ここはロアーヌ。ミカエルはこれまでのマスコンバットを全て勝ち抜き、内政、外交共に名君としての手腕を発揮した。住民感情も産業振興も国威も最高の状態にあり、ロアーヌはまさに繁栄の一途を辿っていた。

「殿、我が国の国威は十分に高まりました。是非、ロアーヌ王をお名乗り下さい」
「よし、我が国は今日からロアーヌ王国だ!!」

ロアーヌ侯国は王国に変わり、ミカエルはロアーヌ侯爵から国王になった。



ある日、ミカエルはモニカを呼んだ。

「モニカ、おまえの嫁入りの話だが……」
「お待ちになって、お兄様。私、ツヴァイクにお嫁に行く気はございません。それより、お兄様こそロアーヌ王になられたのですから早くご結婚なさって下さい」
「私のことより、おまえとユリアンのことが先だ」
「お兄様、私、ユリアンを愛しています。ユリアンは駆け落ちという私の無茶な行動にも誠実に付き合ってくれました。旅の間も、外の世界に不慣れな私を何かと助けてくれました。私にとってユリアンはかけがえのない男性なのです」
「おまえの気持ちはわかっているつもりだ。よし、ユリアンを呼べ」

しばらくしてユリアンが緊張した面持ちでやってきた。

「ユリアン、今までモニカをよく守ってくれた。兄として礼を言う」
「俺……いえ、私は!モニカ様の為に自分が正しいと思うことをやったまでです!」

ユリアンの声は上ずっていた。背筋をピンと伸ばして、緊張のあまり、ガチガチに固まっている。

「ユリアン、おまえとモニカのことなのだが……」
「お兄様、私、ユリアンとずっと一緒にいたいと思います。私達は愛し合っているのです」
「身分が違う」
「そんな!お兄様!……それでは私はロアーヌ候女としての身分を捨て、一介の女としてユリアンと共に暮らします!」
「それは許さん。おまえは今まで通りロアーヌ候女としてこの国に留まってもらう。ユリアン、汝を男爵に任ずる。これで身分の違いはなくなったな」
「お兄様!ありがとうございます!」
「ミカエル様!……あ、ありがとうございます!!」
「ユリアン、男爵として、ロアーヌ候女の夫として、ロアーヌの為に更なる働きを期待するぞ」
「は、はいっ!」
「さあ、あとはおまえ達二人でこれからのことを話し合うがいい」
「はい!……行こう、モニカ!!」

こうして、ユリアンとモニカは婚約した。



ミカエルから男爵に任じられたユリアンは、ロアーヌ貴族としての礼儀作法、一般教養、他にも勉強することがたくさんあった。

「ふーっ、モニカの為とはいえ、男爵になるって大変だなあ」
「ユリアン、疲れているのではないの?」
「モニカ!いや、大丈夫だよ!」
「ユリアン、シノンで休んでいたサラ様と少年が回復したそうよ」
「何だって!サラも少年も元気になったんだな!」
「ええ。ねえユリアン、あなた一度シノンへ帰ってみたら?私と結婚する為に男爵になって、疲れているでしょう?故郷へ帰って、少し休養をとるのはどうかしら?」
「モニカも来るかい?」
「本当は私も一緒に行きたいのだけれど、ロアーヌ候女としてあなたとの婚約のことの他にも、いろいろとやることがあるの」

モニカはユリアンのことを心配していたし、シノンへも一緒に行けないのを心底残念に思った。しかしユリアンを優しく気遣い、快く送り出した。
サラと少年が回復したという知らせをきっかけにユリアンは久しぶりにシノンへ戻ることにした。



ユリアンは今までの旅の格好でシノンへ帰った。男爵としての貴族の衣装は堅苦しくてまだ馴染めない。やはり今までの格好の方が気楽だなと思った。久方ぶりの故郷。エレンとサラに会いに行く。

「ユリアン!」
「やあ、エレン。久しぶりだな」
「ちょっと、あんたモニカ様と婚約して男爵になったんでしょう?こんなところで何やってるのよ」
「サラが回復したって聞いてね。ちょっと息抜きに故郷に帰ってきたんだよ」

その時、サラが家から出てきた。

「お姉ちゃん、ユリアンの声がしたけど……ユリアン!!」
「サラ、もう大丈夫なのか?」
「うん、もうすっかり元気。ねえ、今トムもシノンへ帰ってきてるんだよ。久しぶりに四人で話したいな」
「いいな。よし、今夜は四人でパブでいっぱい語り合おうぜ!」

その夜、ユリアン、エレン、サラ、トーマスの四人は久しぶりに集まり、パブで食事をした。

「トムはこれからどうするんだ?」
「お祖父様の跡を継ぐかトーマスカンパニーをどうするか、これからゆっくり考えるところさ」
「エレンとサラは?」
「サラがね、元気になったらみんなに会いに行きたいって」
「そうか。じゃあ俺とモニカの結婚式も来てくれよ!」
「うん!モニカ様の花嫁姿、きっととても綺麗だよ!」

サラがそういうとユリアンは顔を赤くした。
一方、シノンのパブには少年と象がいた。トーマスとサラを見ている。サラはこれからみんなに会いに行きたいと言っている。トーマスも一緒なのだろうか。二人の間に自分が入る余地はあるのだろうか。少年は憂鬱だった。象は単純に少年の初恋をなんとか応援してやろうとしていた。



その後、エレンはシノンから出て行こうとするハリードを見つけた。

「ハリード!」
「サラも少年も回復した。俺はこの村を出ていく。新しく再生された世界がどうなっているか、この目で確かめたい」
「それなら私とサラも連れて行って!サラはみんなに会いに行きたいって言ってるの。レオニードはポドールイに帰っちゃったけど、今までみたいにみんなで世界を旅しましょうよ!」
「悪いな。俺は一人で旅したいんだ。探し物があってな」

エレンはなんとかハリードを説得しようとした。エレンにとってかけがえのない妹であるサラとはもちろん一緒にいたい。そしてハリードとも離れたくない。だが、ハリードは説得も空しく一人でシノンから旅立って行ってしまった。ハリードの後ろ姿を見て呆然とするエレン。しかしハリードはトルネードの異名で元々名の知れた戦士であり、今や英雄である。サラと旅に出たらすぐにでも探し出そう。そう思った。



ハリードは一人再生された世界を旅して回った。愛しのファティーマ姫が新しい世界にいないかどうか探す為である。





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