ポドールイに帰国したレオニードは、以前の生活に戻った。新しい娘を城に招く。ポドールイで最も美しい娘は怯えながらレオニードの元にやってきた。ヴァンパイア伯爵として何百年もこの地を治めていた彼が、しばらく城を留守にしたくらいでは統治が揺るぐこともなかった。彼は『ポドールイ伯爵の語録』として今回の出来事を書き綴った。宿命の子二人と、アビスの魔貴族と戦った英雄ハリードの仲間として今回の戦いに加わったことは、レオニードにとって非常に興味深いことだった。今回の出来事について、彼なりの見解が書かれた語録が、レオニード城の書斎に並べられる。



ツヴァイクでは相変わらずツヴァイク公が国を治めている。

「ツヴァイク公、ご子息とモニカ姫との縁組について、いかがなさいましょう」

その時、教授が謁見の間に入ってきた。

「ツヴァイク公、ご機嫌いかが?私の新しい発明品をお持ちしましたわ!ああもう、私って本当にて・ん・さ・い!!」

教授はくるくると回り、自分を称える歌詞の歌を歌い、踊り始めた。

「発明品などよりもおまえの方がいい。わしの女になれ!」
「それじゃあ私を捕まえてご覧なさい!」

教授を追いかけるツヴァイク公。

「ツヴァイク公!モニカ姫の縁組はどうなさるおつもりで!」

家来が必死に呼びかけるが、ツヴァイク公はそのまま教授を追いかけて行ってしまった。



キドラントではポールがニーナの元へ帰っていた。今回の戦いに参加した戦士達は全員世界を救った勇士として名を残すことになった。英雄ハリードを筆頭として、エレン、サラ、少年、レオニードの五人が最も世間で有名になり、アビスの戦いに参加した総勢三十名の戦士達も有名になった。ポールは元々冒険者に憧れて旅に出た。勇敢な冒険者としての土産話を持ち帰れるほどのことをやるまでキドラントには帰らない。そう固く決意してユリアン達と行動を共にしていた。そしてそのままアビスでの戦いに加わることになり、世界を救った戦士の一人となった。ポールは得意顔で意気揚々とニーナの元へ帰ったのだった。

「ニーナ!聞いただろう?俺は世界を救った英雄の一人なんだよ!勇敢な冒険者として世界各地を旅して回って、強くなって帰ってきたぜ!」
「ポール、お帰りなさい。私はあなたが無事に帰ってきてくれただけで嬉しいわ」
「そんなこと言うなよ!俺は昔の俺とは違うんだぜ!強くなったし、ほら、お土産もたくさん持って帰ってきたぞ。これから旅の話をたっぷりと聞かせてやるからな!」

ポールは少々お調子者のところがある。今までの冒険を誇張して大袈裟に語る。そんなポールを、ニーナは穏やかな目で見ていた。優しく、帰ってきたポールを出迎え、温かいご馳走を作る。ポールは今までの冒険談を得意げに語る。優しく笑いながらニーナは話を聞いていた。

ポールは、ニーナには威勢よく振る舞ったものの、内心ではやはりキドラントで呑気に暮らすのが性に合っていると思った。

明朗で単純、一途なポールとニーナ。二人はその後、元のように仲睦まじく暮らし始めた。



ユーステルムではウォードが今まで通り気楽に狩りや漁をしている。世界を救った勇士としての名声も気にかけることなく、至ってマイペースであった。



雪だるまは嬉々として故郷の雪の町に帰った。仲間達が一斉に集まってくる。

「みんなー!ただいまなのだー!お土産いっぱい持って帰ってきたのだー!」
「おおー!お帰りなさいなのだー!外の世界はどんなところだったのだー?」
「これから旅の話、いっぱい、いっぱい聞かせるのだー!」

永久氷晶を身につけ、外の世界に旅に出た雪だるま。仲間達と共に冒険をし、果てはアビスまで行き世界を救った戦士の一人となったのだ。雪だるまは仲間達にこれまでの旅を得意満面に話し始めた。



