火炎の谷の入り口に辿り着くと、そこには美獣とジェシカ、ビルとベンがいた。

ホークアイ「ジェシカ!」
ジェシカ「ホークアイ!来ちゃダメッ!」

そう言った瞬間、ジェシカは美獣に平手打ちを喰らった。

美獣「フン、バカな娘…呪いを解いてやったんだから少しは役に立ちなさいよ!さあビル、ベン。この前の借りを返すんだろ?最後のチャンスをやるよ」
ビル&ベン「ははっ!」
ホークアイ「ジェシカ!ビル、ベンそこをどくんだ!」
ビル&ベン「お前達の相手は我々だっ!今度はこの前のようには行かぬぞ!美獣様に授かった闇の力、見せてくれよう!」
ホークアイ「ビル、ベン、目を覚ましてくれ!オレ達、仲間だったじゃないか!ビル!ベン!」

ビルとベンは完全に美獣により操られている。ホークアイの叫びも空しく戦いになった。以前より手ごわくなっていたが、ホークアイ達は苦戦しながらも撃退した。

ホークアイ「ううっ、ビル、ベン…何故なんだ…くそっ、美獣め!!」

かつての仲間を自ら手にかけたホークアイはそのやりきれなさにうちひしがれた。だが悲しんでいる暇はない。ジェシカが危ないのだ。急いで火炎の谷の中へ入って行った。
火炎の谷の中は砂漠よりずっと暑く、汗がだらだらと流れる。そこここで炎が吹き荒れ、道の途中で爆風に吹き飛ばされた時すらあった。奥へ進んでいくとマナストーンへ向かうところに美獣とジェシカがいた。

ホークアイ「待てっ!」
美獣「おっと、それ以上近づくとこの小娘を炎の中に投げ捨てるよ!」
ホークアイ「くっ…卑怯な!」

そこへ一本のダーツが美獣めがけて放たれた。

美獣「ウッ!!他にも仲間がいやがったのか!おのれぇ!覚えておいで!!」

ダーツを投げたのはホークアイを兄貴と慕っているネコ族のニキータであった。

ホークアイ「ニキータ!助けに来てくれたのか!」

ホークアイはニキータと共にジェシカを介抱した。その時初めてリースはジェシカという娘を直に見た。

リース「…その人がジェシカさん…」
ホークアイ「…気を失っているだけのようだがかなり弱っている。何故か呪いは解かれているようだがこのままでは危険な状態だ。長い間にわたって呪いがかけられていた為、心と体が弱ってしまっているようだ」
ジェシカ「…う…はぁはぁ…ホークアイ…」
ホークアイ「ジェシカ…しっかりしろ!」
ニキータ「オイラがジェシカさんをオアシスの村ディーンにお連れしますにゃ。アニキ達は、美獣を追ってくにゃさい。美獣のネライはこの先のマニャストーンです!急いで!」

リースはジェシカを介抱するホークアイを見た時、複雑な心境になった。ジェシカ。ホークアイが必死になって助けようとしている娘。ホークアイにとって特別な『女』。ジェシカがホークアイを見つめる目を見てもなんだか気に入らなかった。いや、そんな風に思ってはいけない。相手は瀕死の病人なのだ。我ながらなんてひどいことを考えてしまったのだろうと激しく後悔しながらホークアイの後に続いた。

美獣は既にマナストーンのエネルギーを放出した後だった。以前、光の司祭やアンジェラにも聞いたが、マナストーンのエネルギーを放出するには封印されし古代魔法を使う。しかしその古代魔法は術者の生命とひきかえになる呪いがかけられている禁断の呪文でもあるのだ。アンジェラの母、アルテナの女王ヴァルダは実の娘であるアンジェラの身体を触媒として使い、マナストーンのエネルギーを放出しようとした。つまりは誰かの生命とひきかえにしなければマナストーンの封印を解くことはできないのである。そして今回、美獣もマナストーンの封印を解く禁呪の媒体にする為にジェシカを連れてきたという。ジェシカは危うく封印を解く禁呪の生贄にされるところだったのだ。ニキータの活躍で阻止することができたが、美獣は代わりにビルとベンの魂を使い、封印を解放した。

