ミカエルとカタリナ、ユリアンとモニカの結婚を祝う為に、世界各地から仲間達がロアーヌに集結した。みんなそれぞれ結婚祝いを持参している。レオニードはポドールイのトレード物件で最も大手の『宝石商エリザベータ』の宝石を贈った。ポールはキドラントの『工芸家ヴィルジニー』の工芸品。ロビン親子は『シーホーク』のお酒。ヤンファンとバイメイニャンは東方の名産物。ツィーリンはムング族の名産物。象はラシュクータの名産物。ティベリウスは『ゲッシア絨毯』の絨毯。ウンディーネは『モウセズワイン』。フルブライトは『デマンダ陶器』。ブラックはアケの『オーロラコーヒー』。タチアナは父親からラザイエフ商会として『トゥイクワイン』と『トゥイクティー』を渡された。シャールとミューズはクラウディウス家として『メッサーナ織工房』の毛織物を贈った。ミューズは個人的に家で育てた花をブーケにしてカタリナとモニカにプレゼントした。
ウォードは氷湖で釣った魚を持ってきた。いかにもウォードらしい。だが、ミカエルの遠縁であり、ユーステルムとロアーヌの外交上、ユーステルムとしては『フレデリック毛皮加工』の毛皮のコートが贈られた。
トーマスはトーマスカンパニーの社長として極上の『メッサーナワイン』を贈った。
ノーラは新しく鍛えて作った小剣と大剣をそれぞれミカエルとカタリナにプレゼントした。
エレンとサラは二人で可愛らしいブーケを作った。ミューズが作ったものとはまた違う可憐な花束がカタリナとモニカに贈られた。
ハリードはゲッシア朝の酒を贈った。
雪だるまは元気いっぱいに玄武術を使い、かすかな雪の結晶を降らせ、
「結婚おめでとうなのだーーーーー!!!!!」
と、二組の結婚を祝った。ロブスター族のボストンはダンスを踊って披露した。そんな中、少年はどうしたらいいか途方に暮れていた。自分の出身地の名産物を贈ることも、雪だるまのように無邪気に祝うこともできない。その気持ちを正直に伝えると、ミカエルはこう言った。
「それではサラと二人で、宿命の子として我々を祝福してくれ」
そこでサラと少年は二人手をつなぎ、宿命の子としてミカエルとカタリナ、ユリアンとモニカの結婚を祝福し、ロアーヌ王国の更なる繁栄を願った。それをティベリウスは遠くから何とも言えない心境で見ていた。
新たに誕生したロアーヌ王国の王ミカエルと王妃カタリナ、そしてミカエルの妹モニカとその夫の男爵ユリアン、二組の婚礼は未だかつてないほど盛大に行われ、大勢の人々に祝福された。ロアーヌの大臣達は以前からモニカの幸せを心から願っていた。だからこそツヴァイク公の息子との政略結婚の時は心を痛めていたものだ。それがモニカが本当に好きな男性と結ばれるとあって、皆、祝福していた。花嫁のモニカとカタリナはいつにも増して最高に美しい。花嫁衣装に身を包み、想う殿方と結ばれる彼女達は幸せの絶頂にあった。カタリナの方は真面目な性格もあって、ひどく緊張していたが、モニカはひたすら幸せそうにしていた。それは見ているものですら幸せな気分にさせ、未婚の乙女達を結婚への憧れでいっぱいにさせるほどであった。エレンやサラも例外ではない。
「モニカ様……!カタリナ様……!綺麗……!!」
東方のヤンファンとツィーリンも列席していた。ツィーリンは若い女性らしくうっとりと二人の花嫁に見とれていた。
「素敵……!!やっぱり結婚って若い娘の憧れよね~」
隣でヤンファンはムング族の花嫁衣装を纏ったツィーリンを想像して赤面していた。
その時、妖精達が現れた。かつて共に戦った仲間の妖精の他に、ジャングルの妖精の村の妖精達が大勢現れ、結婚式の会場を飛び回った。
「これが人間の結婚式なのね。素敵!」
妖精達は嬉しそうに飛び回り、花々を投げたりして結婚を祝福した。
「おめでとう!おめでとう!
