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Artist

FRANCO, KWAMY, VICKY ET L'OK JAZZ

Title

1964 /1965


64/65
Japanese Title 国内未発売
Date 1964 /1965
Label AFRICAN/SONODISC CD 36555(FR)
CD Release 1996
Rating ★★★★☆
Availability


Review

 1960年7月から63年1月までと、64年6月から65年3月までの2度にわたるコンゴ動乱期にも、O.K.ジャズは数多くの重要な演奏をレコードに残している。しかし、65年11月にモブツがクーデタを起こして政権を奪取して以降におこなわれたぼう大な量のレコーディングとくらべると、量的にはどうしても見劣りしてしまう。なかでも、第2次動乱期にあたる64、65年のレコーディングとなると、まとまったものとしては、 "FRANCO, KWAMY, VICKY ET L'OK JAZZ 1964/1965"FRANCO ET VICKY ET L'OK JAZZ "CESAR ABOYA YO/TONTON 1964/65"の2枚ぐらいしか思いあたらない。

 先ごろ、GLENNというレーベルからリリースされた3枚のCDのうち、『レコード・コレクターズ』2002年11月号で、森砂さんが紹介していた"TANGO YABA WENDO"(GLENN SAKU 008)も、この時期のものが多く含まれていると思われるが、イマイチ確証がない。しかし、このアルバム、盤起こしのため、音質は劣悪だが、内容はすばらしい。

 当初は、上にあげた2枚のうち、いずれか1枚をとりあげるつもりでいたのだが、ともに内容がすばらしく、あれこれ迷ったあげく、結局、両方とも採用することにした。というのも、同時期の録音とはいいながら、前者はそれまでのO.K.ジャズのサウンドに近く、後者は後年のO.K.ジャズを思わせるところがあって、両者はことなる表情を持っているからだ。

 ここでは、まず前者のアルバムについてふれることにしよう。
 タイトルに注目すると、フランコ、ヴィッキーとならんで、65年にグループを脱退したクァミーの名まえがクレジットされている。ということは、全14曲中、かなりの割合でクァミーが参加しているとみていいだろう。
 さらに、クァミー脱退の前年にあたる64年には、第2次動乱のさなか、首相に任命されたチョンベがうちだした外国人退去令によって、旧フランス領コンゴ共和国ブラザーヴィル出身のエド、ドゥ・ラ・リュヌ、ボーイバンダの3人がグループを離脱している(ボーイバンダはまもなく復帰)。そのエドの作なる'BAZONZELE MAMA ANA' 'LIKAMBO NGOMA ALOBA' の2曲が収録されていることから推測して、本盤には64年録音が少なからず含まれているとみるのが妥当だろう。

 フランコのアルバムを特集で組んでおきながら恥ずかしい話だが、わたしはいまだにクァミー、エド、ヴィッキーなどの声の聞き分けができないでいる。でも、このことは一概にわたしの耳のせいとばかりいえない。というのも、60年代に完成されたルンバ・コンゴレーズのヴォーカル・スタイルは、ソロよりもコーラスが主体であったことから、歌手に求められていたのは個性よりも歌のうまさであり調和であったように思われるからだ。“個性的であること”にことさらこだわってしまうのは、われわれが西欧的な考え方に染まっていることのあらわれなのかもしれない。
 ヴォーカル・スタイルに象徴されるように、わたしはルンバ・コンゴレーズに近代日本画のような様式美を感じる。それはある部分、構造化されているが、微動だにしない構造ではなく、フランコのギターに似て、時々刻々と変化しずれていくダイナミズムを含んだ構造である。

 話がむずかしくなった。要は、わたしがいいたかったのは、ヴィッキーだろうが、クァミーだろうが、歌がうまくさえあればヴォーカルがだれであれ、O.K.ジャズのサウンドに大きな変化は起こらなかったといいたいのだ。しかし、これはあくまでミクロに眺めればの話であって、視点をマクロに移せばちがいは歴然だ。このことをもっともわかりやすく示しているのが、64、65年の2枚のアルバムといえるだろう。

 EWENSの著書"CONGO COLOSSUS"巻末の年代表によると、このころ、O.K.ジャズはすでに20名近いメンバーをかかえていたそうだ。フランコにとって、メンバーはある意味で将棋の駒だったのかもしれないが、エドやクァミーなど、メンバーの相次ぐ離脱は徐々にボディブローのように効いてきて、ついには戦術上の転換を迫られるにいたったのがこの時期だったと推定する。しかし、フランコのすごいところは逆境にあって、弱体化するどころか、ますます強力になってきているというところだ。

