ここはピドナ。カタリナはトーマスの家に厄介になっていた。奪われたマスカレイドの手がかりは未だに得られない。焦る気持ちを抑え、カタリナは家の庭で剣の稽古をしていた。カタリナにとって剣術は常に欠かせないものである。ピドナ滞在中に腕がなまってはいけない。いつでも敵と戦えるよう訓練を怠らないようにしなければ。
カタリナが剣の稽古をしているとノーラがやってきた。ノーラは時々工房に帰り、ケーンと共に鍛冶を行っている。

「カタリナ、相変わらず表情が固いね。焦らない焦らない。私の親方だって手がかりを得るまで一年かかったんだ。トーマスもあちこち聞き込みをしてくれているし、そのうち何か情報が入ってくるさ」
「…そうね」
「それより見ておくれよ。新しい武器を開発したんだ。バスタードソードっていう大剣だよ。カタリナ、あんた大剣使いだろう?あんたにやるよ」
「まあ、ありがとう」
「元気出して」

そこへスフレという少女がやってきた。トーマスに無理やりくっついて仲間に加わった、謎の少女である。

「カタリナ!ノーラ!おやつにしよう!ティータイム!」

スフレは二人を部屋の中へ引っ張っていった。部屋にはたくさんのお菓子が並んでいる。エクレア、キャンディー、クレープ、シャーベット、スフレ、タルト、ババロア、ミルフィーユ。カタリナとノーラは目を丸くした。

「こんなに食べるの?」
「いいじゃん。私、甘いもの大好きなの!カタリナは?お菓子好き?」
「わ、私も甘いものは好きよ。あまり食べないけれど」
「好きなのにあまり食べないの?変なの」
「……………」
「もしかして太るとか気にしてる?好きなものは遠慮なく食べないと楽しくないよ!大好きな食べ物、美味しいものいっぱい食べて幸せな気分にならなきゃ!」

スフレはお菓子を片っ端から食べ始めた。カタリナは遠慮がちに、ノーラはスフレの食欲に呆れつつも食べ始め、女三人で賑やかなティータイムを過ごした。



「トーマス君、お客様がいらっしゃっているよ。君に是非会いたいそうだ」

突然の来客。トーマスが誰だろうと応接間に行ってみると、待っていたのはフルブライト二十三世だった。フルブライト家はかつて聖王を資金面から支援した大商家である。三百年以上の伝統を持ち、代々執政官を務めてきた。一国の王家に匹敵するかそれ以上に裕福な財力を持っている。そのフルブライト商会の若き当主が自分のような人間に一体何の用なのだろう。

「フルブライト家は君の一族とも関係が深くてね。まあいい、昔話は今度ゆっくりしよう。ここの主の話では、君はできる男のようだね。ミューズ様の信頼も得たようだし……」
「そんなこともご存知なんですか」
「私の仕事にとっては情報が一番大事なものなのさ。君の能力を見込んでの話だが、私の仕事を手伝ってみないかね?かなり面倒な仕事だがね」
「喜んでお伺いしましょう」

フルブライト商会というのは一つの会社ではなく、たくさんの会社が商会に参加している。参加するものが増えればそれだけ商会は大きくなる。フルブライトの言う仕事というのはトーマスに新しい商会を運営して欲しいとのことだった。クラウディウス家はメッサーナの有力な一族だったが、同時に大きな商人でもあった。その下にはいろいろな会社が参加していた。クラウディウス家が没落し、グループはばらばらになった。最近、怪しげなグループがそれらの会社に食指を伸ばしているらしい。フルブライト家は伝統がある故に、そういう場合に表だった行動がしづらい。そこでトーマスに商会を作ってもらってそれらの会社を商会に参加させていって欲しいというのだ。

トーマスはフルブライトの依頼を引き受けてみることにした。新たな商会、トーマスカンパニーを設立する。最初の目標は総資産を一億オーラムにすること。まずは相場の低い物件から買収し、着実に会社を大きくしていく。何度もトレードを繰り返すうちに、かけひき技を覚えたり、グループ技を覚えたりした。そのうちトーマスはピドナだけでなく、他の町にも進出しようと思った。いずれは世界をまたにかけ、トーマスカンパニーをどこにも負けない大きな会社にしたい。世界中を旅して様々な経験をし、見聞を広めるのがトーマスの目的である。彼の宿星は辰星、商人の星である。このトレードがきっかけでトーマスは商才を発揮し、どんどん才能を開花させていった。社長として会社を運営し、新たな物件を買収し、どんどん商会を大きくしていく。トーマスはトレードに夢中になった。

まずはピドナを拠点に会社を運営していたトーマスだったが、他の町にも規模を拡大することにした。手始めに近くのリブロフへ行くことにする。仲間のカタリナとノーラも同行することになった。ピドナだけではいつまで経っても何の手がかりも得られないのだから無理もない。しかし問題はスフレだった。リブロフへ行くと聞いた途端、嫌だ、行きたくないと言い始めたのである。何故あんな町へ行くのかと。トーマスが今やっているトレードのことを詳しく話すと、スフレは更に難色を示した。

