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Artist

JERRY HANSEN AND THE RAMBLERS DANCE BAND

Title

JERRY HANSEN AND
THE RAMBLERS DANCE BAND VOLUME 2


ramblers_2
Japanese Title 国内未発売
Date the late 1960s - the early 1970s ?
Label T-VIBE no suffix (US)
CD Release 2000-2001
Rating ★★★★★
Availability ◆◆◆


Review

 ランブラーズ・ダンスバンド(ランブラーズ・インターナショナル)は、キング・ブルース率いるブラック・ビーツに籍を置いていたサックス奏者ジェリー・ハンセンが、完全プロ化をめざして60年代はじめにメンバー9名を引き連れて結成したダンスバンド・ハイライフの名門楽団。アフロ系音楽の研究家ジョン・ストーム・ロバーツのいまはなきレーベル、オリジナル・ミュージックから出ていた"GIANTS OF DANCEBAND HIGHLIFE"(ORIGINAL MUSIC OMCD011)にも、E.T. メンサーのテンポスウフル・ダンスバンドとともに代表に選ばれていた。

 ガーナにおけるダンスバンド・ハイライフの流れはE.T.メンサーの稿でとりあげているので割愛するとして、その人気のピークは50年代から60年代にかけてであった。しかし、60年代後半からリンガラ音楽やアフロビートのような音楽がもてはやされるようになると人気に翳りが見えはじめ、70年代はじめにはその地位をギターバンド・ハイライフに完全に取って代わられてしまった。そんな逆風のなか、ランブラーズはなんとかもちこたえたが、ガーナ経済が財政破綻を来した80年代はじめについに解散。ライヴァルのウフルも85年、おなじ運命をたどった。

 本盤は、USメリーランド州にあるT-Vibe Records というレーベルから、2005年9月現在で4集までリリースされているベスト盤の第2集にあたる。
 ランブラーズ単独のベスト盤としては、これより前に英国のFlame Tree からLP"THE HIT SOUND OF THE RAMBLERS DANCE BAND" 全2集(FLAME TREE FLTRCD526 / FLTRCD533)がCD復刻されている。しかし、1枚あたりの収録曲数ではT-Vibe 盤の方がダンゼン多いし、Flame Tree盤収録の25曲は1、2、4集ですべて網羅。さらに、Flame Tree盤には未収録だったヒット曲'Scholarship''Auntie Christie'、'Eka Wo Ukoa' のうち後者2曲が聴けるというのもありがたい(本盤収録)。

 ところで、ガーナ・ハイライフのCDは、ほとんどがローカルなマーケット向けにリリースされたものであることからくわしいデータや解説のたぐいはあまり期待できない。本シリーズも例外でなく(ライナーノーツはFlame Tree盤の第2集をそっくり拝借)、録音年はまったく不明だし、収録順もおそらくかなり適当。

 唯一の収穫といえば、メンバー15名のクレジットがあること。それによると、トランペット2、テナー・サックス2、アルト・サックス2、フルート2、ギター1、ベース1、ドラムス1、コンガ1、マラカス1、ヴォーカル2の計15人編成とある。

 50年代、E.T. メンサーのテンポスが小さなスウィング・コンボの規模(7人編成)で成功を収めたことを思うと、この編成は最盛期の、しかもほんの一時期だけのものだったのではないか。じっさい、フルートが聞き取れるのは第1集収録の'AMA BONSU' など、限られた曲だけだし、他方では第2集収録の'AFUTUSEM''OFIE NMOSEA' のようにトロンボーンを用いた曲もある。ちなみに、ここで使われるフルートは木製の伝統的なたて笛で、南アのペニー・ホイッスルをもっと素朴にしたような音色。

 サウンドは50年代のテンポスに比べると、トランペットとサックスが織りなすアンサンブルはいっそう緻密になって、完成度は格段に高くなっている。ジャズというよりスウィングといったほうがよさそうな白人オーケストラ的なエレガンスとスマートさが身上だ。
 ヴォーカルはつねにデュエットでユニゾン。曲によってトゥイ語、エフィク語、ファンティ語、ガ語などが使い分けられているようだが、どの言語にももっちりとまとわりつくようなガーナ独特の丸っこい語感は健在。ハンセン本人と思われるテナーサックスのとろけるようなトーンと流れるようなメロディ・ラインは、まるでレスター・ヤングのようだし、フランク・クロフィFrank Croffie によるジャズ・ギターの甘美で繊細なソロも出色。
 こんな具合に泥臭さがほとんど感じられないランブラーズではあるが、前述のフルートにしろ、リズムの使い方にしろ、伝統的な要素もしっかりとりいれていることもつけ加えておくべきだろう。

