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Artist

RAY BARRETTO

Title

VIVA WATUSI !


watusi!
Japanese Title ビバ・ワトゥーシ〜グレイテスト・ヒッツ
Date 1965-1967
Label ボンバBOM606(JP)
CD Release 1993
Rating ★★★☆
Availability


Review

 ラテン・グルーヴと称してクラブ系の人たちから再評価されるようになったブーガルー。60年代後半、ロック、R&B、ソウル、ジャズなどの要素を大胆に融合させたラテン・ビートで一世を風靡したが、サルサの登場によってあっという間に消え去ったアダ花。
 B級感覚がわざわいしてコアなラテン音楽ファンからは軽く見られてきたが、内へ内へと排他的に深化していった結果、硬質化し自壊していったサルサへの反動としてブーガルーがふたたび脚光を浴びようとはだれが想像できたろうか。

 ブーガルーの代表的なCDとしては、音楽評論家の原田尊志さんの選曲・編集で、92年にボンバから発売されたコンピレーション『ブーガルー・ア・ゴー・ゴー』(DISCOTECA DCD2801(JP))がある。ペレス・プラードやレイ・バレートといった大物から無名のアーティストの演奏まで、ブーガルー・ナンバーばかり18曲を収録した本盤は、とっかかりこそ「おっ」と思わせるが、3曲も聴けば飽きてきてしまう(最初から最後まで聴き通したことがいまだかつてない)。これは選曲の問題というよりも(それどころかかなりよくできた選曲だと思うのだが)、ブーガルーはしょせんこの程度のものということなのだ。たしか続編として『ア・タッチ・オブ・ブーガルー』というアルバムがリリースされたと記憶しているが、まあ、先のアルバム1枚持っていれば十分という気がする。

 ブーガルーがいまいち食い足りないのは、B級だからとか、雑種的だからとかいうではなく、音楽として底が浅いというかコクを欠いているためだ。ポピュラー音楽はすべからく雑種音楽なのだが、根幹をなす部分がしっかりしていてこそハイブリッド性が強みを発揮する。しかるに、ブーガルーは手当たり次第につまみ食いしてみたものの、地に足が着いていないという印象をどうしても拭い去れない。

 プエルト・リコ人を両親に持つニューヨーク生まれのコンガ奏者レイ・バレートは、マンボからパチャンガを経てブーガルーに至り、サルサへたどり着いたという意味で、かれの歩みはそのまま50年代以降のニューヨークのラテン音楽の歩みであるといっても過言であるまい。そして、同じくニューヨーク生まれの先輩ティト・プエンテがそうであったように、かれもまたそのミュージシャンとしてのキャリアのはじめにアート・ブレイキー、キャノンボール・アダレイ、ジーン・アモンズ、レッド・ガーランドといった一流ジャズ・ミュージシャンと共演するなど、ジャズの洗礼をしっかりと受けている。ブーガルーはフェイクだが、ブーガルーを演じてもバレートの演奏がぽっと出のミュージシャンのそれとひと味もふた味もちがうのはこうしたバックグラウンドがあったればこそ。

 72年には傑作とされる"THE MESSAGE"(聴いたことない!)を発表するなど、ニューヨーク・サルサの中心人物となるバレートのブーガルー時代を代表するアルバムといえば、ブーガルー最盛期の68年にファニアからリリースされた"ACID"が挙げられよう。わたしは、翌年にリリースされた"HARD HANDS"と2オン1した徳用盤(NASCENTE NSBTB 004(UK))で持っているが、サイケなタイトルとはうらはらに真っ当なブーガルーとサルサをやっていて、傑作とされるほどのものではないと思っている。

 ここに紹介するアルバムは、"ACID"より前の65年から67年までのユナイテッド・アーティスト時代に発表された3枚のアルバム("VIVA WATUSI","EL RAY CRIOLLO","LATINO CON SOUL")から選曲された編集盤。アルバム・タイトルにも使われている'WATUSI 65'は、62年に大ヒットしブーガルー・ブームの先駆けとなった'EL WATUSI'のセルフ・カヴァー。R&Bっぽいリズム・リフをとりいれたファンキーなナンバーで『ブーガルー・ア・ゴー・ゴー』の冒頭にも収録されていた。

 でも、じつはブーガルー・ナンバーはほかに2曲収録されている程度で、残りはヴァイオリンやフルートを加えたチャランガ編成によるパチャンガ、サルサとしかいいようがないようなタイトでスピード感あふれる演奏がメインである。チャランガ編成といえば、オルケスタ・アラゴーンによって広まった優雅なチャチャチャが思い出されるが、ニューヨークではドゥアルド・ダヴィッドソンが考案したはねるようなリズム、パチャンガが主流となった。それでも古くはダンソーンの流れを受け継ぐ優美さは健在で、これがブーガルーやサルサの骨格をかたちづくったというのはちょっと意外な気がする。

 わたしには、いわゆるトランペットを加えたソノーラ編成でピアノ・リフが延々とくり返される典型的なサルサより、ヴァイオリンの旋律などに優美さが感じられるこういったサルサ過渡期の音楽のほうがずっと肌に合う。


(2.13.03)



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by Tatsushi Tsukahara