「トーマス、カタリナ、ノーラ、今までありがとう。短い間だったけど楽しかったよ。私、出ていくね」
「スフレ、一体どうしたんだ?」
「リブロフには絶対行きたくないの!一回だけならこの家でお留守番しててもいいけど、商会のトレードが目的なら、これから何度も行くことになるじゃん。私、他の町に行く!」
「スフレ!?スフレ!」

別れの挨拶もそこそこに、スフレは外に飛び出して行った。勝手にくっついてきたかと思えば勝手に出ていく。トーマスもカタリナも開いた口が塞がらない。スフレのことを気にかけながらもトーマス達はリブロフ行きの船に乗った。
リブロフにはラザイエフ商会がある。これもまた大きな商会だ。トーマスはリブロフの手ごろな物件を買収しつつ、ラザイエフ家も訪ねてみた。この家は現在、跡継ぎでもめているらしい。トーマスは当主のアレクセイ=ラザイエフに会いに行くと、商談を始めた。商売の話から当たり障りのない雑談まで話題は多岐にわたる。話が一区切りついた時、アレクセイは家庭のことを話し始めた。

「実はうちの末娘のタチアナが家出しましてな。我が家は今、跡継ぎでもめている。家の雰囲気は険悪だ。顔を合わせれば喧嘩ばかり。食事もばらばら。家庭崩壊もいいところですよ。そんな光景を見てタチアナは嫌になったんでしょう。ある日、家出してしまったのです。しかしあの子はまだ十四歳。心配です。今頃どこで何をしているやら…」

そう言うと、アレクセイは部屋に飾った家族の写真を手に取った。その写真にはまだ仲良くやっていた頃のラザイエフ家の人々が映っている。その末娘の顔を見てトーマスははっとした。それはスフレだった。見るからにわがままそうな雰囲気は変わっていない。
スフレ。お菓子の偽名を名乗る少女の本名はタチアナ=ラザイエフ。リブロフの大商人ラザイエフ家の末娘。もめ事ばかりの家に嫌気がさし、現在家出中。トーマスはスフレがリブロフに行きたがらなかった理由がわかった。しかし、あの子は一人で大丈夫だろうか?今頃また別の大人にくっついているんだろうか?世の中には悪い大人も大勢いる。トーマスはスフレが心配になった。事情はわかった。いつか説得して家へ帰さないと。



ここはツヴァイク。ユリアンとモニカは駆け落ちし、今は放浪中の身である。途中で詩人を仲間にし、これから当てのない旅を始めるところであった。ツヴァイク公にモニカが見つからないように気をつけて、最低限の情報収集と旅の準備を整えると、街の出口へ向かう。そんな矢先であった。

「捕まえた!」
「キャッ!何!」

ユリアンは思わずびくりとする。見ると変わった格好をした少女がモニカに後ろから抱きついていた。

「捕まえたって言ったでしょ!」
「ごめんね。遊んであげられないの。どこかよそへ行って遊んでね」
「逃げちゃダメよ!捕まえたんだから」
「うるさいな、友達と遊べよ。モニカ、行こう」
「そんなのいない」

その少女には友達がいないと聞いてユリアンもモニカも可哀想になった。

「では、私がお友達になってあげるわ」
「よし!俺が友達になってやる!」

二人同時に同じことをしゃべる。ユリアンとモニカは思わず顔を見合わせ、そして笑った。

「わーい!」
「お嬢ちゃん、お名前は?」
「名前はね……タルト!よろしくね!」

タルトと名乗った少女は嬉しそうにはしゃいで仲間に加わった。
ユリアンとモニカは詩人とタルトを仲間に加え、旅を始めた。最初の目的地はキドラントである。



一方、トーマスは順調にトレードで会社を拡大していき、とうとう総資産一億オーラムを達成した。フルブライトから報酬をもらう。

「君には才能があるようだ。良かったらウィルミントンの私のところを訪ねてくれ」

そう言うとフルブライトは帰って行った。

トレードを始めたことにより、トーマスには多くの情報が入ってくるようになった。社長としてトーマスカンパニーを運営しているのだから今まで以上に情報収集は大切である。しかし、仲間のカタリナとノーラの探しているマスカレイドと聖王の槍についての情報は未だ得られなかった。焦るカタリナをなんとかなだめ、トーマスは彼女達に協力したいという思いでいっぱいになった。
しばらくトレードにかかりきりだったが、トーマスはクラウディウス家のミューズのことを思い出した。あれからどうしているだろう。今度会いに行ってみようと思った。



練磨の書によるとカタリナは甘いものが好き、でもあまり食べないとのことです。甘いものが好きなタチアナとの会話を考えて独自のエピソードを入れてみました。
トレードは実際のゲームのようにトーマスを仲間にしてハリードカンパニーにしようか迷ったのですが、トレードのイベントはトーマスにやってもらうことにしました。
タチアナの家族ですが、実際のゲーム中にリブロフの町に行くと会えます。父親がアレクセイ、長男がニコライ、次男がボリス、長女がベラというそうです。私が勝手に名前を付けたのではないです。家出娘のタチアナの素性がわかるエピソードを入れようと思って書いてみました。
最初トーマスの仲間に加わっていたタチアナですが、今後はユリアン達と同行することに。


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