 さて、本盤は第1集とともランブラーズ全盛期の60年代後半からせいぜい70年代はじめごろまでの音源を中心に構成される。どの演奏もすばらしいが、なかでも前述の'Auntie Christie''Eka Wo Ukoa''Eka Wonko A' と表記)ほか、'Mi Tee Momo''Abonsam Fireman''Awuraba Articial' あたりが並ぶ前半はダンスバンド・ハイライフの最高峰といっていいだろう。全体にまったりしているが、聴けば聴くほどコクが出てきていつしか病みつきになる。そんな内容だ。

 ところで、近年、英国のHonest Jons から"LONDON IS THE PLACE FOR ME" のタイトルで50、60年代のロンドンにおけるカリプソとその周辺の音楽を集めた2枚のコンピレーション(HONEST JONS HJRCD2 / HJRCD16)が発売された。これらのおかげで、カリプソがダンスバンド・ハイライフに及ぼした影響の大きさを改めて感じ入った次第である。

 50年代にトリニダードからロンドンへ出稼ぎにやって来たロード・キチナーやロード・ビギナーらカリプソニアンたちは、本国とはひと味違うポップでジャジーで洗練されたカリプソのスタイルを生み出した。ランブラーズの音楽にアフロ・キューバン以上にカリプソを感じてしまうのは、「まったり」と「洗練」、そして「伝統」というロンドン・カリプソの因子がテンポスを経由してしっかりかれらに受け継がれているせいだと思った。

 最後に、そのほかの3枚についてすこしふれておこう。
 第1集(T-VIBE TVPCD999011)は、述べたように本盤とほぼ同時期と思われマスト・アイテム。全18曲中13曲目まではFlame Tree盤第1集をまるごと収録。残り5曲はFlame Tree盤第2集と重複。ちなみにFlame Tree盤第2集は全12曲構成で、残り7曲は2集に3曲、4集に4曲収録。

 3集(T-VIBE no suffix)のみランブラーズ・ダンスバンドではなくランブラーズ・インターナショナルとあるところからして、他の3枚より時代が下った楽曲を中心に構成されていると思われる。まったり感は薄らいでポップなギターバンド・ハイライフ調になった。オルガンが使われるようになったいっぽうで、例のフルートが入った曲もある。レゲエっぽいのやファンク調も何曲かで聴けるので『ガーナ・サウンズ』系のサウンドが好きなひとにはむしろこちらをおすすめ。
 なかでも、“ハイライフ・チャランガ”なる意味不明なサブタイトルを持つ'MUNTIE' 'CARAMELO A KILO' の2曲はキューバ音楽のデスカルガ(ジャム・セッション)を思わせる熱気にあふれた演奏で、かれらがアフロビートやファンクばかりでなく、ラテン系音楽まで広く守備範囲にしていたことがわかる。

 2005年に発売された第4集(T-VIBE no suffix)は、1&2集と3集のあいだに位置するような内容。全体の印象としては1、2集のころの緻密さはやや薄らいでエンタテイメント性が強くなった。
 'NO PARKING' のようにハイライフをポップに進化させた楽曲もあれば、'SISI MI' のようなアフロビートもある。そして、ジャマイカのヴォーカル・グループ、テナーズをカヴァーした名演'RIDE YOUR DONKEY' もある。

 ちなみに、この曲 'RIDE YOUR DONKEY' は、スカからレゲエに移行する過渡期の音楽“ロック・ステディ”の代表曲とされる。オリジナル・ミュージック発売のコンピレーション"MONEY NO BE SAND"(ORIGINAL MUSIC OMCD031)、あるいは"HIGHLIFE HIGH UP'S"(ORIGINAL MUSIC / NIGHT & DAY NDCD025)にも入っていて、そこには71年とあった。だとすると、ボブ・マーリーが『キャッチ・ザ・ファイア』で世界デビューする73年以前に、ランブラーズは早くもレゲエに着目していたことになる。
 そういえば、ランブラーズにはほかにもエディ・フロイドが1967年に放った大ヒット'KNOCK ON WOOD' のカヴァーもあった(第1集収録)。
 ハイライフ・サウンドがさまざまな音楽要素の融合から生まれたものであることを思うと、かれら(ハイライフ)がレゲエやソウル、ロックなどの要素を柔軟に取り込んでいったことは、堕落したというより、生きた音楽を作り続けていた証とみてやるべきだろう。


(9.27.05)



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by Tatsushi Tsukahara