「お幸せに!お幸せに!」
結婚式の会場に大勢の妖精が現れ、祝うなどという事態は未だかつてなく、人々はどよめいた。ミカエルは珍しく顔がほころんでいた。カタリナはびっくりしながらも妖精達の祝福を受けていた。ユリアンも初めは驚いていたが、笑顔で妖精達にお礼を言った。モニカは感激していた。
「まあ、何て素敵なことでしょう!ねえ、ユリアン、お兄様、カタリナ姉様、私達の結婚を妖精達がいっぱい祝福してくれるわ!」
しばらくすると、詩人がフィドルを奏で、歌を歌う。それに合わせて妖精達がダンスを踊り出した。祝宴は未だかつてないほど盛況になった。それは、歴史に残るほどの素晴らしい結婚式だった。
シャールとミューズも列席していた。ミューズは純粋にこの式典を楽しんでいるようだ。しかしシャールは密かにミューズに花嫁衣装を着せて式を挙げられないのを残念に思った。妖精達か。いつか彼女達を招いてシャールとミューズも彼らだけの式を挙げよう。静かな教会で密かに厳かに行うのもまたいいだろう。
「ああ、私、幸せ過ぎて目も眩むようだわ」
モニカはひたすら感動していたが、ふと、ブーケトスのことを思い出した。ブーケトス。今回は二組の婚姻を同時に挙式したので、花嫁が二人おり、ブーケトスでブーケを受け取ることができる女性も二人ということになる。モニカはカタリナの元へ行った。ブーケトスについて相談する。カタリナとモニカ、それぞれ別の方向へブーケを投げることにした。
ブーケトス。結婚式において若い娘達の夢である。皆ブーケを受け取ろうと必死である。大勢の女性達の中にエレンとサラもいた。彼女達もそれぞれ思う男性がおり、ブーケが欲しいのである。今回ブーケを受け取ることができるのは二人。モニカとカタリナが別方向に投げることは十分にわかっていたので、皆、左右に散らばっている。盛大に祝われる式典の中、モニカとカタリナはブーケを投げた。わあっと歓声が上がり、女性達がブーケを受け取ろうとする。そして受け取った幸運な二人の女性は――
カタリナが投げたブーケはエレンが
モニカが投げたブーケはサラが
それぞれ受け取った。更に大声援が上がる。
「まあ、エレン様とサラ様が受け取りましたわ」
「モニカさ……モニカ、あなたはこれからロアーヌ王国の王女ということになるのですから、エレンやサラを様付けで読んではいけませんよ」
「はい、カタリナ姉様。……でも、私にとっては二人共大切な恩人ですわ」
ブーケトスを受け取りたくて必死でいながら、いざ受け取ることに成功すると呆然としているエレンとサラであった。そんな二人を見て、カタリナとモニカは微笑し、ロアーヌ城の奥へ戻って行った。
「サ、サラ……!」
呆然としたままのサラに、少年は思わず駆けよらずにいられなかった。しかしサラの好きな男性は――
「サラ、良かったじゃないか」
トーマスは穏やかで優しい目でサラを見ていた。サラは思わず赤面する。
「ト、トム!あの、私……」
「ん?どうしたんだい?サラならきっといいお嫁さんになれるよ」
トーマスはさりげない口調で言ったつもりだったが、内心動揺していた。サラに対しての自分の気持ちがわからなくなっているのだ。それを見た少年は、この式が終わったらトーマスと決着をつけよう、サラともきちんと話をしようと決心したのだった。
一方エレンは――エレンも呆然としたままだった。そっとハリードの方を見ると、ふっと笑みを浮かべていた。そしてそのままミカエルに呼ばれてロアーヌ城内に入って行った。
「私、花嫁になれるのかしら?」
ハリード。エレンの心を支配してやまない男はエレンに対してつれないように思う。ファティーマ姫という愛しの姫の存在があるのだから無理もないのだろう。ハリードは未だにファティーマ姫を想っている。今まで恋愛に興味が無く、男勝りに生きてきたエレンは自分の花嫁姿なんて想像できなかった。それに、仮にハリードの心を射止めることができたとしても、式は挙げないような気がする。エレンの心の中は悲しいような悔しいような気持ちでいっぱいになった。自分でも自分の心がどうなってるのかわからない。そうしているうちに妹のサラがやってきた。
「お姉ちゃん!お姉ちゃんもブーケを受け取ったのね!私もなの!」
「えっ?じゃあ私達、姉妹そろってブーケを受け取ったってこと?」
改めて驚き呆然とする二人。
「お姉ちゃん、私、これから幸せになれるかな……?」
「な、何言ってるの!もちろんよ!」
サラはブーケをぎゅっと握りしめていた。宿命の子としての危機が去った今、自らの力で幸せを掴み取りたいという気持ちでいっぱいなのだ。エレンはやはりサラが大事であり、サラが幸せにならなければ自分のことを考える余裕がなかった。
ブーケを受け取った二人の姉妹は動揺している。トーマスと少年の心も揺れ動いている。そんな中、史上空前絶後の盛大なダブルウェディングは幕を閉じたのだった。
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