フェアリー「マナストーンのエネルギーが解放されている…アルテナもそうだったけど、美獣も聖域への扉を開こうとしている。みんなマナの剣を狙っているんだわ!!もしマナの剣が悪しき心の持ち主に使われてしまったらマナの樹は枯れ、世界からマナは完全に失われてしまう。封印されていた神獣が蘇えり世界は…大変!急ぎましょう。早く精霊達をみつけて彼らより先に聖域への扉を開き、マナの剣を手に入れなければ!」

マナストーンの封印解除を阻止することはできなかったが、代わりにホークアイ達は火の精霊サラマンダーを仲間にし、ジェシカの容態を見にオアシスの村ディーンへと戻った。





ディーンへ戻るとホークアイは真っ先にジェシカの元へ行った。ずっと宿へも戻ってこない。リースは様子を見に行った。これはあくまでもホークアイとジェシカの身を案じているだけだと自分に言い聞かせながら。
ホークアイは必死にジェシカを看病していた。それまでジェシカの看病をしていたニキータは、今は仮眠をとっている。

リース「ホークアイ…ジェシカさんの具合はどうですか?」
ホークアイ「…あまりよくないんだ…」
ジェシカ「…うーん、うーん…ホークアイ…」
ホークアイ「ジェシカしっかりしろ!」

真剣な面持ちでジェシカを看病するホークアイをリースは複雑な想いで見ていた。そもそもホークアイはジェシカを救う為に旅に出たという。そのジェシカの呪いが解かれた今、もう彼にとって旅の理由はなくなってしまったのではないか。ジェシカを看病するホークアイを見ていると、どれだけ彼女がホークアイにとって大切な存在かが伝わってくる。そしてジェシカもまた、うなされながらもホークアイの名を呼び続ける。うっすらと目を開き、すがるようにホークアイを見るその表情。ジェシカもまたホークアイのことが好きなのだ。
リースはジェシカを見てとても辛くなった。ホークアイのジェシカへの想い、ジェシカのホークアイへの想い。それを考えるとなんだかとても悲しくなり、辛くなる。そして――妬ましい。そんなことは本来決して考えてはいけないのだが、ずっとリースの心の中で燻ぶっている。

ホークアイ「美獣のヤツ、ジェシカの兄のイーグルを殺し、今度はジェシカまでこんな目に遭わせるなんて…」

怒りを露わにするホークアイを見ていても嫉妬の感情が揺らぐどころかさらに増す一方だった。こんな感情は抱いてはいけない。ジェシカはホークアイにとって大切な存在なのだ。長い間呪いをかけられていて病床についている女性に負の感情を向けるなどあってはいけない。リースは必死に感情を抑え込もうとした。努めて冷静に話をしようとする。

リース「ホークアイ、あなたの目的はジェシカさんを救うことでしたよね?」
ホークアイ「ああ。だがそれだけじゃない。俺は美獣が生きている限り、いつかヤツを倒しイーグルや盗賊団のみんなの仇を討ってやる。リース、火のマナストーンのところで美獣が何と言ったか覚えているかい?」
リース「はい」
ホークアイ「美獣は『聖域への扉は我が主、黒の貴公子様が開く』と言っていた。今のところわかっているのはヤツの主の名は黒の貴公子と言って、聖域への扉を開こうとしているということだ。きっとマナの剣を狙っているんだろう」
リース「悪しき心の持ち主にマナの剣を使わせるわけにはいきませんね」
ホークアイ「ああ。だからジェシカのことはニキータに任せて俺はまだ旅を続ける。マナの剣を手に入れ美獣を倒し、イーグルの仇を討つ!」
リース「ホークアイ…」

その日の夜、リースは宿に帰ってベッドに入ったが、なかなか寝付けなかった。ホークアイへの想い、王女としての責務、マナの危機、美獣のこと、エリオットのこと、ホークアイとジェシカのこと、これらのことがリースの心の中に次々と入り乱れては消えてゆく。ホークアイを想う気持ちでいっぱいになったと思ったら次の瞬間には王女として国の再建を考えている。エリオットのことを考えていたと思ったら次の瞬間には仇である美獣のことを考えている。そしてマナの剣や世界の危機についても考えを巡らす。そして気付いたらフェアリーに選ばれし者であるホークアイのことをまた考えている。その合間合間に先ほどのジェシカのことが割って入ってくる。そのたびにリースはホークアイとジェシカのことを頭から押し出した。

ホークアイがジェシカにつきっきりで看病している間、リースは眠れぬ夜を過ごしていた。





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