ここはロアーヌ城内の庭園。美しい花々が咲き乱れている。カタリナは一人佇んでいた。ひどく動揺している。

ミカエルから求婚された。

密かに恋い慕う相手から結婚を申し込まれ、嬉しくないはずがない。だが、恋が現実のものとなることが急に怖くなってしまったのだ。いざ好きな男性から求婚されてみると、果たして自分はミカエルに相応しい相手なのだろうか、妃として、ロアーヌ王妃として。カタリナの好みのタイプは誇り高く、落ち着きのある人。ミカエルはまさに理想の男性であった。常に冷静沈着でロアーヌ君主として誇り高い。だが、そのミカエルに自分は相応しい女なのであろうか。マスカレイドを奪われた時の記憶が蘇る。恋心をつかれて犯した失態。

「カタリナ」

振り向くとそこのミカエルの姿があった。カタリナは思わず取り乱す。

「ミカエル様……!!も、申し訳ございません!!」

すっかり取り乱したカタリナの目からは涙が溢れ、頬を伝う。カタリナは自分でもどうしたのかわからず、必死に涙を抑えようとした。しかし止まらず涙の粒が零れ落ちていく。そんなカタリナを見てミカエルは内心うろたえていた。これが妹のモニカだったらなんとでもやりようがあった。だが相手はカタリナである。未来の妻に迎えようという女性なのだ。ミカエルは不器用にカタリナをなだめ、泣き止むのをまった。



カタリナが落ち着くと、ミカエルは意を決して語り出した。

「カタリナ、私は人を愛したことがない男だ。無論、妹のモニカのことは兄として愛している。だがそれは妻となる女性を愛するのとは別だ。私は幼少の頃よりロアーヌ君主の跡継ぎとして相応しい人間になることばかり考えてきた。恋愛などにうつつを抜かしている暇があったら帝王学や政治の勉強ばかりしていた。それゆえ女心には疎い。そんな私の妃になればいろいろと不満も出てこよう。だが、私はカタリナ、そなたを是非とも妻に迎えたい。今まで本気で人を愛したことがないからこそ、そなたを妻として、この世で最もかけがえのない女性として、愛したいのだ。カタリナ、どうか私の妻になってくれぬか」

ミカエルは片膝をつくとカタリナの手に口づけをし、改めて求婚した。うららかな昼の最中、ロアーヌ城内の庭園にて、美しい花々が咲き乱れる中、ミカエルはカタリナにプロポーズした。

「ミ、ミカエル様……!!勿体無きお言葉です!私のような者でよろしければ、あなた様の妻として一生付き従いたく存じます」



こうして、ミカエルとカタリナは婚約した。



「カタリナ、髪を伸ばしたらどうだ?短い髪もいいのだが、私はやはりそなたの長い髪が好きだ」
「ミカエル様がそう仰るのなら」



ミカエルとカタリナが婚約してしばらくして、モニカがミカエルの元にやってきた。

「お兄様、とてもいい提案があるのですけれど」
「何だ?」
「お兄様はカタリナと、わたくしはユリアンと、それぞれ婚約しましたわ。せっかくですもの、式は一緒に挙げましょう」
「合同で挙式するのか」

それは名案だとミカエルは思った。王侯貴族の結婚式は平民より遥かに段取りなど面倒なことが多い。一度に済ませてしまった方が手間が省ける。何より、その方が盛り上がるだろう。めでたいこととして民衆からも盛大に祝福されることになろう。こうしてロアーヌ国王ミカエルとその妹モニカの結婚式は同時に行われることに決定した。



「ねえカタリナ。私達これから姉妹になるのね」
「モニカ様」
「カタリナ、あなたの方がお姉さんなのだし、私のことはこれから『モニカ』と呼んで。元々あなたは私のお姉様みたいなものだったけれど、本当に姉妹になる時がくるなんて…!それに私を『モニカ』と呼んでくれるのはお兄様とユリアンだけだったから、家族がもう一人増えて嬉しいの!」

モニカは常に相手に丁寧な言葉使いをする。しないのはカタリナ相手くらいのものだった。そのカタリナはこれから義理の姉になるというのだ。モニカは嬉しさでいっぱいだった。

「モニカ様……いえ、モニカ……」
「これからもよろしくね!お姉様!」

カタリナの方は今まで仕えていた相手が妹になるということで、ぎこちなかった。

一方、ミカエルとユリアンもお互い義理の兄弟になることを改めて意識した。ミカエルは義理の弟となるユリアンを眺め、ユリアンは緊張した面持ちでミカエルの視線に真面目な表情で応える。

「ユリアン、モニカを頼むぞ。いざとなったら義理の兄である私を頼るがよい」
「は、はいっ!ミカエル様!モニカはこの命に代えても大切にします!大切に守ります!」

完全に緊張し、声もうわずった状態のユリアンであった。


ミカエルとモニカ、二人の婚約が決まったことでカタリナとユリアンも義理の姉弟になる。カタリナがユリアンと対面すると、ユリアンはやはり緊張した面持ちでいる。ユリアンはモニカが駆け落ちをした相手の男である。そしてミカエルはユリアンを男爵に命じ、身分の差をなくし二人の仲を認めた。ミカエルが認めたのならカタリナが言うことは何もない。モニカは心底幸せそうにしているし、ユリアンもモニカの気持ちに全力で応えようとしている。それが端から見ていても十二分に伝わってくる。

「ユリアン」
「は、はいっ!」
「平民出身のあなたにとって男爵になるのは大変でしょうけれど、今後も剣の稽古を怠ってはなりませんよ。そして私の代わりにモニカ様――これからは私の妹となるモニカを守り通しなさい。誠実な夫として」
「は、はいっ!」
「剣の相手に不足ならいつでもこのカタリナが相手をしましょう」
「あ、いえ……俺……いえ、私は私で剣の腕を磨き続けます!」

ユリアンはカタリナとの会話で何度も、どもってしまった。ユリアンにとって義理の兄夫婦はどちらも緊張する相手である。ミカエルは敬愛するロアーヌ君主で今度国王になる。カタリナはその王妃。それにカタリナは聖剣マスカレイドの使い手として誇り高き武人でもある。ユリアンは元の身分を考えると身が縮まる思いだったが、モニカの為に自分ができる限りのことはしようと心に誓った。



ミカエルとモニカが同時に婚約し、二組同時に挙式するという知らせは世界各地に瞬く間に広がり、これからのロアーヌ王国繁栄を願って、民衆からもこれ以上ないくらい祝福された。ミカエルは全世界の仲間達に結婚式の招待状を送った。仲間達はそれぞれ結婚祝いを持って全員ロアーヌへ向かった。アビスとの最終決戦以来、全ての仲間が一度に集結しようとしていた。





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