雲の上まで遥か高く聳えるイルージアの山…
その頂上の神殿にはマナの樹が祭られている

マナの樹は宇宙全ての力を感じ取り
それをエネルギーにして自らを成長させる

伝説ではその樹に触れた者は
永遠の力を得ることができるという…







とうとうジュリアスはマナの力を手に入れた。幼い頃からの願望が叶ったのだ。現在彼はマナの力を手に入れて、言い表せない程の恍惚感を味わっていた。

ジュリアス「これがマナの力か…素晴らしい!!」

これで思うがままに世界を支配できるのである。彼はかつてマナの力を手に入れたバンドール帝国の子孫。バンドールがマナの一族とジェマの騎士により滅ぼされて以来、シャドウナイトに拾われて以来、密かに帝国を復興させようとしていた。彼にとっては主君であるシャドウナイトも捨て駒でしかなかった。マナの一族の少女もただマナの力を手に入れる為だけの道具だ。反抗されないよう、未だに操って動きを封じてある。全ては自らの野望の為、利用したにすぎない。そして主君であった男もジェマの素質を持つロイとかいう男に倒され、もういない。ロイという男も魔法を放って滝から突き飛ばした。シャドウナイトとの死闘を終えたばかりの弱った身体であの高さから落ちればもはや生きてはいないだろう。

邪魔者は全て消し去った。

ジュリアス「今こそバンドールの復活を祝う時!!世界中の人間共は全て私にひれ伏すのだ!」

ジュリアスはマナの力をどんどん吸収していき、その力で世界各地の魔物を復活させた。そして、手下となった魔物達を使って町や村を襲撃した。戦う力のない人々は次々とやられていき、滅ぼされた町や村は増えていった。かろうじて生き残った人々にも各地を徘徊する魔物達が無慈悲に止めを刺していく…まさに世界は恐怖に包まれていった。





一体どのくらい眠っていただろう。もう何百年も眠っていて身体を起こすことも叶わないような気がする。思考がうまく働かない。意識は朦朧として、今までどうして来たのか思いだせない気がする。このまま混沌の海に呑まれていってしまおうか――そうすれば自分は楽になれる――全てから解放される――そんな思いで、様々な雑念が漂う意識の渦の中で翻弄されるに任せていた時――

(旦那! 旦那!! お願いだから起きて下さいよ旦那ああーーっ!!! )

目を覚ますとそこはどこかの家の中だった。

ボガード「気がついたか、ロイ」
ロイ「ボガード!生きてたのか?…あ、あれ…?僕も……生きてる??ボガードは…確か飛空挺で僕がジュリアスに落とされて…」
ボガード「あれからわしも船から落とされてのう…ここのかみさんのサラに拾われたんじゃ。おまえも運ばれてきた時はもう駄目かと思ったぞ。ジェマ最後の望みにここで死なれちゃ困るからな」
ロイ「僕もう自信なくしたよ。アマンダを死なせ…挙句は女の子一人すら守れない…この僕にジェマの資格なんてないよ」

ボガード「なに弱音を吐いてるんだ。こんなことでくじけてはジェマの…」
ロイ「うるさいな!ジェマ、ジェマって…初めからそんな素質はなかったんだよ!あんたたちにおだてられてその気になった僕が馬鹿だったよ」
ボガード「ロイ、おまえ!」
ロイ「そんなに言うなら自分でやればいいだろ!あんただってかつてのジェマなんだから」
ボガード「バッカヤロー!出てけ」

ロイは家を飛び出した。


ロイの心はやりきれなさで一杯だった。アマンダの記憶…思いだすだけでも心の中が苦痛に満ちてくる。
そしてマリア。ビンケットの館で、飛空挺で、グランス城で。さらわれるたびに必死で助けようとした自分の愛する少女。グランス城で、とうとうこれで最後だと思った。シャドウナイトと決着をつけて全てを終わらせ、少女を悪の手から守りきろうと思った。
しかし、それは徒労に終わった。シャドウナイトの背後にはジュリアスがいたのだ。マリアはジュリアスに利用され、マナの力はとうとう悪の手に…

