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Artist

FRANCO & SON T.P O.K.JAZZ

Title

3EME ANNIVERSAIRE DE LA MORT DU GRAND MAITRE YORGHO


3eme anniversaire
Japanese Title 国内未発売
Date 1980 / 1983 / 1984
Label SONODISC CDS 6851(FR)
CD Release 1993
Rating ★★★★
Availability


Review

「おまえはノックもしないで他人の家へ上がりこむと、寝室にまでどかどか入ってくる/おまえは口臭を漂わせながらひとと話をしたがる/おまえは帽子をかぶったまま他人のオフィスに入ってくる/しかもシケモクを口にくわえたままでだ/おまえはタバコの空箱を灰皿代わりに使う/おまえはくしも入れていないだらしないヘア・スタイルのままでひとと会う/おまえは他人の家に来るなり靴を脱いで穴の空いた臭い靴下をちらつかせる/おまえは食事を置いたテーブルの上に脚を投げ出す/おまえは近所に知り合いが住んでいると知るや家にやって来て勝手に冷蔵庫を使う/そして食べ物を持ち出して午後2時まで食べつづける/いくら金がかかってると思うんだ/この不作法者めッ!」

 これは84年に発表された'TRES IMPOLI'「無礼者!」の抄訳。
 フランコはぼやく。ひたすらぼやく。フランコをして“アフリカのバルザック”とひとはいうが、むしろわたしはこう呼びたい。“アフリカの人生幸朗”。「責任者出てこい!」
 しかし、いくらぼやいたところで世の中は変わらない。だからぼやくのだ。フランコのぼやきはかれひとりのぼやきではない。みんなのぼやきだ。さあぼやけ。ぼやいてぼやいてぼやき倒せ!

 このころから顕著になってきたフランコのぼやき節の所要時間は最短でも12分以上('TRES IMPOLI' は16分49秒)。そのうち楽器演奏のみのパートはせいぜい3〜4分ぐらいで、それ以外はずーっとぼやきっぱなし。ギター・リフがひたすら同じ調子で延々とくり返され、リズムもどんどんシンプルになってきている。音もメローになった。フランコは例のしわがれたバリトンで、「歌う」という「しゃべる」調子で長広舌を振るう。
 フランコのぼやきの合間を縫うように優美なコーラスによる印象的なリフレインがさしはさまれる。これが浪花節でいう「さわり」のような役割をはたしている('TRES IMPOLI' を例にとると「おまえは不作法者、おまえは不作法者、なんたる不作法者、なんでそんなに不作法なのか?」のくだり)。
 しかし、こうした曲調の変化はTPOKジャズ・サウンドが後退したと考えるべきではない。むしろアフリカ的伝統への回帰ととらえたい。

 ところで、フランコぼやき節完成の背景には、人生幸朗に生恵幸子がいたように、マディル・システムという相方を得たことが大きかった。生恵幸子は歌下手が売りだったが、マディルはとにかく歌がうまい。
 マディル・システム MADILU BIALU 'SYSTEM' は、69年に19歳でデビューしたあと、自身のバンドも含めさまざまなグループを渡り歩き、タブ・レイのアフリザを経て80年にTPOKジャズに加入した。

 本盤でも83年末発売のLP"CHEZ FABRICE A BRUSELLES" (EDIPOP POP 027)から採られたもうひとつのぼやき節'NON' で、ふたりは息の合ったところを聴かせてくれる。ぼやきなんていうと、ひたすらガナっているように思われるかもしれないが、どこまでもたゆたうように優雅で美しい。
 しかし、歌詞の意味はすこぶるどきつい。とくにフランコは女に手きびしいことで定評があった。'NON' では「離婚するような女は売春婦とおなじでけしからん!」などと渡部昇一もビックリの勘ちがいもはなはだしい持論をぶちまけている。

 'NON' と同じ年のすこし前に出した2枚組LP"DISQUE D'OR ET MARACAS D'OR 1982" (EDIPOP POP 021/022)でも不貞女をやり玉にあげた'TRES FACHE' という曲を発表している(CDでは"TRES FACHE" (SONODISC CDS 6863) に収録)。

 'TRES FACHE' とは「(大魔人)大いに怒る」の意味だ。フランコの怒りのほこ先は、現在の妻アニーと出会うより前に長年連れ添っていたポーリーナにむけられたものだとうわさされた。もちろんフランコは否定した。しかし、これにはさらに尾ひれが付いて、ムビリア・ベルが歌って大ヒットした'ESWI YO WAPI'GRAND MAITRE FRANCO ET SEIGNEUR ROCHEREAU "LETTRE A MONSIEUR LE DIRECTEUR GENERAL"の稿参照)は、'TRES FACHE' に反撃するためにポーリーナがわざわざタブ・レイに頼んで書いてもらったものとのうわささえたったらしい。なんか二代広沢虎造をめぐる正妻と妾たちとの葛藤をみるようだ。

 こんな性差別主義者のフランコだったから、さぞや女性たちから嫌われただろうと思うとさにあらず。女を攻撃するとき、フランコがよくとった手口は女の世界観に立って女の口調で相手を批判するというものだった。その最高傑作とされるのが'MAMOU' として知られる滑稽諷刺劇風ナンバー'TU BOIS?' である。LP"TRES IMPOLI"B面収録のこの曲の中味についてはつぎの機会に譲ることにして、ここでは'TRES IMPOLI''NON' 以外の収録曲についてすこしふれることにしよう。

 フランコ3回忌記念アルバムとしてリリースされた本盤は、例によって数種のLPから虫食い的に選曲されている。全6曲中、'TRES IMPOLI''NON' のほかに、もう1曲あるフランコ作品'FREINS A MAIN' は、'NON' と同じく83年のLP"CHEZ FABRICE A BRUSELLES" 収録曲。70年代終わりから80年代はじめごろのフランコ作品によくあった早口言葉でコーラスがまくしたてるパターンの曲である。ルンバの流れるように優美なノリに意外性はないがやはり完成度は高い。

 残りの3曲は、フランコ渡欧直後の80年リリースの2種のLPから。多くのメンバーがフランコのあとを追ってヨーロッパへ移住したなかにあって、シマロはキンシャサに残る道を選んだ。そのため、80年代はじめのLPにかれの作品はあまり多くない。
 'KADIMA' は、そんな数少ない例外のひとつ。いかにもシマロらしい哀愁含みの美しいメロディだ。だれかわからないが、サム・マングワナを思わせるハスキーな声質を持つシンガーの熱唱がすばらしい。演奏の途中で「ブチッ」と不自然な終わりかたをするのがつくづく残念。

 渡欧組ウタ・マイの'AYANT DROIT' とンドンベの'HERITIER' の2曲は、コーラス・ワークに重きを置いたこの時期の典型的なTPOKジャズ・サウンド。フランコが音楽的成熟のピークに達していたとされる時期の演奏だけにダンサブルだし密度が濃いのはたしかだが、この先このパターンをつづけたところで飽きられてしまうのが関の山。きっとフランコはこのことを見てとって、あのぼやき節を完成させたのだと思う。

 ユッスー・ンドゥールの音楽にときどき興ざめしてしまうのは、歌詞に込めたあまりに健全で品行方正なメッセージを見るとき。すくなくともわたしは、悪態をつきまくるフランコのほうにむしろ愛着を感じる。


(12.27.03)



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by Tatsushi Tsukahara