リースの心は動揺していた。やっとフェアリーに選ばれし者である聖剣の勇者に会えたと思ったら、その者は仇であるナバール盗賊団の一員でもあったのである。厳密に言えば彼――ホークアイはローラント侵攻に加担していないとは言え、盗賊団の一員であるというだけでどうしても仇と見做してしまう。しかし聖剣の勇者であり、この世界の希望でもあるのだ。そして――そして――何故か必要以上にリースの心はホークアイに惹きつけられている。ホークアイの素性を知って以来、リースの心は常に揺れ動き、一つ所に留まることを知らない。ある時は仇として憎く感じ、ある時は尊敬すべき聖剣の勇者、ある時は――非常に好ましいと思う少年。だが、リースの中で完全にわだかまりが消えることはなかった。

作戦会議ではホークアイ、デュラン、ケヴィンの3人も新たに紹介されたが、ホークアイの出自を聞いた時、始めはアマゾネス達の中にも緊張が走った。リースはアマゾネスのリーダーとして、またローラントの王女として、事情をきちんと説明し、ホークアイに危害を加えないようしっかりと言い含めた。ナバール盗賊団はイザベラという謎の女に操られていることと、マナの剣の重要性。リースからそれらに関する説明を聞くと、アマゾネスは不承不承納得した。仮にもこの世界の希望である聖剣の勇者である。手荒な真似はできない。しかし、憎きナバール盗賊団の一員が聖剣の勇者とは到底信じられないと思う者も多かった。
作戦会議は難航した。アジトにいる生き残りだけでは正攻法でかなうはずがない。その時、じいの口から賢者ドン・ペリの情報を得た。さっそく探しに行こうと思ったリースだが、周囲の者に止められ、是非にと申し出たホークアイ一行に任せることになった。

その夜――

ホークアイ「リース…」
リース「ホークアイさん…」
ホークアイ「俺のことはホークアイでいいよ」
リース「ホークアイ…すみません。皆、頭ではわかっているのですが、あなたが元ナバール盗賊団の一員だったということがどうしてもひっかかってしまうのです。私達にとってナバール盗賊団は仇であるということに変わりはないのですから…」
ホークアイ「その通りだな。冷たい敵意のある視線を向けられても仕方がない。リースだって俺を責めたければ責めればいいんだよ」
リース「そんなことはできません!」

リースは反射的に大声を出してしまった。ホークアイは目を見開く。

リース「…あなたは悪くない。悪いのはイザベラという人です。もしあなたを仇と見做し復讐をしようとする者がいたら私が罰します」
ホークアイ「リース………しかし、君の心の中にだってわだかまりはあるだろう?」
リース「いえ…いいんです、私は。それにあなたは聖剣の勇者でもあるのですからそれだけ尊重されなければなりません。私達は国を取り戻し、エリオットを探しだすのが目的ですが、あなたには世界の命運がかかっているのですから」
ホークアイ「……………明日、商業都市バイゼルへ行く。そして賢者ドン・ペリを探してナバール軍に勝つ方法を聞いてくる。それまで待っていてくれ」
リース「…はい…どうかお気をつけて」





翌朝――

ホークアイ「で、また大砲か」
デュラン「たまんねえな」
ケヴィン「オイラ これ 嫌い」
ホークアイ「仕方がないな。リース達のようなか弱い女性にこんなものに乗らせるわけにもいかないし」
メルシー「何かおっしゃいましたか?」
ホークアイ「いや、別に。それより秘密のアジトの近くにこんな大砲を設置したらナバール軍に気付かれるんじゃないか?」
メルシー「昨日巡回に来たナバール兵に尋問されましたが、ボン・ボヤジが開発したキャノントラベルのことを説明すると呆れた表情で去って行きました」
ホークアイ「そうか…それがきっかけになってアジトがバレなきゃいいが…心配だな」
メルシー「そうしたら奴らに本物の大砲の弾を放ってやりますよ。それでは用意はいいですか?」

ホークアイ達は商業都市バイゼルへと向かった。





賢者ドン・ペリに会い、風の回廊で精霊ジンを仲間にすると、ホークアイ達は再びローラント秘密のアジトへ戻った。

リース「お帰りなさい。皆さんが無事で良かった…」
ホークアイ「ただいま、リース」
リース「あの、賢者ドン・ペリには会えましたか?」
ホークアイ「ああ、これから作戦を説明するよ」





ホークアイ達がドン・ペリから聞いた作戦を伝えると、ローラント軍はとうとう出陣の準備を始めた。進撃を翌日に迎えた夜、ホークアイとリースは2人で外に出ていた。

リース「明日はとうとう出撃ですね」
ホークアイ「ああ。俺も共に戦うよ」
リース「ありがとうございます」
ホークアイ「お礼なんていらないさ。これは俺自身の戦いでもあるんだ。イザベラと決着をつけなければ」

そう言うホークアイの表情は固い。

ホークアイ「リース、以前話したジェシカの呪いの首輪のことは覚えているかい?」
リース「ええ。そのイザベラと言う人が死んでしまうとジェシカという娘さんも死んでしまうという呪いですね」
ホークアイ「ああ。だからなんとかイザベラを殺さずに捕まえるだけにしたいんだ。だけどそれは俺の勝手なお願いだ」
リース「いえ、そんなことはありません。父の仇はとりたいけれど、無実の娘さんを犠牲にはできません」
ホークアイ「君は優しいんだね、リース」

ホークアイはリースの髪に触れ、そっと撫でた。リースは急に身動きがとれなくなった。逆らうことなく、されるがまま。ホークアイに見つめられると胸がドキドキする。だけどこれは決して抱いてはならない感情だ。リースは己の中に湧き上がった感情を必死に抑え込む。ホークアイはそんなリースを非常に穏やかな目で見つめていた。何か言いたそうだったが、口にしたのは戦いのことだった。

ホークアイ「君の目的はローラントの復興。俺の目的はジェシカの呪いを解くこと。だけどどちらもイザベラが関わっている。ヤツは俺達の共通の敵だ」

ホークアイはリースの両肩に手を置いた。

ホークアイ「共に戦おう、リース」
リース「はい」

余計なことは考えてはいけない。ホークアイはあくまでも共に戦う仲間なのだ。それに明日は戦だ。気を引き締めていかなければならない。リースは両の拳をぎゅっと握りしめた。





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