ホークアイは徹夜でジェシカを看病した後、宿に戻った。そして昼までぐっすりと眠ってしまった。その日はサラマンダーの日であったから、砂漠のモンスター達が特に強くなる曜日でもあった。なのでどのみちオアシスの村ディーンで1日過ごさなければならなかった。
次の日出発する為に準備をしていると、リースが会いに来た。

リース「ホークアイ、お話があります」

オアシスの村ディーンでは水位が少しずつ下がっている。マナが減少している証拠だ。聖域のマナの樹は枯れ始めているという。世界を滅亡から救う為にも一刻も早くマナの剣を手に入れなければならない。リースはホークアイを外に連れ出して、しばらくオアシスを眺めていた。

リース「あ、あの、ホークアイ…」
ホークアイ「何だい?」
リース「ジェシカさんは…あなたにとってとても大切な人なのですね…」
ホークアイ「ああ、親友の妹だからな。俺にとっても妹みたいなもんだ」
リース「妹…でもジェシカさんはホークアイのことを…いえ、何でもありません…」

リースは拳をぎゅっと握りしめ、身を固くしている。

リース「…ホークアイ、お願いがあります」
ホークアイ「何だい?」
リース「私もあなたの旅についていきたいのです。以前あなたが仰ったように、美獣を追えばエリオットの手がかりが得られるかもしれません。美獣の仲間に赤い目の男がいたというのなら尚更です。どうか私にも世界を救うお手伝いをさせて下さい!ローラントの再建も大事だけど、マナの樹が枯れて世界が無くなってしまったら意味が無いですもの…」
ホークアイ「もちろん大歓迎だよ」
リース「以前はあなたのお誘いをお断りしてしまいました。でも私はやはりあなたについて行きたい。あなたと一緒にいたい。私はあなたが――」

リースは慌てて口を閉じた。危うく許されない想いを彼に告げてしまうところだった。もっともホークアイにはバレバレであったが。ホークアイはふっと笑みを浮かべるとリースに接吻した。

ホークアイ「嬉しいよ、リース。もうキスしちゃう!」
リース「!!!!な、な、何をするんですか…わた、わた、私…」
ホークアイ「リース、俺も君が好きだよ」
リース「わ、私はあなたが好きだなんて言ってません!」
ホークアイ「リース、一緒に旅をする条件だ。君の気持ちを聞かせてくれないかな?王女としてじゃなくて1人の女の子として俺のことどう思っているか」
リース「…マナの勇者としてお慕いしています」
ホークアイ「本当にそれだけ?」
リース「ホークアイ、私達は仇同士…」
ホークアイ「俺にとってはそんなこと関係ないさ。俺は君が好きだ。リース、旅の間だけでも俺がナバール盗賊団の人間であるってことは横に置いてくれるかな?俺は君と恋を語り合いたいよ」
リース「そっ…そんなことは許されません!私はローラントの王女――」
ホークアイ「じゃあ君が王女だってことも横に置いといてくれよ。俺と一緒にいたいなら。俺は1人の男として、1人の女の子である君と恋人になりたいんだ。旅の間だけなら許されるだろう?」
リース「そ、そんなことは…」

リースの心は激しく揺れ動いた。彼女は生来真面目だ。仇である、しかも盗賊である男と恋に落ちるなど王女としての自分が到底許さない。しかしその一方で王女という身分など何もかも忘れてホークアイとの恋に突っ走ってしまいたいという想いが日に日に増して膨れ上がる。リースは激しく葛藤した。
リースの目的はローラントの再建とエリオットを探すこと。ホークアイについて行けばエリオットの手がかりが得られるかもしれない。王女としての務めとホークアイと共にいることはそれほど相反することではない。そう必死に自分に言い聞かせた。そうだ、好きな人と共にいることで弟の行方の手がかりが得られるのだ。でも…

