プリムはパンドーラから出て無我夢中で走りだした。どこへ行こうと当てがあったわけではない。ただ家を飛び出して1人になりたかったのだ。
世界が平和になりモンスターのいなくなったフィールドを走り抜けた後、プリムは1人泣き出した。

私の愛しい人はもういない。

彼は1度私を殺そうとした。

私の親友は私を妬んでいた。

一緒に旅をしていたチビちゃんもいなくなってしまった。

ランディも故郷の村に帰ってしまった。

後に残るのは私ひとり。

みんな、みんな私を置いていなくなってしまった。




「プリム!?」

背後で声がした。その声は長い旅の間、聞きなれたもので嫌でも忘れるはずのない声。
振り向くとランディがいた。

プリム「ランディ?どうしてここへ?」
ランディ「村長からお使いを頼まれて…それよりプリム、どうしたんだ!」
プリム「な、何言ってるのよ!私は…何でもないわ!」
ランディ「そんなに悲しそうな顔で涙を流して、何でもないわけないだろう!」
プリム「全てが、虚しくなってしまったの…結局ディラックを救うことはできなかったし…」

そう言うと、プリムは堰を切ったように泣き出した。

プリム「何があっても、どんなことがあっても、強く生きていかなきゃならないのはわかってる!でも、今の私にはもう何も無いわ。何も…」
ランディ「そんなことない!ディラックさんもポポイもいなくなってしまったけど、今までの旅で出会った人達がいるじゃないか!」
プリム「ランディ、私、わたし…」

か細い、弱々しい声でしゃべるプリムはおよそランディの知っている彼女ではなかった。長い間一緒に旅をしてきたからわかる。プリムは強い。どんな時でも気丈に振る舞ってきた。だがその彼女は今、感傷の渦に引き込まれようとしているのだ。
ランディは黙ってプリムに近づき、両手を広げた。するとプリムはランディにすがりつき、ランディの胸の中で泣き崩れた。
ランディは優しく、力強くプリムを受け止め、プリムの頭を撫でた。

ランディ「プリム、泣かないで。僕がいるから。僕が側についてるから」

プリムの嗚咽はなかなか止まらなかった。





プリム「ごめんなさい。恥ずかしいところ見られちゃったわね」
ランディ「プリム…」
プリム「心配することなんてないわよ。これからも私は強く生きていくわ!」
ランディ「プリム」

そう呼んだランディの声はとても優しげだった。プリムが振り向くと優しく、穏やかな表情をしている。

ランディ「辛くなったら、寂しくなったら、いつでも僕のところへ来ていいよ。手紙をくれれば僕の方からパンドーラに行ってもいい」

ランディは優しくプリムの手を取った。

ランディ「安心して。プリムには僕がついてる。いつまでも側で見守ってるから」

静かにそう語るとランディは優しく微笑んでみせた。

プリム「ランディ…」

しばらく見ないうちに随分と大人びた表情をするようになったと、プリムは思った。ちょうど少年が青年に成長するまさにその段階。それはもう彼女が知っていたいつも頼りなげな少年ではなかった。


トクン


心臓の音が聞こえる。徐々に鼓動が高くなる。ドキドキして止まらない。顔はいつの間にか耳朶まで真っ赤になっていた。
一体どうしたというのだろう。相手はランディなのに。あの(・・)ランディなのに。



プリムにとって、ランディの第1印象は最悪だった。ゴブリン達に捕まって生贄にされそうになっているところを助けたのである。

マヌケ男

それがプリムにとってのランディの第1印象だった。
次にあった時、よく見てみれば立派な剣を持っているのに気付き、半ば強引に仲間に引き入れたのだ。
気弱な少年ではあったが戦闘能力はずば抜けて高く、格闘技の心得があるプリムより戦いでは頼りになった。何故あんな情けない性格をしているのだろうと不思議に思うくらいランディは強かった。
長い旅の間に彼も成長し、勇者としてふさわしい勇気を身につけたが、やはり気弱な少年というイメージは拭いきれなかった。

そんな彼が今、プリムの目の前に立ち、優しく手を取って微笑みかけてくれる。情けない奴だとばかり思っていたランディが今度は弱気になったプリムを支えてくれる。
プリムは真っ赤になり胸の鼓動が高鳴ったまま、こくんとうなずいた。

プリム「ありがとう、ランディ」
ランディ「もう大丈夫?家まで送って行こうか?」
プリム「あら、いつの間にそんなに紳士らしくなったの?」
ランディ「僕だっていつまでも子供じゃないよ」
プリム「ど、どういう意味よ!?」
ランディ「プリムは僕にとってかけがえのない大切な仲間だ。だからこれからもプリムを側で見守っていたいんだ」

『仲間』という言葉を聞いてプリムはがっかりした。それでも自分がランディにとってかけがえのない存在だと思うと急に嬉しくなった。
一体どうしたのいうのだろう。この気持ちは…


その日、夕方、プリムはランディにエスコートされて家に帰った。ランディは以前では想像できないくらい落ち着いて穏やかな物腰でプリムの父エルマンに挨拶すると、ポトス村へ帰っていった。
プリムは自分の中に新たに芽生えた感情を傍から見てわからないように押さえ込むので精一杯だった。そして部屋に戻ってからは、これからどうやって鈍感で奥手の彼との関係を進めていこうかということばかり考えあぐねていた。





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