ロイが自らの無力さでうなだれていると、自分とボガードを介抱してくれたらしいサラという女性が話しかけてきた。

サラ「あなたには黙ってろって言われてたんだけど…あの人、船から落ちたショックでしばらく歩けない体になってしまったの…ジュリアスの手下が町を襲っている噂を耳にするたびに…動けない自分の体を憎んでいたわ。その時は必ずこう言うの…ロイという男が必ず来る……って。私もあまり信じてなかったの。だけれど…チョコボに運ばれてきたあなたを見て変わったわ。チョコボが身を犠牲にしてまでも運んできたあなた…チョコボでさえあなたが平和を取り戻す最後の希望だってことを感じてる…もう駄目かもしれないけどボンボヤジのとこで看病してるから見てきてあげてね…」
ロイ「……」

ロイはしばらく黙ったまま町を歩き回った。

男「ここはイシュの町。以前大きな力を手に入れたバンドール帝国はこの地方を中心にして栄えた…聖剣を持ったジェマの騎士の活躍によって悪の帝国は滅んだ…それらの遺跡の数々がこのガラスの砂漠の下に眠る」
ロイ「ジェマの騎士…か…」
(旦那、元気を出して下せえ。悪と戦い世界に平和を取り戻すのは並大抵のことじゃないんで)

女「ジュリアスの力で蘇った悪魔達が各地の町を襲っているらしいの…いずれはここも…」
ロイ「ジュリアス…魔物を復活させて恐怖で世界を支配しようというんだな…おそらくはグランス公国より恐ろしいことになるだろう…」
(旦那、旦那は世界の唯一の希望なんすよ!それにマリアちゃんも助けなきゃならないでしょう?)
ロイ「…マリア…」

老人「この世界では水の上を移動する技術はまだ開発されてない。でもメカに強いボンボヤジならそれも可能かもしれん。西の外れの家に住んでいる変なおやじだよ」
ロイ「ボンボヤジ…?ああ、サラさんが言ってたチョコボが看病されているところだな。行ってみよう」

西の外れのボンボヤジの家らしき建物へ近づくと、中から激しい機械音がした。

ロイ「……?」

ロイは怪訝に思い中に入ってみる。

ボンボヤジ「ほれいっ!チョコボが生き返ったぞいっ!怪我のひどかった下半身をメカにしてついでにホバー機能も搭載したんじゃ。名付けてチョコボットだいっ。これで水の上もスーイスイじゃ」
ロイ「な、な…チョコボが生き返ったって…下半身をメカに改造しちゃったのか!」
ボンボヤジ「そうでなきゃもう歩けない状態だったからなっ!」

チョコボはロイを見るとすぐに近寄って懐いてきた。

チョコボ「クゥ…」

チョコボのつぶらな瞳に見つめられ、サラの言ったことや謎の守護霊に励まされたことを考え、ようやくロイは決心する。

ロイ「お前の瞳には勝てないよ…」
ボンボヤジ「おお、行く気になったか。旅に出る前にボガードのじいさんのとこいって謝ってきな」
ロイ「はい」


サラの家に戻るとボガードは黙ったままロイの心情を察したようである。

ボガード「わかっていたよ。それでこそジェマの騎士だ。いいかロイ、よく聞け。ここからは命がけの戦いじゃ。ジュリアスはとうとうマナの力を手に入れてしまった。その力を抑えられる者は聖剣エクスカリバーを持ったジェマの騎士しかおらん」
ロイ「聖剣?エクスカリバー?」
ボガード「かつてのバンドールの暴走を食い止めた唯一の希望じゃ」
ロイ「その時のジェマの騎士があなただったのですね。…で、今その剣はどこに?」
ボガード「この世界のどこかに眠っている。再びウェンデルのシーバのところへ行くんだ!彼なら聖剣のことを知っているじゃろう。道がわからなくなったらボンボヤジに聞け!奴は地理にも詳しいからのう」
ロイ「わかりました」

ロイは新たに旅の準備を整えた。

ロイ「チョコボ、それに僕の頭の中にいるお前、心配かけたな。もう大丈夫だ。ボンボヤジから道は聞いたし、よーし、行くぞー!」

ロイはチョコボと共に旅だった。世界に平和を取り戻し、マリアを助ける為、聖剣を求めて――




次へ
前へ


二次創作TOPへ