかっていない。魔王のように魔貴族を率いて世界を混乱におとしめるかもしれぬし、聖王のように魔貴族と戦いゲートを閉じるかもしれぬ。聖杯を受け継ぐ者として、おまえにはアビスゲートを閉じる使命を果たしてもらいたい。かつて聖王と共に魔貴族と戦った十二将のようにな」

十二将。かつて聖王は十二人の将軍と共に魔貴族と戦い、アビスゲートを閉じた。十二将の一人パウルスがメッサーナ王国を建国し、フェルディナントがロアーヌ侯国を建国した。ミカエルとモニカはフェルディナントの子孫である。

「おまえは冒険者なのだろう?旅をしていくうちにアビスゲートを見つけ出すこともあろう。四魔貴族と戦うだけの強さも十分に備えている。ゲートを閉じる使命を果たすなら、私はおまえを聖杯の所持者として認めよう」

ハリードはしばらく考えていた。エレン達は黙って見守っている。

「いいだろう」

ハリードは簡潔に答えた。そしてレオニードから聖杯を受け取った。

「使命を受けてくれると思いましたよ、元ゲッシア朝ナジュ王族ハリード殿」
「!?俺のことを知っていたのか?」
「『トルネード』の噂はポドールイにまで届いていますからな」

その後、エレン達はハリードの生い立ちを知ることになる。砂漠地方にはかつてゲッシア朝ナジュ王国があった。ハリードはその王族の一員として生まれたのである。戦いの際には竜巻を思わせる勇猛な戦いぶりを見せ、『トルネード』の名で知られていた。死食発生後、新たに神王教団という宗教団体が誕生した。ゲッシア王朝はこの神王教団を弾圧したが、逆に勢力を拡大した教団に滅ぼされてしまったのだ。今のハリードは流浪の身で世界各地を転々としている。

エレンとサラは今までハリードについてよく知らなかった。やたらと腕の立つ男だとは思っていた。『トルネード』の名もシノンの開拓民であるエレン達にはピンとこなかった。ゴドウィン男爵の反乱の際、ミカエルに重宝されていたのだから、それだけすごい戦士なのだろう、くらいに思っていた。それが元王族と聞いて、エレンもサラも身分の違いを意識せざるを得なかった。高貴な身分と世間で有名になるほどの強さ。そして今、聖杯を受け継ぐ者の条件として、アビスゲートを閉じるというのだ。



その後、ハリードはレオニードと酒を酌み交わしていた。エレンとサラと少年は案内された部屋に三人でいた。暖炉の炎がぱちぱちと爆ぜる。外は物音一つしない、静かな夜である。少年もハリードの生い立ちを聞いて、身分の違いや人間としての器の違いを意識していた。

「ねえ、サラ、私達このままハリードについていっていいのかしら?あいつは元々強いしアビスゲートを閉じるなんて大それたこともやってのけるでしょうね。ハリードは元王族で戦士としても有名。でも私達はシノンの開拓民。ただの村人よ。その辺のモンスター相手なら戦うこともできるけれど、ゲートを閉じるとなると四魔貴族を相手に戦うことになるわ。下手したら死ぬかもしれない。危険すぎるわ。サラ、あんたさえよければ今からシノンに帰ってもいいのよ」
「お姉ちゃん…」
「私達とハリードとは人間の器が違うのよ」
「……………そんなことない!私達だって今まで一緒に旅をしてきたじゃない!このお城の地下だって強いモンスターがいっぱいいて大変だったけど、みんなで協力して奥まで辿り着けたでしょ?ハリードだって仲間が必要よ。お姉ちゃん、私、このままハリードについていくわ!まだ旅は始まったばかり。私、世界中をこの目で見て回りたいの。そして自分の力でどこまでできるのか試したいの!」

サラは自分の可能性を試したかった。自分の力でどこまでできるのか、やれるところまでやってみたい。そんな思いが強く湧き上がってくる。ここまで自分を駆り立てるものが何かはわからない。しかしサラはシノンへ帰って元の生活に戻るのは嫌だった。もう姉達に守られているだけの存在ではなく、自分の足で世界を旅し、様々なことを自分の目で見て回りたい。自立したい思いでいっぱいだった。この先、どんな運命が待ち受けていても自らの力で切り開いてみせる。サラは心の中で固く決心していた。

「サラ、あんた本当に変わったわね。…いいわ、それじゃ私も一緒にいてあげる。何があってもあんたを守ってみせるから。ところで少年、あなたはどうなの?あなたもこのままハリードについていくの?」
「はい。僕もハリードさんについていって自分の可能性を試したいです。それに僕を仲間に加えてくれたのはサラです。そのサラが行くと言ってるのだから僕も行かないわけにはいきません。僕、これからもっともっと強くなってあなた達姉妹を守ってみせます!」

少年の健気な発言にエレンは思わず微笑した。ハリードについていきたい思いはエレンにもある。彼の隣に並んで戦える女戦士になりたい。彼にとって背中を預けられる相手になりたい。そして………エレンはハリードに憧れている自分に気づいた。もっと彼のことを知りたい。一緒にいたい。

自分の可能性を試す

サラも少年も同じことを言った。エレンも自分の力でどこまでできるのか、やれるところまでやってみたい。幸い、腕っぷしには自信がある。足手まといにはならないつもりだ。

エレン、サラ、少年の三人はハリードと共に旅をすることについて決意を新たにした。



レオニードって、まず何で聖杯を持っているのか謎ですよね。何故、主人公に聖杯をくれるのか。
このオリジナルストーリーではハリード達が何故四魔貴族と戦うのか、戦いの動機付けも決めなければなりません。
それで聖杯を手に入れる条件としてアビスゲートを閉じる使命を負う、ということにしました。
四魔貴族と戦わない普通の冒険者に聖王遺物の聖杯を授けるのもおかしいのではないか、聖杯を授ける理由が無いのではと思いまして。
少し無理がある設定ですが、こういうことにしました。


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