ロイはジャドへ向かう道中、ずっと黙りこんだままだった。
無理もない。仲間のアマンダが死んでしまったのだ。それもやむを得なかったとはいえ、止めを刺したのはロイ自身である。
謎の守護霊もロイに気を使って静かにしている。
何も知らないチョコボはただ心配そうにロイに向かってつぶらな瞳を向けている。

そして、またチョコボを町の外へ置いて、ロイはジャドの町に入ったのだった。
今すぐにでもアマンダの仇を取りたい気持ちはやまやまだが、ひとまず宿で休むことにする。
そしてその夜――


ロイは悪夢にうなされていた。


ロイ「うう…アマンダ…許せ…アマンダッ!!!!!

ロイはベッドの上で、がばと起き上がる。はあはあと息を切らしながら、先日の出来事を思い出す。
アマンダがメデューサと化するまでそれほど時間はかからなかった。ロイには迷う時間がなかった。
あれは仕方のなかったことだったのだといくら自分に言い聞かせても、胸中の苦しみは消えない。

大切な仲間を自らの手で殺めた、なんともいえない、嫌な手ごたえ。

モンスターや敵対する人間をやむなく倒すのとはわけが違う。

仲間を殺し、血をすくう、嫌な感触。

感情を殺さなければ決してやれるようなものではなかった。


ロイは自分が平静を取り戻すまでしばらく佇んでいた。


そもそもの元凶はデビアスである。アマンダを脅し、マナのペンダントを奪った。
マナのペンダント。マリアの大切な母の形見である。そんな大事なものを何故自分にあずけたのか、理由ははっきりとはわからないが、なんとなくわかるような気もしてくる。おそらくマナのペンダントはグランスにとっても重要なものなのだろう。

ロイ「マリア…」

そうだ、マリアを助けに行かなければならない。アマンダの仇、デビアスを倒し、マナのペンダントを取り戻し、グランスまで行って助けに行かなければ。

ロイの気持ちは定まった。





翌朝、ロイは再びデビアスの屋敷へ潜入した。しかし、以前の場所にはデビアスはいない。オウムだけがいた。つまりアマンダの弟レスターである。
ロイはまたアマンダの血をすくった時のことを思い出し気分が悪くなったが、感情を殺してアマンダの血をオウムに飲ませた。
するとオウムが人間の姿に戻った。吟遊詩人のなりをして、竪琴を持っている。

レスター「ありがとう。君は?」
ロイ「君の姉さんの知り合いさ」
レスター「姉さんは?」

ロイは湧き上がってきた苦しい感情をぐっとこらえ、簡単な事実だけを話した。

ロイ「残念だけど…死んだよ。デビアスの罠にはまって」
レスター「僕を救おうとしたばっかりに…畜生!」
ロイ「アマンダの仇をとるなら僕も手伝うよ…苦しかった時の仲間だからね」
レスター「ありがとう!隠し通路はこっちです!」

レスターが竪琴で音楽を奏でると、隠し階段が出現した。

ロイ「魔法のメロディか」
レスター「さ、行きましょう」


ロイ達はデビアスの屋敷の奥に潜入した。しかし――

レスター「ねえ、さっきから何度も同じ場所に戻ってしまうけど…」

彼らは気づいていなかった。隠し階段を下りてから南へ向かい、そこから同じ方向ばかりに進んでいることを。


ロイ「う〜ん、困ったなあ」
レスター「気分を変えるかい?BGMを変えてあげるよ」
ロイ「気分転換になって何か奥へ進む方法が思いつくかもしれないな。じゃ、やってみてくれ」

レスターは竪琴を奏でた。


チャララ〜〜〜〜〜チャラララ〜チャ〜ラララ〜ララチャ〜ラララ〜♪

レスター( フフフ…姉さんの仇…コロしてやる…!! )

ロイ「ねえ、なんだか曲がものすごく暗いんだけど…」
レスター「…ハッ!!ご、ごめんよ、姉さんが死んじゃったって聞いて…僕…もう…泣きそうなんだ…僕は繊細で傷つきやすい吟遊詩人なんだよ」
ロイ「そうか。わかったよ。でも、もっと他の曲にしてみてくれないかい?」

レスターは再び竪琴を奏でた。

チャ〜〜〜〜〜チャ〜〜チャ〜ラララ〜〜〜〜〜ラ〜ラ〜ラ〜ラ〜ラララ〜ラララ〜♪

レスター( よくも姉さんを…許さないぞ許さないぞお…!! )
ロイ「レスター、もうやめよう。どうやら君は悲しみで一杯で暗い曲しか弾けないみたいだから」
レスター「…ハッ!!ご、誤解しないでくれよ!僕は純粋無垢でピュアな心の持ち主さ♪」
ロイ「それより困ったなあ。鍵とマトックがどんどん減っていく。このままじゃ全部なくなってしまうよ。レスター、悪いけど僕は一旦町へ戻って道具を買い足してくるよ」
レスター「ええっ!?そんな!姉さんの仇…一緒にとってくれないのかい?僕はひとりでも行くよ!」
ロイ「少しだけ待っていてくれればいいんだよ。必ず戻ってくるから」


数時間後――

レスター「ほっ、来てくれたんだね…やっぱひとりじゃ心細いや」
ロイ「さあ、先へ進もう」


2人は今まで行っていなかった扉に気付き、先へ進んだ。


屋上にはデビアスがいた。

デビアス「ここまで来おったか。しかしペンダントは渡さんぞ!」
ロイ「アマンダの仇!」
レスター「姉さんの仇!!」

デビアスは魔法の弾をバリアとしてきてうかつには近づけない。レスターは離れた場所から必死に攻撃している。ロイは思い切ってデビアスの懐に飛び込み、ひたすら攻撃を連打した。そしてデビアスを倒すことに成功した。

レスター「やったぞ!」

デビアスはロイの方を見て言った。

デビアス「貴様の欲しいペンダントはもうここにはない…我がしもべのガルーダがシャドウナイト様に献上する為、奇岩山を飛んでる頃よ…」

デビアスは息絶えた…





レスター「行くんだね」
ロイ「うん。しかし奇岩山は毒の霧に阻まれているし…」
レスター「大丈夫さ。僕が奏でるハープのメロディが暗黒の霧をも晴らすのさ」

レスターは竪琴を奏で始めた。未だかつて聞いたことのないほどの美しい旋律が流れる。それは心洗われるなんともいえない響きだった。
ロイはしばらくそのメロディに聞き入っていた。アマンダの悪夢も見事仇を討ち、心は一旦晴れやかになる。
その余韻にひたりながら、ロイはレスターに別れを告げようとした。

ロイ「じゃあ…」
レスター「うん。僕はこの町に残ってまたハープを弾き続けるよ。姉さんが安らかに眠るように…君はどうするんだい」
ロイ「僕はまだやることがある。君がアマンダを…アマンダが君を愛してたように僕にも愛する人がいるからね…」
(愛する人って…いつからそういうことに…?)
レスター「これを持ってくといいよ。沈黙のメロディがモンスターを黙らせるんだ」
ロイ「サイレスの書か。ありがとう」
レスター「早く愛する人に会えるといいね」
ロイ「うん」
(だからいつからそういうことに――)

謎の守護霊は無視された。


ジャドの町の老人「霧が晴れたぞ!崖を抜けて北が奇岩山じゃ」


ロイは決意を新たにし、マリアを救う為、マナのペンダントを取り戻す為、奇岩山へと向かった。




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