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Artist

CELIA CRUZ CON LA SONORA MATANCERA

Title

CAO CAO MANI PICAO 〜 GREATEST HITS 1950-1952


celia bom 1
Japanese Title カオ・カオ・マニ・ピカオ〜グレイテスト・ヒッツ1950-1952
Date 1951-1952
Label ボンバ BOM901(JP)
CD Release 1992
Rating ★★★★☆
Availability


Review

 キューバが生んだ最大の女性スター歌手といえば、だれもが異口同音にセリア・クルースの名を挙げるだろう。本盤は、セリアがラ・ソノーラ・マタンセーラ初の女性専属歌手として迎え入れられた1950年の初録音から57年までの、シーコ時代の足跡を年代順に日本で独自に編集した3枚のCDの第1集にあたる。同時期の編集盤としては、スペインのトゥンバオから98年にリリースされた"LA GUARACHERA DE CUBA"(TUMBAO TCD-091)もあるが、大半の曲が重複していることから、質・量の点で、これら日本編集盤を推したい。

 セリアといえば、映画「マンボ・キングス」でティト・プエンテとともに出演していたド派手なオバサンをイメージするひとも多かろうが、ここでのセリアはなんとも可憐で瑞々しい輝きにあふれている。後年の彼女の自信に満ちた堂々とした歌いっぷりとはちがって、すこしぶっきらぼうだけど、歌にたいするひたむきさがヒシヒシと感じとられる。

 ラ・ソノーラは、たとえばアルセニオのようにキューバ音楽としてのコアなスタイルを貫きとおすのではなく、キューバ的な歌謡性をフルに生かして、おいしいネタとみれば、古今東西問わず、なんにでも飛びついてしまう悪食ぶりを発揮したグループだったが、どんな曲が来ても、しっかり自家薬籠中のものにしてしまう天賦の才に恵まれたセリアは、そんなラ・ソノーラの体質にうってつけの人材であった。

 シリーズ第2集『ジェルベロ・モデルノ〜グレイテスト・ヒッツ1953-1955』(ボンバ BOM902(JP))、第3集『メ・ボイ・ア・ピナール・デル・リオ〜グレイテスト・ヒッツ1956-1957』(ボンバ BOM903(JP))とくらべてみると、まだ多少の不安定さが感じられるものの、おなかにためこんで、一気に発声する伸びやかで瞬発力の効いた歌唱は、常人にはマネのできない非凡さを感じてしまう。また、どこかで聴いたことのあるような歌い方だなって思ってしまう部分もあって、セリア独自のスタイルが完成される前の、こわいもの知らずの颯爽として初々しい歌いっぷりである。このあたり、ジャズのなんたるかもよくわからないままに、野性的なスキャットを聞かせてくれた、戦前・戦後まもないころの笠置シヅ子や、民謡調からモダンなジャズ・ソングまで見事に歌いこなした十代の頃の美空ひばりとどこか似ている。

 日本でセリアとラ・ソノーラの名が知られるようになったのは、60年発売のLP『キューバの恋の夜』からシングル・カットされた「月影のキューバ」'MAGICA LUNA' のヒットがきっかけだった。ユダヤ民謡をグァラーチャ風に仕立てたこの曲は、メロディの親しみやすさも手伝って、森山加代子をはじめ多くの日本人女性歌手がカヴァーしている。ちなみにこの曲、90年にボンバから発売された『ベスト・オブ・セリア・クルース第1集』(ボンバ BOM2015(JP))などで聴くことができる。
 とはいえ、カラッと元気で軽快なグァラーチャを得意としたかれらは、しっとりした哀愁味をこよなく愛した日本人に広く受け入れられたとはいいがたい。いまの耳で聞くと、メロディといい、セリアの歌声といい、日本人にも親しみやすいものを感じてしまうのだが、ハリー・ベラフォンテなど、米国で活躍する歌手やバンドを経由してかなり薄められたラテン音楽になじんでいた当時の日本人には、ラ・ソノーラといえど、かなりアクがつよく感じられたにちがいない。

 話題を本盤のことに戻すなら、個人的にとくにおもしろいと感じたのは、50年12月に録音されたセリアのラ・ソノーラでのデビュー曲「カオ・カオ・マニ・ピカオ」'CAO CAO MANI PICAO' から、グァヒーラをマンボして、なぜかロシア民謡の香りただよう「幸せな農民」'EL GUAJIRITO CONTENTO' 、アフロ系のコンガのリズムのくせしてミョーにクールな「ジュヤマの神よ、踊って」'BAILA YEMAYA' 、“ラ・グァラチェーラ”(グァラーチャの歌い手)誕生の幕開けを告げる陽気なグァラーチャ「フルーツ、そして我がキューバ音楽」'LAS FRUITAS Y MI SON CUBANO' 、リノ・フリーアスのピアノがかれが元いたアルセニオ楽団の音を彷彿させる「ルンバはご機嫌ななめ」'EL DISGUSTO DE LA RUMBA' ミゲリート・バルデースの歌いっぷりをちょっと参考にさせていただきましたって感じのカンシォーン・アフロ「ラチョ」'LACHO' 、セリアの歌とラ・ソノーラの伴奏がリズミカルに一体化する「タタリババ」'TATALIBABA' へとつらなる51年7月までの最初期の録音。
 それとザ・ピーナッツも歌っているハイチの有名曲「イエロー・バード」の旋律をもとにした「シュクーヌ」'CHOUCOUNE' 、同じくハイチの伝統曲「ゲデ・サイニャ」'GUEDE ZAINA' あたりがおもしろい。
 「サルサの女王」としてラテン音楽界に君臨するセリアよりも、都会的なクールさと庶民的なベタさを違和感なく共存させてしまっている「キューバのアイドル」であったころのセリアのほうが、すくなくともわたしはずっと好きだ。


(1.14.02)



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by Tatsushi Tsukahara