リース「ホークアイ…私はあなたと一緒にいたいだけです。私にとってはそれだけで十分なのです…」
ホークアイ「つれないなあ」

そう言いながら、ホークアイはリースを抱きしめた。

ホークアイ「リース、共に美獣を倒そう。俺にとってはイーグルの仇、君にとっては父上の仇であるヤツを。そして弟のエリオット君を助け出し、世界を救うんだ。俺達の目的は同じだ。共に戦おう。これでいいかな、王女様?まったく、本当にお堅いんだから」
リース「ホークアイ…」
ホークアイ「だけど俺は君を離さないよ!絶対に!」

そう言うと、ホークアイは再びリースに接吻した。リースはもがいたがホークアイの力強い腕でしっかりと抱きしめられ、熱い口づけをされ、徐々に力が抜けていくのを感じた。このまま恋に溺れてしまいたい。リースの方も恐る恐るホークアイの腰に手をまわして2人はしっかりと抱き合った。それは誰も見ていない砂漠の夜の夢。ここでは誰もリースを咎める者はいない。このまま幻として、夢として、自らの心中にだけ大切な思い出としてしまっておきたい。





――翌朝。

アンジェラ「リース、顔赤いわよ」
リース「あ、あの…」
アンジェラ「ホークアイとは何か進展があったの?」

がたんっ!

櫛で髪を梳いていたリースは櫛を落としてしまった。
昨夜、生まれて初めてキスというものをしたのだ。否、されたのだ。ホークアイに。恋という美酒は理性を狂わせ恍惚とした気分にさせてくれる。好きな男から口づけをされる、なんともいえない甘美な味を思い出すだけでおかしくなってしまいそうだ。あくまでもそばにいるだけで十分だというリースに対し、ホークアイはどうしても恋人という関係にもっていきたいようだった。仇だの身分だのお構いなしに口説いてくる。リースは顔中真っ赤になってしまった。

リース「ホークアイは本当にお構いなしに…私は王女なのに…仇同士なのに…でも…それでも私はホークアイが好きなんです」
アンジェラ「あら、やっと認めたのね」
リース「はい。私、彼についていきます!」





リースとアンジェラ、シャルロットの3人はホークアイ、デュラン、ケヴィンの3人と共に旅することになった。アンジェラ達に異存はなかった。皆それぞれ訳ありであるのだ。
それから様々なことが起こった。マナの剣は敵である美獣達に奪われ、神獣が復活し、ホークアイ達はそれらを倒していった。そしてとうとう敵の本拠地であるダークキャッスルへ侵入し、美獣とも決着をつけることができた。だが黒の貴公子はエリオットを連れてマナの聖域に行き、それを慌てて追う。黒の貴公子はエリオットを自分の新しい身体にしようとしていたのだ。そこで世界の命運をかけた戦いが始まった。黒の貴公子の力は圧倒的であった。だがホークアイ達6人の死闘の果てにとうとう倒すことができた、世界は救われたのだ。フェアリーはマナの女神として復活し、新たな眠りについた。

リースの弟エリオットは無事救出され、姉と共にローラントへ戻った。
美獣に操られていたナバール盗賊団はようやく元に戻り、アジトに帰ってきた。ジェシカの病気ももうすっかり良くなり、首領フレイムカーンは盗賊団の再結成と、砂漠の緑化を決意した。

世界は再び元に戻ろうとしている。

マナが失われた今、人々はマナの女神様を頼らずに自分自身で未来を創っていかなければならない。世界を救った勇者達には、マナが失われた世界の未来を導くことが求められた。ナバールのホークアイ、フォルセナのデュラン、ビーストキングダムのケヴィン、ローラントのリース、アルテナのアンジェラ、ウェンデルのシャルロット。特にフェアリーに選ばれし者であるホークアイは英雄として崇められた。

世界に平和が戻り、ホークアイは盗賊団に戻り、砂漠の緑化を試みている。リースは弟のエリオットと共にローラントの再建に勤しんでいる。その間に勇者として人々を導きながら。
互いに自国のことで忙殺されながらもホークアイとリースは愛しい相手に想いを馳せる。


注:まだ続きます


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