World > Latin America > Caribe > Haiti | ||||||||||||||||
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Artist | ||||||||||||||||
NEMOURS JN. BAPTISTE |
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Title | ||||||||||||||||
MUSICAL TOUR OF HAITI |
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Review |
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ヌムール・ジャン・バチストは、50年代半ばごろに“コンパ・ヂレクト”というスタイルを打ちだし“モダン・コンパの父”といわれているバンド・リーダー/サックス奏者。かれがヘイシャン・ミュージックの発展に寄与した功績は絶大だったらしく、LP3枚分をまるまるヌムールに捧げたミニ・オール・スターズの『ピュア・ゴールド』を筆頭に、モダン・コンパの雄タブー・コンボも'HOMMAGE A NEMOURS JEAN BAPTISTE'という曲でその偉業を称えている(SUPER STARS(CHANCY CRCD-7985)収録)。 ヌムールがコンパ・ヂレクトによってハイチの音楽シーンを席巻する以前には、ジャズやラテン音楽の要素とハイチ固有の音楽要素を融合させた“メラング”を演奏するジャズ・デ・ジューヌというバンドが人気を得ていた。ジャズ・デ・ジューヌの演奏は、かつてオーディブックから出ていた『ハイチ音楽入門』(オーディブック AB20(JP)[廃盤])に2曲収録されている。 ところが、50年代に入ると、お隣りドミニカ共和国のアンヘル・ビローリアらによるモダン化された“メレンゲ”がラテン音楽シーンで席巻。その余波は当然のことながらハイチにも及び、タイトで力強いビートを備えた“メレンゲ”の前にして、優美なノリが信条だったジャズ・デ・ジューヌらの“メラング”は敗退を余儀なくされる。 メレンゲにすっかり人気を奪われたかたちのハイチの音楽シーンをふたたび奪還したのがヌムールの“コンパ・ヂレクト”だった。それは、先輩たちのスタイルを踏襲しつつ、メレンゲのスタイルをとりいれてアフロ的なノリを強調したシンプルでダイナミックなサウンドであった。また、メレンゲからの影響でジャズ・デ・ジューヌが切り捨てていたアコーディオンを復活させた点も見逃せない。 本盤は、アンソニア・レーベルからリリースされたアンサンブル・オ・カルバス名義の58年の録音7曲と、アンサンブル・ヌムール・ジャン・バチスト名義の60年の録音10曲をカップリングしたヌムール全盛期の演奏を収める。 バンドは、トランペット2本、アルトとテナー・サックスのホーン・セクションに、アコーディオン、ウッド・ベース、コンガ、マラカスまたはグィロを兼ねるヴォーカルからなる大編成。60年の演奏ではエレキ・ギターが聞こえるし、曲によってはコンガがティンバーレスに代わっているようだ。 コンパ・ヂレクトは、ダイナミックなホーン・セクションとともに、アコーディオンが前面に使用され、リズムもサウンドもメレンゲのようにタイトで引き締まった印象はなく、テンポをやや遅くすることでリズムに粘り腰を与えつつザワザワした祝祭的な雰囲気を演出しているところに特徴がある。踊りやすさを追求して全体に反復的でシンプルな構造になっているため、ジャズ・デ・ジューヌが曲のなかで「猿のバンド」とこきおろしたのもわからないではない。 前半の10曲は、60年のコンパ・ヂレクト黄金期の演奏であったのにたいし、後半の7曲はコンパ・ヂレクトが体裁を整えはじめた最初期の演奏であることから、コンパ・ヂレクトから、マンボっぽいもの、メラングっぽいものまで、未完成のぶんだけヴァリエーションが豊富で、ややストレートすぎる感がぬぐえない60年の演奏にくらべ、緩急というか、たゆたいが感じられ個人的にはこちらのほうが好みだ。 また、58年の録音でリード・ヴォーカルをとっているジュリアン・ポールについても特筆したい。ハイチならではの甘酸っぱさとまろやかさを持つかれの歌声は、アフロっぽいダイナミックな演奏のなかに優美でしなやかな表情を与えている。なかでもミニ・オール・スターズもカヴァーしていたコンパ・ヂレクト初期の代表曲とされる'TIOULE NO.3'は優美さとドライヴ感を兼ね備えた名演といえる。カリブ圏をおおうフレンチ・クレオール文化の中心に位置するハイチならではの多様なエッセンスが詰まった1枚といえよう。 なお、ヌムールの単独名義のアルバムとしては、ほかにNEMOURS JEAN BAPTISTE AUX CALEBASSES / "A VISIT TO HAITI"(SEECO SCCD-9111(US))というCDが出ている。シーコ原盤からの復刻と思われる本盤(全12曲約38分)には、クレジットがいっさい載っていないが、ヌムールとオ・カルバスとあることから、ヌムールがコンパ・ヂレクトを完成させる前の50年代終わりごろの録音だろう。リード・ヴォーカルはおそらくジュリアン・ポールで、マンボっぽいフレーズをくり出すホーン・セクションなんかはアンソニア盤の後半部に酷似。 聴き込めば聴き込むほど、このザクザクした粗削りさがなんともいえぬ魅力に思えてくるものの、よほどのヘイシャン・ミュージック・マニアでないかぎり、アンソニア盤1枚を持っていれば十分という気もする。 |
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(9.8.02) |
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2003年になって、エル・スール・レコーズにイボ・レーベル時代の音源がCD復刻されて入荷したのでさっそく購入してみた。 SUPER ENSEMBLE NEMOURS JEAN-BAPTISTE / "HAITI"(IBO 127(US))という、これまた前の2枚にましてそっけないタイトルではあるが、「スーパー・アンサンブル」のグループ名に恥じないすばらしい演奏内容である。60年代なかばから後半ぐらいの録音のような気がするが、おどろくのは、楽曲の構成とアレンジメント、それに個々のプレイヤーの演奏能力がおそろしく向上していることだ。ヴォーカルは、ミニ・オール・スターズが81年にリリースしたヌムール・トリビュート・アルバム"PURE GOLD"(MINI MRS1126-7-8(US)) でも歌っていたカルロ・グローディン。こうして聴いてみて、あの傑作"PURE GOLD"は、結局のところ、この時代のヌムールのサルマネでしかなかったってことがわかった。 じつはこれまで、ヌムール世代のコンパと、ミニ・ジャズ・ムーヴメント以降のコンパとのつながりがいまひとつ判然としなかったのだが、これでミッシング・リンクはみつかった。ヌムールの偉大さとヘイシャン・ミュージックの底深さをあらためて思い知らされた気がしている。 |
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(3.14.03) |
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