研究紹介

●海洋数理統計学 : 水質総量規制指定エリアにおける環境変化の解析
富栄養な東京湾では水質総量規制による水質の改善と赤潮発生との間に関係性は見られないと言う論点があるが、規制による全リン (T-P)の流入負荷と赤潮の動態(対象とする赤潮判定基準の変動)においては両者に何らかの関係性が見出せる可能性がある。本研究では重回帰分析の応用手法として「細胞数赤潮指標モデル」を作成し、モデルの説明率の推移から検証を試みた。解析の結果、N、P総量規制によって海水中のT-Pが変化してそれが赤潮指標に影響したわけではないが、総量規制によってT-Pだけでなく全窒素(T-N)の負荷量が変わったこと、またそのタイミングで赤潮指標であるSkeletonema sp.が変化したことが判明した。N、P総量規制によってT-N、T-Pの負荷量は有意に減少しており、それにより環境要因連関に変化が起こり、海水中のT-Pの変化は明確ではないにも関わらず赤潮指標には変化が起こった可能性が高いと結論づけられた。引き続き、その他の手法でも解析を継続中である。
参考)Chika Suzuki,「Relationship between the environmental factors and the dynamic state of Skeletonema costatum, the principal species in red tide formation in Tokyo Bay following the introduction of N and P reduction measures」2013

参考)Chika Suzuki,Assessing change of environmental dynamics by legislation in Japan, using red tide occurrence in Ise Bay as an indicator2016

●海洋生物資源学 :藻類の光合成色素の抽出と利用(ロロキサンチン)
抗腫瘍作用・痩身作用をもつ海藻の研究を推進中。
工業的所有権等にも関わるために開示を保留。
*鈴木千賀(研究室主宰者)及び関係者の体重変化にも引き続きご期待を!
●海洋政策 : 水質規制の適切な運用と里海の保全
閉鎖性水域の環境保全とこの問題は切っても切り離せないものである。そのヒントを得るために国際エメックスセンター(EMECS)理事長でもおられる兵庫県知事 井戸敏三氏にお話を伺った例をここに挙げる。瀬戸内海環境保全特別措置法制定四○周年記念事業において、「瀬戸内海里海宣言」が表明されているが、それを実現するには里海宣言を裏打ちする法律が必要となる。井戸知事によれば、現在、国会議員の皆様に瀬戸内海再生議員連盟(最高顧問:安倍晋三総理 会長:塩崎恭久議員 事務局長:末松信介議員)を結成していただき、法律の制定に向け、活動いただいているところであるが、ぜひ議員立法でつくってほしいと言う思いがおありとのことである(2013年12月訪問時)。そのための準備(瀬戸内海環境保全知事・市長会議)について具体的にお伺いしたとともに、「瀬戸内海再生」をキーワードに若手研究者の立場からこの課題に自分もどう関わることが出来るのか検討を重ねているところである。 参考)井戸敏三(兵庫県知事),鈴木千賀,「閉鎖性水域の環境保全」,『水産週報』, 1860, 水産社, pp36-39, 2014 ※紙媒体の為、リンクなし。
●海洋教育 : 機械生物の利用、差動式検容計プロダクトメーターを用いた教育
水産土木とは、水産学と土木工学との融合からなる。海洋工学とは異なる、生物に重きを置いたその分野的特殊性から、大学における水産土木技術者の養成教育はこれまで十分におこなわれてきていなかった。東日本大震災、魚離れなど、水産国日本における解決すべき課題は累積している。水産基盤整備事業(水産庁)の根幹をなす水産土木技術者の養成は、大学に限らず義務教育を含めた学校教育の時点から浸透させていくことが急務であろう。しかしながら、水産土木の根幹にあたる「海洋環境・生物環境を自然条件で比較しながら勉強する機会」は相変わらず学校教育では得にくい。世界的にも海の森(藻場)を起点とする沿岸域の環境やその生物資源の利用に関して注目が集まっており、その重要性は増すばかりである。本研究では、機械生物メカニマルと光合成測定機器プロダクトメーターに焦点を当てて、水産土木技術者養成を念頭にその教材としての可能性について継続的に検証している。
参考)Chika Suzuki, Akira Kurashima, Yasutsugu Yokohama, Genjirou Nishi, Takeshi Sato, Sadao Tezuka, Takashige Sugimoto, 「Training and education of fisheries civil engineers through case studies involving a mechanized fish “mechanimal” and a “productmeter” for measuring photosynthesis」2013
●イノベーション・エコシステムの構成要件に関する調査・分析(協力研究)
これまで我が国では大学等研究機関において自立的かつ連続的にイノベーションを創出する「イノベーション・エコシステム」の構築を目指した各種の支援策が実施されてきたが、必ずしもその具体的な評価手法が確立されているわけではない。こうした点を踏まえ、イノベション・エコシステムを構築している成功事例の分析を行うとともに、特にCOI(センターオブイノベーション事業)を対象として、評価指標・分析手法を開発することを目指す。※海洋分野での貢献