ロイが無事ガイアの洞窟を抜けると、背後から声をかけられた。

「待て!ロイ!」

振り向くと、それはボガードだった。

ロイ「ボガード!すまない。マリアをグランスに…」
ボガード「話はシーバから聞いておる…お前のせいではない。ジュリアスはいろんな術で人をだますのを得意としている。今後も気をつけるんじゃな。マリアを乗せたグランスの飛空艇は補給のため北の湖に停泊してるそうだ。わしもお供しよう。急げ!」
ロイ「ああ。ところで、ボガードもやっぱりミスリルを…?」
ボガード「もちろんじゃ。途中でドワーフから武具を買い、準備を整えてきたぞい。さあ、行こう!」


フィールドを進んでいくと、途中で進めないところがある。少し離れたところに杭があるが、チェーンフレイルを伸ばしても届かない。

ボガード「ジェマの騎士は精神力で武器の能力を最大限に引き出すことが可能なのじゃ。パワーを最大までためてみい。きっと今までとは違う効果が見られるだろう」
ロイ「よし!それじゃあやってみよう!」

ロイはしばらく精神を集中し、力を充分にためたところでチェーンフレイルを思いっきり離れた杭に向かって伸ばしてみた。

ロイ「やった!うまくいったぞ!」
ボガード「お〜い、わしを置いてくつもりか?」
ロイ「あ、ボガード、ちょっと待ってくれ」

ロイは再び精神を集中した。そしてボガードに向かって思いっきりチェーンフレイルを巻きつけ、こちら側へ引き寄せた。

ボガード「うわああああーーーーー!年寄りになんてことするんじゃあー!」
ロイ「だって他に方法が思いつかなかったんだよ」
ボガード「全く、近頃の若いもんは…ぶつぶつ…」

2人は言い争いながらもグランス公国の飛空挺に潜入した。





グランス公国の飛空挺の薄暗い独房の一室――

そこにマリアは入れられていた。

ウェンデルで会った旅の男。ロイと自分を恋人同士だと誤解しており、マリアはあの時気恥しい気分になっていた。後で話を聞くと、自分を助ける為、ロイに協力してくれたのだという。
今になって振り返ると、あれは全てロイとマリアを油断させる為の演技だったのだ。
男の正体はジュリアス――グランス公国の魔道士であった。

ウェンデルがグランスの飛空挺の奇襲に遭った時、旅の男に言われるまま慌ててついていってしまった自分が、ロイと知り合いなだけであっさり信用してしまった自分が許せない。何故ロイの元を離れてしまったのだろう。襲撃により心が動揺していたと言い訳すればそれまでだが、それだけでは済まない。
マリアは世界征服を企むグランスに捕らわれてしまったのだ。
なんと情けないことだろう。母からマナの一族としての使命を言い渡されたばかりであるのに。

母はかつて、皆に勇気と希望を与え、先頭に立って元気づけ、ジェマの騎士を導き、勇敢に戦ったという。
それに比べ自分は…あっさり敵の捕虜になってしまったのだ。独房なので当然造りは頑丈である。脱走することは叶わない。
何もできない自分が口惜しい。またロイの助けを待つしかないのだろうか。
外の様子は皆目わからないが、どうやらどこかに停泊しているらしい。
たとえ今、飛空挺がとまっているとしても、飛空挺と人間の足である。ロイがここまで来れるとは到底思えない。

このまま自分はグランスに利用されるだけで終わってしまうのだろうか。それとも何か自分に出来ることはないのだろうか。

マリア「…お母さん…」

マリアはマナのペンダントを眺めた。生まれた時から持っていた母の形見。
母はこれでマナの樹に誰も近づけないよう封印を施したという。

――ふと、マリアの頭の中にある考えが浮かんだ。
このペンダントが無ければ封印を解くことはできない。それならば――
自分はここから抜け出せないが、窓からペンダントを捨てることは出来る。
大切な母の形見だが、世界征服の為に悪用されるくらいなら――