 本盤のサウンドの特徴は、ひとことでいえば、ドライな質感と楽観的なムードに包まれたポップさにある。これには、冒頭のとりわけ陽気なナンバー'BOLINGO YA BOUGIE' を書いたクァミーの存在が大きかったような気がする。チャチャチャなどのラテン系音楽をベースに、これをアップテンポにしてアフリカナイズさせたこの曲こそ、クァミーのポップ志向を象徴しており、アルバム全体のカラーを決定づけているといえるだろう。クァミーを中心とするヴォーカル・ラインのウキウキした気分に加えて、フランコのラディカルでハギレのよいギター、ヴェルキスの小躍りするようなサックスもすばらしく、小品ながら聴きどころ満載である。
 
 本盤は、クァミー1曲、エド2曲のほかに、フランコ8曲、ヴィッキー2曲、そして64年のナイジェリア・ツアーからグループに参加したナイジェリア人サックス・プレイヤー、デル・ペドロが書いた'SI TU BOIS BEAUCOUP' からなっている。
 'SI TU BOIS BEAUCOUP' は、フランス語もリンガラ語も解さないため、友だちが酒を飲み過ぎていることを除けば、自分のまわりでいったいなにが起こっているのかチンプンカンプンな男の話を実体験をもとにつづったコミック・ソング。ナイジェリアをはじめとする英語圏の西アフリカ諸国で大ヒットしたという。歌詞の意味はわからずとも、このとびきり陽気なムードは演奏からも十分に伝わってくる。
 しかし楽曲の完成度の高さという点では、ヴィッキーが書いた'LIMBISA NGAI TATA' のほうが上だろう。アップテンポの、いわゆる典型的なルンバ・コンゴレーズだが、とくにヴィッキー?のヴォーカルとコーラスが掛け合うサビの部分がすばらしく、それに負けず劣らずスティール・パンと化したフランコのギター・ソロがいい。

 ところで、この時期のO.K.ジャズには、まだラテン・アメリカ系音楽の影響がつよく感じられる演奏も少なくなかった。たとえば、エドの'BAZONZELE MAMA ANA' やフランコの'LA SIMPLICITE DE BULUNDWE' は、痛快なアフロ・キューバン・サウンド。前者にはめずらしくティンバーレスらしき音も聞こえる。こういう陽気でダンサブルなラテン系ナンバーをやらせたら、ラテン調を得意としたアフリカン・ジャズなんかよりもO.K.ジャズのほうが一枚上。フランコのブリリアントなギターはいうにおよばず、タメが効いたリズム隊の健闘も光る。

 そして、出色は本盤唯一の5分をこえるラテン調ボレーロ'NIONGO NA YO NAKOFUTA'。フランコ自身が歌うこの曲で、フランコはときにトリニダードのスティール・パンを思わせるドライで躍るようなギター・ソロを聴かせてくれる。こんなに乾いていながらムーディさを失っていないボレーロなんて聴いたことがない。ヴェルキスかどうか知らないが、肉声に近いアルト・サックスの音色もジャッキー・マクリーンっぽくて、いい味を出している。

 アルバム全体を彩るこの陽気なカラーは、もしかしたら63年に再加入したシマロの作品が1曲も含まれていないこととも関係があるかもしれない。フランコの晩年にいたるまで、O.K.ジャズの副将格として数多くの名曲を提供したシマロであるが、“ギターの詩人”にふさわしく、かれが書く曲にはいつも“愁い”が感じられた。だから、ここには詩的な叙情世界はない。その代わり、ものすごくクサイいい方だけど、わたしはこのアルバムに“甘酸っぱい青春のまぶしさ”みたいなものを感じるのだ。ビートルズでいえば、『ヘルプ!』の肌ざわりとでもいおうか。

 ところで、O.K.ジャズを脱退したクァミーが行った先はというと、アフリカン・ジャズ出身のドクトゥール・ニコやロシュローらが結成したアフリカン・フィエスタであった。アフリカン・フィエスタは、クァミーのみならず、ヴェルキスにまで声を掛けていたというのだから、フランコが激怒したのも無理もない。ヴェルキスの移籍話は未遂に終わったものの、クァミーとフランコとのあいだには遺恨が残った。
 クァミーがアフリカン・フィエスタに移籍して最初に作った曲は、'FAUX MILLIONNAIRE' といって、「不実な億万長者」とはフランコへのあてこすりであった。この曲は、"NICO, KWAMY, ROCHEREAU ET L' AFRICAN FIESTA"(AFRICAN/SONODISC CD 36512(FR))に収録されている。歌詞のどぎつさとはうらはらに、たいへんチャーミングな曲である。
 フランコもすかさず'CHICOTTE' という曲のなかで、クァミーとアフリカン・フィエスタの面々を「カバの操り手」に譬えて反撃した。こちらはFRANCO ET L'OK JAZZ "1966/1968" (AFRICAN/SONODISC CD 36522)に収録。これまたたいへん美しい曲。


(8.22.03)



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by Tatsushi Tsukahara