ランスではヨハンネスが今回の出来事をまとめていた。天文学者の彼は夜型である。妹のアンナが寝ている間に起きて天文観測を行っていた。

「三百年に一度起きる『死食』。死の星が太陽を覆い尽くし、全ての新しい生命が失われる。その死の星が無くなっている!もう死食は起こらないんだ!もう二度と!」



ロビン親子は故郷のヤーマスに帰ろうとしていた。

「ねえ、父さん、ヤーマスのみんなはもう僕達の正体知ってるんだよね。家に帰るのはいいけど、これからどうしようかなあ」
「いいじゃないか。細かいことは気にせず今まで通りで」
「そうはいかないよ。今までどおり怪傑ロビンとして振る舞うことはできないよ。ドフォーレ商会だって……」
「まあ、とにかく、一度俺達の家に帰ろう。これからのことはそれから決めようじゃないか」

怪傑ロビンの格好のまま、ヤーマスに入った二人は人々から歓迎された。

「ロビンだ!ロビン親子が帰ってきたぞ!」

ヤーマスの人々は一斉に集まってきた。

「キャー!ロビン様ー!」
「ロビン!ロビン!」

集まってきた女性達がライムの覆面を取った。

「わわっ!」
「わあ!やっぱり正体はライムなんだ~」
「覆面を取ると急にいつものライムに戻っちゃうのね~」
「でもロビンの時のあなたってとってもス・テ・キ!」
「キャー!キャー!」

女性達に取り囲まれ、黄色い声に包まれ、ライムは慌てて覆面をした。ライムは覆面をしていなければ度胸が据わらない。こんな状況では途方にくれるばかりである。父親のトラックスを見れば、ヒューヒューと冷やかしてくる。

「ライム、羨ましい奴め!この!この!」

男達からは乱暴に歓待を受けた。既にロビン親子の正体はヤーマスの住民全てに知れ渡っており、世界を救った戦士でもあることも皆、知っていた。どぎまぎしているライムとは別にトラックスは正体がバレたことにも動じなく、皆の歓待に投げキッスで答えた。歓声が沸き上がり、トラックスは堂々と手を振る。

「そういえばドフォーレ商会は?」
「ああ、ドフォーレ商会なら倒産しちまったよ」
「え?」

アビスリーグ壊滅後、トーマスカンパニーに買収されたドフォーレ商会はトーマスカンパニーのやり方に従うことになったのだが、上手くいっていなかった。元々ドフォーレ商会はあくどいやり方で大きくなった商会である。あくどいやり方でしか商人の世界でやっていけないのである。とうとうドフォーレ商会は倒産し、今はトーマスカンパニーがヤーマスのトレードを支配していた。

「それで、ドフォーレ達はどうなったんだ?」
「すっかり落ちぶれてこのヤーマスから出て行ったよ」

それを聞いてライムは考えた。ドフォーレ達は過去の栄光を忘れられないかもしれない。懲りずにまた悪さをすることは十分に考えられる。しかしその時はいつでもロビンとしてお相手してやろうと思った。

「僕達怪傑ロビンがいる限り、この世に悪は栄えない!みんな、安心してくれ!これからは僕も父さんもずっとこのヤーマスにいるよ。そしてこの町のみんなを守っていくから!」
「それじゃあライム、おまえは早く嫁さんを決めてくれよ。このままじゃ若い女達が収まらない」
「私達若い乙女を虜にしちゃったんだから責任取ってよね!さあ、ライム、私達の中からお嫁さんを選ぶのよ!」
「わわっ!参ったな~」

それからロビン親子は今まで通りヤーマスのパブ『シーホーク』で酒場を開いていた。そして時々怪傑ロビンとして活躍していた。ライムがいない時はトラックスが、トラックスがいない時はライムが、どちらか片方がロビンになっていた。





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