あれからサラと少年は寝込んだ。宿命の子としての力を使い果たしたのだ。二人の力で世界は再生した。
ハリードパーティーはサラと少年の看病をする為、しばらくシノンに滞在していた。

「エレン、少しは休んだらどうだ?ずっと寝ていないだろう」
「サラが元気になるまではダメよ!私の大事な妹なんだから!」
「お姉ちゃん……お姉ちゃんも休んで……お姉ちゃんが倒れたら私も心配……」
「サラ……」

仲間達に促され、エレンは一旦休息をとった。



ある日、象が駆け込んできた。

「ハリード、大変だ!ティベリウスがやってきたぞ!」
「何だと!」

神王教団長ティベリウス。三度目の宿命の子は魔王聖王を超えた神王になると信じて疑わない教団の長。教団の敵には容赦なく、ハリードの故国であるゲッシア朝を滅ぼした張本人。ハリードパーティーの間に緊張が走った。象は少年のそばに寄る。

「どうする?この子達を何か良くないことに利用するつもりなら俺は容赦しないぜ」
「ああ。世界が再生した今、あいつとは改めて決着をつけなければならない」
「ハリードさん、僕とサラは……」
「おまえ達は寝ていろ。エレン、二人を頼む。レオニード、象、俺達三人で行くぞ」

ハリード、レオニード、象の三人は黙って頷き、ティベリウスの元へ行った。



「俺に斬られに来たのか?ティベリウス」

ハリードはカムシーンに手をかけた。

「わしを斬りたければ斬るがいい。覚悟はできている。だが、わしと少しでも話をする気があるのなら、話したい」
「何をだ」
「もちろん、この度の死食のことについてじゃ」
「……………」

ハリードは相変わらずティベリウスを恐ろしい顔で睨みつけていた。緊張が走る中、ハリードとレオニード、象、ティベリウスの四人は話を始めた。

「死食。三百年に一度、死の星が太陽を覆い尽くし、全ての新しい生命が失われる。六百年前、生き残った赤ん坊は成長して魔王になり、三百年後の死食で生き残った赤ん坊は成長して聖王となった。そして今から十五年前、三度目の死食では二人の赤ん坊が生き残った。それがあの少年とサラという少女なのじゃな。まさか宿命の子が二人いるなどとは思いもしなかった」

緊張した面持ちで黙ったままのハリードに代わり、レオニードが説明した。

「サラは星の位置にズレが生じた為に例外的に生まれた。死食発生と同時に。故に宿命の子の特徴の一つを持っていない。それは関わった人間が全て死ぬことだ」
「なんという過酷な宿命か……あの少年はそのような宿命にずっと耐えてきたのか……」

ティベリウスは心を痛めた。それに今度の死食では魔王も聖王も超えた神王が現れるというのも違っていた。宿命の子は二人だったのだ。それを知っていれば神王教団もまた違った形をとっていただろう。

「あの子達は自分が宿命の子であると知っていたのか?」
「二人共、初めは知らなかった。今回の旅の途中で知ったのだ。アビスの魔物達から接触を受けてな。死食の年に生まれた者は通常の宿星の他に死の宿星を合わせ持つ。アビスの住人には死の宿星を持ちながら生きながらえている宿命の子は一目でわかるのだ。我ら人間と違ってな。ティベリウス、神王の塔に私達が行った頃にはもう二人共、自らが宿命の子であることを知っていた」
「あの時の騒動……わしを警戒して宿命の子であることは隠しておったのじゃな」
「公にすれば更に大混乱になっただろう」
「……………」

ハリード達と共に旅をしながら全てを超然とした目で見ていたレオニードは続ける。

「あれから一度東方へ行き、こちらに戻る時だった。アビスの魔物にさらわれた二人はそこで宿命の子としての力を使ったのだそうだ。二人の宿命の子の力が合わされば全てを破壊してしまう。サラはこの力をコントロールして破壊ではなく創造に使えないかと思った。二人は試したがコントロールには失敗した。絶望したところへガラテアというアビスの者が二人に吹き込んだのだ。どちらか片方がアビスで死を迎えれば次の死食まで平和が続くと」
「なんというひどいことを……」
「それで少年が犠牲になろうとしたが、実際にはサラが少年を突き飛ばし、アビスの向こうへ消えた。後は知っての通りだ。宿命の子である二人は力を合わせて創造する力を生み出し、世界を再生した」
「世界は再生した。全てが新しく始まろうとしている。わしも神王教団をどうするか決めなくてはならん」

ティベリウスはハリードを見た。ハリードはカムシーンに手をかけたまま、ティベリウスを睨み据えている。

ティベリウスは膝をついた。そして頭を垂れた。土下座したのだ。そして神王教団長として、元ゲッシアの王族であるハリードに対し、ゲッシア朝を滅ぼしたことについて真摯に謝罪した。

「ゲッシアの王族ハリードよ、わしの生殺与奪の権利をおまえに与える。わしの首一つでおまえの気が済むのなら、遠慮なく斬り捨てるがいい。だがもし、わしが今後も生きることを許されるのであれば、世界を平和にすることにこの身を捧げたい。わしの望みは世界の平和と繁栄。神王教団のあり方も一から見直し、ゲッシア朝の生き残りも、砂漠一帯の統治も、ゆくゆくは考えていきたい。世界中の教団信者達だけでなく、他の全ての人間達にとっても、最も良い方法を考えていきたい。単に教団の長としてだけではなく、今となっては世界情勢に影響の大きい神王教団の長として、皆を導いていきたいのじゃ。世界の平和の為に一生を捧げ、粉骨砕身する所存じゃ。ハリードよ、もしわしが昔のような過激なことをやる人間に戻ったら、遠慮なく斬り捨てるがいい。さあ、わしを斬るか否か、決めてくれ。既に覚悟はできている」

ティベリウスは土下座したまま、ハリードに自らの生死を委ねた。本来なら当然、斬首されてしかるべきなのだ。命ごいなどすまい。だがもし生きるのを許されるのであれば、自分は今後どのように生きていきたいかは、しっかりと伝えた。





長い間、ピリピリと緊張した沈黙が走った。ハリードは相変わらず恐ろしい形相のまま、カムシーンに手をかけ、ティベリウスを睨み据えている。

そして――

ハリードはカムシーンを抜いた。そしてティベリウスの首の上を一閃する。


ビュッ!!


血飛沫が舞う。ティベリウスの首から血が滲み出た。が、死んではいない。ハリードはティベリウスの首の後ろの部分を表面だけ斬ったのだった。

「失せろ」

ハリードは恐ろしい形相のままティベリウスに背を向けた。

「二度と俺の前に現れるな」

ティベリウスは黙ってもう一度頭を下げると、静かに去っていった。



「ひーっ、肝を冷やしたぜ。本当斬るかと思った」

象がそう言うと、ハリードは黙って立ち去ってしまった。

「さて、これから世界がどう動いていくのか、興味深い」

あくまでも超然としているレオニード。

新しく再生された世界で皆はこれからどうなっていくのか。





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