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Artist

LE GRAND MAITRE FRANCO

Title

INTERPELLE LA SOCIETE DANS <ATTENTION NA SIDA>


attention na sida
Japanese Title 国内未発売
Date 1984 / 1987
Label SONODISC CDS 6856(FR)
CD Release 1994
Rating ★★★★
Availability


Review

 フランコのメッセージ・ソングの代表作とされる'ATTENTION NA SIDA'「エイズに気をつけて」を中心としたフランコ本人名義による5曲入り編集盤。
 フランコが16分38秒に及ぶこの大作の制作を思い立ったのは、87年、パリに滞在していたときだった。テレビやラジオで連日のように報じられるエイズの深刻な問題に接するにうちに、かれはこのことをもっと多くのひとたちに伝えることが音楽家である自分の使命と考えるようになっていた。ところが、そのとき、フランコはあいにくTPOKジャズをともなっていなかった。そこで、たまたまヨーロッパ・ツアー中だったエメネア・ケステール Emeneya 'Jo Kester' Mubiala のヴィクトリア・エレイソンに声をかけ、かれらの全面協力のもとでレコーディングされたのがこのセッションである。
 
 ヴィクトリア・エレイソンは、82年にエメネアを中心に、パパ・ウェンバのヴィヴァ・ラ・ムジカから分裂して結成されたグループ。O.K.ジャズの出身で、いまやフランコにとっては仇敵の間柄となったヴェルキスが運営するレーベルVEVEの看板バンドだった。
 このセッションは、エレイソンのギタリストでアレンジャーであったサフロ・マンザンギ Safro Manzangi の指揮のもとでおこなわれたため、サウンドの質感がそれまでのTPOKジャズとはあきらかにちがう。アクウェサAkwesa とルトゥラ Lutula がつむぎ出すギターは、コラに似た感じのシャカシャカと乾いた音色だし、それ以上に特徴的なのは、ピノス Pinos のベースとジュジュシェ Djou Djou Che のドラムスからなるリズム・セクション。シャープでありながら、押しては返す波のようなうねりを持ったグルーヴ感はTPOKジャズにはない持ち味といえる。
 
 しかし、音楽の基調をなす反復的なギターのフレーズは、じつは78年にフランコがわいせつ罪で逮捕された問題作'JACKY' からの流用であった。エイズ感染を防ぐために、その正しい知識とモラルの獲得をうながすこの歌で、あえて変態的なセックス描写で発禁となった'JACKY' の断片を持ってくるところに、いかにもフランコらしいパラドキシカルな発想がうかがえる。

 曲の調子は、最初から最後まで、このシンプルで軽やかなギター・フレーズが反復され、そのうえをフランコが迫力満点のバリトン・ヴォイスで牧師の説教のように延々とまくしたてていく。
 より多くのひとたちにメッセージを伝える意図から、リンガラ語とフランス語が半々に用いられている。これらの言葉を解さないわたしたちにも、切迫感ともなうフランコの怒号はじゅうぶんな説得力をもって伝わってくる。
 
 この長ったらしい歌詞を英訳したものが、エウェンズ著'CONGO COLOSSUS' 巻末に掲載されている。ちなみに、タイトル中の'SIDA'とは、'AIDS'「後天性免疫不全症候群」のフランス語'Syndrome Immunite Deficient Acquis' の略称。

 エイズは、老若男女を問わず、ありとあらゆる人たちに、時とところを選ばず感染する。エイズから身を守るにはみずからの行動に気を付けなければならない。エイズは神がひとびとに与えた罰である。それは旧約聖書のソドムとゴモラのように国を滅ぼそうとしている。聖職者は信者に、教師は生徒に、親は子どもにその危険と防止を説く義務がある。医師には一刻も早い治療法の発見に努めてもらいたい。その蔓延を防ぐために富める国は貧しい国を支援すべきであり、政府はラジオ、テレビ、新聞を通じて、もっとその危険を説くべきである。

 ざっとこんな具合に、フランコはあらゆる階層の、あらゆるひとびとを想定して、エイズの危険について延々と警鐘を鳴らしつづける。

 ちなみに、この曲は、その年の審査員特別賞を受賞した。キンシャサでの授賞式には、フランコ本人ではなくマンザンギが代理出席したという。
 そして、このセッションへの貢献により、ヴィクトリア・エレイソンは、フランコからTPOKジャズのホーン・セクションを借り受けて、同年、かれらの最高傑作とされる"DEUX TEMPS" をものにした。

 しかしそれにしても、このレコーディングの2年後に、フランコ本人がまさかエイズでこの世を去ろうとはなんという皮肉な結果だろう。


 ところで、このアルバムは「エイズにご用心」にはじまり「エイズにご用心」に終わっているといっても過言ではない。そのため、他の4曲についてはどうしても存在感が薄く感じられるのもやむをえまい。最後に、これらについてもすこしだけふれておくことにしよう。

 LPでは「エイズにご用心」のB面に入っていたのが、'MPO NA NINI KAKA NGAI?' 'NAPONI KAKA YO MAYIZO' の2曲。
 前者は、ベテラン、シェケンの曲で、本人が歌っている。どこかで聴き覚えがあると思っていたら、シマロ&カルリートの『魔性の女』(GRAND SAMURAI PGS-12D)収録の'MUYA' のことではないか。個人的には'MUYA' のほうが好き。
 後者の作者としてクレジットされているミランダ・バラミー Milanda Barami についてはずっとなぞだったが、70年代はじめにTPOKジャズ入りしたトランペッターだとわかった。主要メンバーを欠くなかでようやくまわってきた主役の座だったが、エレイソンのジュジュシェのドラミングのほうが目立ってしまっているのだから始末が悪い。リード・ヴォーカルはダリエンストか?

 残りの2曲は、84年発売のLP"A L'ANCIENNE BELGIQUE" から。"EN COLERE"(SONODISC CDS 6852)の項で、わたしが本当は満点とすべきところ、この1曲のために減点したいわくつきのナンバー'NDAYA' を収録していたLPである。
 若頭マディル・システムが書いた'PESA POSITION NA YO' と、ダリエンストとともにレ・グラン・マキザールから76年にTPOKジャズ入りしたギタリスト、ジェリー・ジアルンガーナ Jerry Dialungana 作の'MUKUNGU' でも、やはりチープなシンセ・ドラムが使われていて、せっかくのいいムードを台無しにしてしまっている。この音を聞くたびに、CCBの「Romanticが止まらない」が脳裏をかすめていってイヤ〜な気分に陥る。
 
 正直いって、このアルバムは音の感触の軽さから、長いこと、あまり好みではなかったが、この稿のために何度も聴き返すうちにジワリジワリとよさがわかるようになってきた。ヴィクトリア・エレイソンのよさはいまだにわからないけれども‥‥。


(4.5.04)



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by Tatsushi Tsukahara