ここはロアーヌ。ミカエルはロアーヌ国王となり、妃を娶ることになった。妹のモニカからも早く結婚するように言われる。国王たるもの妃を娶るものであるし、順番でいけば兄であるミカエルの方が先に結婚すべきなのだと。ミカエルは妃にはカタリナを考えていた。王の間にカタリナを呼び寄せる。

「カタリナ、我が父フランツは自分の意志を口にせず、行動で示す人であった」
「はい」
「マスカレイドが代々ロアーヌ候の妻に受け継がれてきたことは知っておろう」
「はい」
「父はモニカを護衛する為におまえにマスカレイドを託したのだと思っていたが、今になって本当の意味がわかった気がするのだ。カタリナ、私のそばにいてくれ」
「ミカエル様……」

カタリナはしばらく顔を伏せたまま黙っていた。

「ミカエル様、マスカレイドはお返し致します」
「カタリナ、返す必要はない。マスカレイドと共に私に仕えてくれ」
「いいえ、お暇を頂きたく存じます。ミカエル様のそばにはいられません!!」
「何故だ?カタリナ、カタリナ!」

カタリナは黙って立ち去った。



その後、ミカエルは私室で一人物思いに耽っていた。そこへモニカが入ってくる。

「お兄様」
「モニカか」
「先程、カタリナが取り乱して走っていったのを見ましたわ」
「……カタリナに結婚を申し込んだのだが、断られてしまった」
「まあ。……ねえ、お兄様、一体どんなやり方で求婚なさいましたの?」

ミカエルが先程の一部始終を話すと、モニカはため息をついた。

「あまり、女心をくすぐるやり方とは言えませんわね。それではまるで君主として自分に仕えるものに結婚を命じているようなものですわ」
「それの一体何が問題なのだ?私はロアーヌ君主。カタリナは私に仕えるロアーヌ貴族。王というものは君命として命じればいかなる者でもそば仕えにできる。政略結婚でなければ自分の好きな者を妃に選ぶことができる。それが君主というものではないか」

モニカはミカエルを睨んだ。未だかつて妹から睨まれるなどということがなかったミカエルは動揺する。

「お兄様、女心というものはそのように扱ってよいものではございませんわ!特にカタリナはわたくしにとって姉のような存在。妹としてそのようなことは許せませんわ!だいたい、結婚を申し込むのに王の間に呼び寄せるだなんて。女というものは君主として、ではなくて一人の男として、想う御方に求婚されたいと思うものですわ!いくらカタリナが真面目で従順だからって、そんなのあんまりですわ!」
「い、いや、しかし、それではどのようにすればよかったのだ?」

珍しく狼狽するミカエルであった。

「お兄様はカタリナを愛していらっしゃいますの?」

ふいをつかれて、ミカエルはとっさに答えが出てこなかった。

「何故カタリナを妻に望んでいますの?」
「それは……父の意志だからだ。父が代々ロアーヌ候妃が受け継ぐマスカレイドをカタリナに託したのだからな」
「お父様がカタリナと結婚しろと言ったからする、ただそれだけですの?お父様の意志に従うだけで、それはお兄様自身の気持ちからくるものではありませんの?」
「……………」
「お兄様、人を愛するということはどういうことか、結婚するということはどういうことか、一度よくお考えになって!」



その後のミカエルは、施政をやっていてもなかなか集中できなくなった。モニカに言われたことが頭の中から離れない。そんな時、教授が訪ねてきた。ツヴァイク西の森の、あの変わり者の女教授である。相変わらず変な歌を歌って踊り、新しい発明を見て欲しいとのこと。ミカエルは適当に相手をする。

「いつもはツヴァイク公に発明品を見てもらっているのだろう。今回は何故ロアーヌまで来たのだ?」
「新たに誕生したロアーヌ国王陛下にご挨拶を!な~んてね。それもあるけどツヴァイク公に言い寄られて困ってるのよ。ちょっと距離を置きたいの」

教授は自分の女性的魅力に自信がある。それに対し、とことんつれない態度のミカエル。

「本当につれないのねえ。最高の美しさ、完全なプロポーションを備えている、こ~んなナイスバディな美女を一人にしておくつもり?」
「女に興味はない」
「まあ、あなたホモなの?」
「帰れ」

教授は先のアビスとの戦いでは、ゲートホルダーというものを作り、全てのメンバーをアビスへ行くことを可能にした功労者である。その恩賞をしっかりと授けると、ミカエルは教授を追い払おうとした。

「お堅いのねえ」
「私はこれから妃を娶らなければならないのだ。そなたを相手にしている暇はない」
「まあ、そんなこと適当にやっておけばいいでしょう?所詮、王侯貴族は政略結婚で成り立っているわ。ロアーヌ国王の妃に相応しい家柄の、手ごろな女性を選んで適当に結婚すればいいじゃない。そして本当に好きな女は側室にするのよ。正室に世継ぎを生ませて王族のつとめさえ果たしていれば、後は自分の好きなように恋を楽しめばいいわ。貴族達はみんなそうしてるわよ。政略結婚では愛のある結婚はできないですものね」
「……!!」



教授が去った後、ミカエルは改めて結婚について考え込むことになった。モニカの言葉と教授の言葉が頭の中を交錯する。ミカエルは今まで結婚についてきちんと考えたことはなかった。爵位を継ぐまでも、その後も、ロアーヌ君主として気を張りつめていた。常に冷静な振る舞いを心がけ、完璧主義のミカエルは失態を犯さぬよう、常に自分を律していた。施政のことばかり考えていて結婚など考えている暇はなかった。
ミカエルは時に冷たいと言われる。モニカのツヴァイク公の子息との縁談話の時がまさにそうだった。ミカエルにとっては誰と結婚しても同じだと思っていた。自分自身も、愛してもいない女性と政略結婚することになる覚悟をしていた。それがロアーヌ候家に生まれた者の運命。そう割り切っていた。

妃を娶ることについて、モニカの言葉と教授の言葉が頭の中で揺れ動く。ミカエルの父フランツはカタリナを妃にすることを望んでいた。そしてカタリナにマスカレイドを授けた。カタリナはロアーヌ貴族。ミカエルの結婚相手として家柄は申し分ない。そこに愛情はあるのかと言われると、今まで恋をしたことのなかったミカエルは答えに窮してしまう。ミカエルの異性のタイプは文武に優れ、かつ美しい人。カタリナは自分の好みに当てはまっているではないか。家柄も、女性としても自分の妃に相応しい女性。そしてカタリナを妃にすることは父の意志でもある。カタリナはミカエルの妻として完璧な条件を備えている。

やはりカタリナを妃に選ぼう。

そう思ったものの、果たしてミカエルは一人の男としてカタリナを愛せるだろうか。今まで恋愛とは無縁で生きてきたミカエルは一人私室で長い間考え込んでいた。





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