その日、リースはナバール盗賊団のアジトを訪れていた。
義賊として再結成された盗賊団は以前のような活気に満ち溢れ、砂漠緑化に取り組んでいた。
リースの目的はホークアイだったが、その時は折悪く彼は外出中だった。
そして――ジェシカと鉢合わせしてしまった。

リースとジェシカは恋のライバル同士であったが、今まで表立って火花を散らすことはなかった。どちらも軽く挨拶をし、当たり障りのない世間話などをして終わる。互いに相手がホークアイに恋していることは重々承知だったが、相手に敵意を示すのではなく、すぐに目をそらしたりしてさりげなく避けている状態だった。2人とも恋敵と張り合うなどということは苦手だった。ジェシカは盗賊団の娘にしては淑やかで、普通にしていればリースにとっては話しやすい相手であった。
だが今日は、ジェシカの方は何かを決意したように、挑むような目つきでリースに近づいてきた。

ジェシカ「リースさん、たまにはお茶でもご一緒にどうかしら?」
リース「え、ええ。そうですね」





リースとジェシカは茶を飲みながらいつものように当たり障りのない話をした。だがすぐに互いに目をそらしてしまうし、どこかよそよそしい。

ジェシカ「こうやってリースさんとゆっくりお話するのは初めてね」
リース「そうですね」
ジェシカ「リースさんは王女なんですよね。それも国の再建に日々苦労していらっしゃるとか。きっと私なんか想像できないくらい辛いことも多いんでしょうね」
リース「そんなことはありません。ジェシカさんだって盗賊団の再結成でいろいろ大変でしょう」
ジェシカ「ええ。でも私は何事にも縛られない、自由な盗賊の娘。あなたは王女。王女様ともなると、自分のことより国を優先しなければならないこともさぞかし多いんでしょう?恋愛に関しても」
リース「!」

ジェシカは緊張した面持ちで、それでも挑むような目つきでリースを見た。

ジェシカ「私達盗賊は自分の好きな相手と自由に結婚すればいいけれど、あなたみたいな王女様ともなるとそうはいかないでしょう?しかるべき家柄だとか、そういったことが重要になってくるって聞いたことがあるわ」
リース「そ、そんなことは…ありません…」
ジェシカ「リースさんはとても真面目な方だから、身分違いの恋だなんて型破りなことはしないわよね?」
リース「そ、それは…」
ジェシカ「由緒ある家柄の人達って、本当に好きな人ができても我慢して、親が決めた相手と結婚するものだって聞いたわ。特に王族は国の為に私情を捨てなければならない」
リース「わ、私はホークアイが――」
ジェシカ「ホークアイならナバールから離れないわよ」

リースも緊張していたが、ジェシカはもっと緊張し、身体が強張っていた。明らかにこういうやり取りは不得手なのだ。だがそれでも話し続ける。

ジェシカ「ホークアイは盗賊団の中でも次期頭領の最有力候補なの。人望もあるし、彼もこの盗賊団を愛している。他の国へ出て行ったりはしないわ。そしてリースさん、あなたは復興途上のローラントの第1王女。もちろん国を離れるわけにはいかないでしょう。ホークアイはナバールの代表者、リースさんはローラントの代表者。あなた達は互いに自分の国から離れることはできない立場なのよ。現実を考えたら決して結婚なんてできない、そんなことってよくあることだわ。特にあなた達は国の有力者なんですものね」
リース「……………」
ジェシカ「それに私達ナバール盗賊団は王制を嫌い、自由を何より愛するの。ホークアイだってもちろんそうよ。だから王女なんかと結婚したりなんかしないわ」
リース「!!
ジェシカ「私は…わ、私ならホークアイとずっと一緒にいられる。元々小さい頃からずっと一緒だったのよ。あなたが知らないホークアイだっていっぱい知ってるんだから。あなたより私の方がホークアイと一緒に過ごす時間はずっと多いの。昔も今もそれは変わらない。私とホークアイは今までも、これからもずっと一緒よ」

ジェシカは拳を握り締め、震わせた。そして涙を溜めながらリースに向かって叫んだ。

ジェシカ「ホークアイは私と結婚するのよ!あなたなんかに渡さないわ!」
リース「ジェシカさん…」
ジェシカ「私は子供の頃からずっとホークアイのことが好きだったのよ。もう10年以上も恋し続けているわ!それにひきかえあなたはせいぜい1年かそこらじゃない。今更私の夢を壊さないで!」

ジェシカは嗚咽を漏らしながらしゃべり続ける。

ジェシカ「…リースさん…あなたは王女なんだから結婚相手なんていくらでもいるでしょう?…お願い…私からホークアイを奪わないで…」





ホークアイ「リース、どうかしたのかい?」
リース「い、いいえ、何でもありません。今日はもう帰ります」
ホークアイ「何だって?碌に話もしてないじゃないか」
リース「ちょっと気分がすぐれないので…」
ホークアイ「それならここで休んでいった方がいいんじゃないか?」
リース「いいえ!帰ってから休みます!」

ホークアイの制止を振り切り、その日リースはすぐに帰った。





アンジェラ「それであっさり引き下がってきたワケ?何やってるのよ、もうバカ!」
リース「だって…何て言っていいかわからなかったんです…」

あれからこっそりとアンジェラに会いにいったリースはジェシカとのことを話した。一部始終を聞いたアンジェラはリースに対しよく言い聞かせるように話しだした。

アンジェラ「いいこと?リース、そんなことで負けてちゃいけないわよ。ただでさえホークアイみたいな美形の男に憧れる女は多いんだからね。人間、これだけは絶対に譲れない!ってものがあるの。結婚もその一つよ。好きなんでしょう?ホークアイのこと」
リース「も、もちろんです!」
アンジェラ「だったら思い切って恋に突っ走りなさい!いつもアイツの方から求愛にくるからっていい気になって構えてたら他の女にとられちゃうわよ。身分が何よ!国の間柄が何よ!アイツはそんなことお構いなしにあんたに求愛してきたのよ。あんたホークアイのことが本気で好きなんでしょう?だったらあんただってひたむきにその愛に応えてあげなさいよ!」
リース「アンジェラさん…」
アンジェラ「幸せは自分でつかみ取るものよ。私だって心に決めた人がいるんだから」
リース「えっ?誰ですか、その人は?」
アンジェラ「ヒ・ミ・ツ!だからリースもがんばりなさい!自分からいかないと、待ってるだけじゃ何も変わらないわよ」

アンジェラに背中を押されてリースはとうとう決心した。今まで言えなかった言葉を伝える為、ホークアイの元へ急ぐ。





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