1 遠近法習得の必要性

 風景写生に遠近法は欠かせません。 見たとおり描けば難しい理屈は要らないと
 思うかも知れません。しかし、よほどの観察力とデッサン力がない限り、見たとおりに
 描いたつもりが、不正確な絵になってしまっています。
 何故なら人間はみな固定概念をもっており、それから抜け出して描くのが難しいからです。

 例えば単に直方体を描きなさいと言われば、ほとんどの人が下図1のような絵を描くでしょう。
 事実そのように学校で学んできたし、概念的には正しいと言えましょう。これが固定概念です。

 しかし実際に直方体を見ると本当にそのような形をしているのでしょうか? 確認のため写真
 を撮りました それが図2と図3です。図2は比較的、近くに直方体を置いて撮った写真です。
 それに対して直方体の大きさに比べかなり遠方に置いて写真を撮り、それを図2の箱とほぼ
 同じ大きさまでに拡大した写真が図3です。同じ箱でも撮る距離によって形が随分異なること
 が分ります。

 図2は図1と違って相対する辺の平行性が失われていて、お互いの長さも少し違います。 
 このため図1とは違った形に見えます。 それに比べ図3はほぼ図1の形に近いといえます。

 何故近くの箱は歪んで見えるのでしょうか。それは同じ辺の長さでも遠い辺は、近い辺より
 小さく見えるからです。 それが遠近法のベースです。
 それに対して図3のように対象物が遠くなると向かい合う辺の大小に見える差が相対的に
 小さくなるため,ほぼ平行に見えるようになります。 このため図1に近い形となります。
 このことから図1は平行投影図と呼ばれ、視点が限りなく遠いときの形を表しています。

 この遠近法を知らない人は図1の固定概念があるため、図2のように見える箱を写生しても
 往々にして図1のような絵になり勝ちです。
 しかし手元にある箱を図1のように描くとやはり不自然な絵となります。


図1 直方体(平行投影図)


図2 近くの箱を 撮影


図3 遠くの箱を 撮影
 
 外での写生では建物や道、樹木などすべての風景が遠近法の対象になります。
 だからと言ってそれらを描くのには、正確な遠近法が必要かとなるとそれは不可能だし、
 絵としてはそこまで必要はないと考えます。

 ただ屋根など遠近法では右肩下がりの線にならなければならないのが水平だったり、
 また逆に右肩上がりであったりすると、不自然になります。
 また遠近法を無視すると平坦な道が上り坂に見えたりします。

 従って遠近法は堅苦しく考えず、頭の片隅に入れて、定量的でなく定性的に活用すれば、
 見た目に自然な絵となり、一段と絵が上達することと
います。


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