マリアが非常に心苦しい決断をしようとしていたその時だった。


ロイ「マリア、助けに来たよ」
マリア「ロイ…?」

マリアは、これは夢ではないかと思った。独房の向こうにロイが立っているのである。
そこで、船が発進する音がした。飛空挺のエンジンが回復したのだ。

ボガード「再会の挨拶は後じゃ。船が出るぞい」

マリアはロイが自分を助けに来たことにしばらく呆然としていた。そしてハッと我に返る。

マリア「この扉は頑丈過ぎて開かないわ」
ロイ「ボガード、僕達2人でなんとかやってみるか?」
ボガード「そんな暇はない。マリア、窓はどうじゃ?」
マリア「なんとか出れそうよ」
ロイ「外から回ろう!待ってろ、マリア!」
ボガード「わしはここに残ってマリアを見てよう。ここはわしに任せい」
ロイ「行ってきます」
マリア「気をつけてよ」


ロイ「えーと、どっちの扉から来たっけ?こっちかな?」

ロイが入った部屋の中にはウェアウルフが密集していた。ロイは不意打ちで大ダメージを受ける。

ロイ「ど、どうしよう!MPもないしポーションもない!!このままじゃやられる!!!」
(旦那、あそこのベッドに寝てみて下せえ!)
ロイ「敵がこれだけいるのにそんな無防備なことできないよ」
(いいから早く!!このままだと本当にやられちまいますよ)

ロイは怪訝なままベッドに身を横たえた。すると、みるみる傷口が塞がり体力が戻ってくる。

(これはバンドールが発明した魔法のベッド。1分も経たないうちに体力を全回復してくれる優れものですよ)
ロイ(何でお前がそんなこと知ってるんだ?)
(あっしは成仏前の守護霊ですからね…まあ、生きていた頃には無かった知識も多少あるんですよ。そこは深く突っ込まないで下せえ)
ロイ(…わかったよ。でもさあ、こうしている間にもウェアウルフ達が僕を無視して部屋の中を暴れまくっているのが気になるんだけど)
(何せこれは魔法のベッドですから)
ロイ(……)
(気になることと言えば、ジュリアスは何でこんな所に飛空挺を泊めていたんでしょうねえ?グランスは北にあるのに西へ飛ぶなんて)
ロイ(そういえば変だな)

ロイが頭の中で謎の守護霊と話していると、外から船員達の話し声が聞こえてきた。

「この空飛ぶ船は昔バンドールが使っていたものをジュリアス様が再び開発させたんだってよ」
「だけどうまくコントロールできなくて北のグランスへ行く代わりに西へ暴走して、ここに不時着したんだよな」
「試運転もせず無茶するから。ジュリアス様も見栄っ張りだからなあ」
「何せ初めて動かした上、暴走したもんだからエンジンを回復させるのに随分時間がかかっちまったよ」
「っと、こうしちゃいられねえ。早く持ち場につかないとジュリアス様にどやされるぜ」

一連の会話を聞いて、ロイと謎の守護霊はついさっき疑問に思っていたことについて納得した。

ロイ「そうだったのか……っと、僕もこうしちゃいられない。早くマリアの所へ行かなきゃ」


ロイは船内を探索して、なんとかマリアの独房の窓を探し当てた。

ロイ「さあ、逃げよう」
マリア「あなたにペンダントを渡しておくわ!」

マリアは思った。自分がペンダントを持っていては危ない。しかし大切な母の形見でもある。それならば最も信頼する男性に…

ジュリアス「そうはさせんぞ!」

ロイがマリアからペンダントを受け取ったその時、ジュリアスの魔法攻撃がロイを直撃した。ロイは飛空挺から落ちそうになり、必死で捕まっている。

マリア「落ちちゃ駄目よ!」
ジュリアス「フッフッフッ…それはどうかな?お嬢さん。その男の装備を見ろ。鎧兜に盾、その他重量の武器を多数所有。こんな重装備で重さに耐えられると思うか?フフフフフッ」
ロイ「…う…くっ…駄目だ…」

ロイの捕まっていた手が飛空挺のタラップから離れ、落下していった。

マリア「ロイ!!!!!」

マリアはあまりのことに呆然とした。この世で最も信頼する男性が遥か上空から地上へ落下してしまったことに。

ジュリアス「フハハハハッ、邪魔者は片づけた。さあ、グランスへ向かうぞ」

ロイが飛空挺から落下し、邪魔者は消えたと完全に有頂天になっていたジュリアスは気づいていなかった。
マナの封印を解くペンダントも一緒に落ちて行ったことに。




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