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Artist

DUO LOS COMPADRES

Title

CANTNDO EN EL LLANO



Japanese Title 国内未発売
Date 1949-1951
Label TUMBAO TCD-061(EP)
CD Release 1995
Rating ★★★★★
Availability ◆◆◆


Review

 トリオ・マタモロスに通じるキューバ的なセンティメントで人気を呼んだデュオのオリジナル・メンバーによる最初期の録音。

 ロレンソ・イエレスエロと、いとこのフランシスコ・レピラードは、1907年、民俗的な伝統が色濃く残っているキューバ東部オリエンテ州シボネイに生まれた。ソンの揺籃期に10代の多感な時期を過ごしたふたりは、早くから家を飛び出しミュージシャン活動をはじめる。

 ロレンソは、1935年からキューバ音楽の大歌手マリア・テレーサ・ベラの伴奏者をつとめるようになる(マリーア・テレーサが引退する62年まで、じつに27年間つづいた)。
 一方、フランシスコは、ミゲール・マタモロスのコンフントにクラリネット奏者として参加(TUMBAO TCD-020TCD-044TCD-070)。ロレンソも、マリア・テレーサとのデュオをつづけるかたわら、ほんの一時期、マタモロスのコンフントに参加していたらしいが、録音が参加しているかは不明。

 “相棒”を意味するロス・コンパドレス結成のいきさつは、48年にパートナーのマリア・テレーサが病気になり、ロレンソが急きょピンチ・ヒッターにフランシスコを呼んだのがきっかけだった。マリア・テレーサは、ロレンソに自作曲を演奏するのを許さなかったため、一度、自分の思いどおりのソンを演奏してみたいという気持ちがつよくあった。ロレンソがファースト・ヴォーカルとギター、フランシスコがセカンド・ヴォーカルとトレスを担当。ふたりのコンビはたちまち評判になり、それぞれ「コンパイ・プリモ」と「コンパイ・セグンド」というニック・ネームで親しまれるようになった。

 アフリカ起源とスペイン起源の音楽が混血して生まれたソン中心のレパートリーは、大半がそれぞれの自作曲か共作曲である。ソンといっても、ソンが成立する以前のクリオージャ、カンシォーンなどのスペイン系の伝統的な歌曲や、キューバ内陸部の白人農民歌であったグァヒーラ(つまり白人民謡)の味わいがある。
 ロレンソの独特の張りとツヤのあるヴォーカルは、ちょっとトボけた味があって、フランシスコのいぶし銀のトレス演奏ともども、どこか職人芸の風情。本盤には、のちにロレンソのパートナーになる19歳ちがいの弟、レイナルド・イエレスエロやセステート・アバネーロのメンバーだったラファエル・オルティスなどがリズム・セクションとして参加。

 'CANA QUEMA' のように、トリオ・マタモロスをそっくり真似たような曲もあるが、どの曲も完成度は高く、デビュー時にはすでにコンパドレス・サウンドは完成の域に達していたのがわかる。なかでも、出色は'CANERO NO.15' 。CANEROとは砂糖きび畑で働くひとのこと。ロレンソが幼少年期を送った1910年代のオリエンテ州には、砂糖きび刈りの出稼ぎにハイチから大勢の貧しい農民たちが来ていた。
 歌のなかで、ロレンソは一部クレオール語をしゃべっている。ロス・コンパドレスの音楽性に、ハイチの出稼ぎ労働者たちがもたらしたフレンチ・クレオール文化が影を落としているとみるのはうがった解釈だろうか。いっぽうで、かれら出稼ぎ労働者たちは、帰国後、ハイチにキューバ音楽をもたらし、コンパ誕生のきっかけをつくったことは興味ぶかい事実だ(ボンバ BOM2009)。

 「コンパイ・プリモ」と「コンパイ・セグンド」のコンビは、55年に分裂。ロレンソは弟のレイナルドを後がまに据えて、ロレンソが引退する82年までロス・コンパドレスをつづけた。日本のボンバ・レーベルから出ていた『ベスト・オブ・ロス・コンパドレス』は、新生ロス・コンパドレスがシーコに残した最初期の録音である。

 フランシスコは、「コンパイ・セグンド」として自分のグループを結成。カルロス・エンバーレやピオ・レイバをヴォーカルにむかえて、コンパドレス・サウンドを引き継いだシブいソンやグァラーチャを演奏しつづけた(TUMBAO TCD-093)。ところが、近年「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」のおかげで一躍脚光を浴びることになってしまった。いまじゃ、本家のロス・コンパドレスよりたくさんCDが出ているんじゃなかろうか?2001年の現在も現役として活動をしているはずだ。老人施設で働くわたしからすれば、まさしく高齢化社会の輝く星でといったところ。

 なお、コンパオ・プリモとセグンドのコンビによるアルバムは、本盤のほかに49年から55年までの音源を集めた"SENTIMIENTO GUAJIRO"(TUMBAO TCD-095(EP),1999)がある。こちらも本盤に劣らずすばらしい。ただし、このひとたちのサウンドはどこを切っても金太郎飴だから、マニアでないかぎり、本盤1枚持っていれば事足りると思う。


(12.3.01)



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by Tatsushi Tsukahara