50BM8pp実験

20131005〜20131016


目次

1. まずは標準ppから
2. 変節の発端
2'. 差動出力段
3. 黒田式新バイアス回路
4. 歪み率の周波数格差
次は・・・


はじめに

前作に引き続き、ぺるけさんご提唱の中から「全段差動プッシュプルアンプ」です。ご著書の「情熱の真空管」で紹介された16A8使用例を50BM8に「素直」に置き換えようと考えました・・・・・・が!。

これはもう習い性でしょうか、エージングと選別を兼ねたバラック実験からスタートします。実はその最中に「黒田式?新バイアスプッシュプル」回路の実験も、つい盛り込んで試してしまいました。以下、初期構想から逸脱しそうで、踏みとどまった(つもり)のレポートです。

2018某日追記:ぺるけさんのHPにて

「16A8(3結)全段差動PPおまけ・アンプ 」からの引用ですが。『本機のヒーター回路はトランスレス式であり、2014年現在の安全基準を満たしていません。その昔、ごく当たり前に行われていたトランスレス式のヒーター回路は現在では使うことができません・・・』との警告文を拝見しました。困った。悩ましい。今後ど〜する。本機は実験機なので解体したが・・・。


1. まずは標準ppから

20160204〜

50BM8pp実験回路1. 実物は合板端材に盛り付けた程度の、とてもお見せできないバラック実験ですが、回路はこんな感じです。各カソードバイパスコンデンサ(以下Ckと略す)無しから始めたのですが、段階を追って付けたり足したり、繋ぎ変えたりしました。

本件の前に拵えた不平衡→平衡変換冶具で、出力段を直接ドライブし、出力段の実測利得など基礎データを調べました。Eb≒180V、2Ibo≒62mA、RLpp=8kΩです。

まあ、従来の標準ppも知っておかないと、差動増幅回路との違いが実感できないと考え、回り道的ですが調べてみた訳です。

50BM8pp実験1_F特 50BM8(T)出力段と使用を予定しているOPT・PS-102のF特です。本件の主題ではありませんが、この先微妙に絡んできます。測定回路はコチラ、冶具はコチラの5532版。1次P1⇔P2間電圧≒9.5Vrmsかと。

言っちゃあナンだが、50kHz前後の妙な凸凹は気になる。

50BM8pp実験1.自己バイアス各種 用語の省略が甚だしくてスミマセン。青線(出力段Ck無し)は平衡変換冶具で出力段を直接ドライブした曲線です。この残留ノイズは0.05mVでした。OSC+冶具の電圧上限のため1.6Vrms/0.32Wまでですが、赤線(冶具→3極部Ck無し→出力段Ck無し)での1W/1%歪みに重なる予感は見えます。3極部を経由するとハムは増え、全体の残留雑音値は3極部が支配的とわかります。まあ、安易に作るとコレくらいなのでしょう。

黄線(各段Ck付き)では少し様相が変化しました。Ck付きで各段のACバランス不同がむき出しになった気がします。あえてADJしませんでしたが、すれば歪は減る見込みです。

注:測定周波数は全て1kHzのみ。以後も断りが無ければ1kHzの歪み率数値です。

以上は必ずしも実験回路の最適値を求めたものではありません。後になって冶具の片側回路に利得微調整を追加しました。ACバランスで、ん割くらいの歪み低下は見込めそうですが、けしからぬ事に再試行はサボります。

告白:Ck付き出力段を冶具のみで直接ドライブする実験しておらず、後悔しています。上記歪み率特性の「青線」は各管独立に電流帰還がかかっており、多くの作例との比較には不適切(丸裸より低歪みかな?)かもしれません。(20131109)

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2. 変節の発端

50BM8pp実験2. 似たような回路図ですが、1.での各球独立Rkを対球共通・・・おのおのを並列にまとめました。これを定電流回路に置きかえれば、全段差動になるのは申し上げるまでもありませんが。

無駄口はさておき、まずは、冶具→出力段共通RkにはCk無しから。

50BM8pp実験1-2.Ck無し2種 青線です。3極部ナシですが、独立Rkより利得が増加し、冶具ダイレクトドライブでも3.2Vrms1.28Wまで得られました。
赤線は、前述の各球独立RkのCk無しです。

コレを見て唖然としました。これはもう・・・黒田式新バイアスの効果が発揮されていると感じました。

すぐにも、最大出力(2W強?)までの歪み率を見てみたいと考えました。

50BM8pp実験2.各種ドライブで 解りにくい凡例表現で申し訳ありません。青@は上の青線そのものです。

赤Aは@の出力段を、冶具→3極部前段のCk付きでドライブしたもの。

黄Bは@を、同→3極部前段の共通RkにはCk無しでドライブしたもの。

水色Cは@を、同→3極部前段の差動増幅(2SK30Aで≒1.2mAにADJ。
ABと近似の電流値に設定)でドライブしたもの。

紫Dは@を、同→タムラTN-351(1+1:2+2)でドライブしたもの。

3極部前段を使用した実験A〜Cはハムが増え、全レベルで歪み率は似た傾向です。それでも2Wで0.5%未満が無帰還で得られるなら注目に値すると考えます。最後のDでは3極部増幅を止めて、大仰だがTN-351でドライブするとハムは相当低下。0.1W付近からは@の冶具ダイレクトドライブ(ヘンな文句だ)に沿った曲線のまま、2Wでも0.135%にまで歪が抑制されている事がわかりました。

A〜Cの3極部を使用した実験では、必ずしも最良条件を与えてはいない気がします。とはいえ、バイパスの無い共通Rkの出力段を、冶具(+トランス)など低雑音低歪みでドライブすると、50BM8とはいえこんなに高性能になるんだ、と実感しました。

実はココまでは50BM8のサンプル9本の中から、無作為抽出した2本でのデーターです。

後に全9本の各ペア組みで、大半を点検(8割ほどの組み合わせ)をした結果、この2本と同等のが一組、次善のが二組見つかりました。ハズレと感じた組でも、1W強で0.1%付近のが半数くらい。運がいいのかタマタマなのかはなんとも・・・。

なお、関連情報を精査しますと、この黒田式新バイアス方式かもと考えた実験結果は、黒田徹氏ご本人の記事(ラ技2006年8月号138頁〜)の文中で、中林歩氏のHP中で既にその可能性が示されておられると書かれてます。お二人の慧眼にはただ、恐れ入るばかりです。

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2'. 差動出力段

一旦振り出しに戻って、いや、ほったらかしの差動出力段を試します。50BM8pp実験2.の出力段共通Rk、470Ωパラを定電流回路に置き換えました。

50BM8pp実験2.差動出力段 この2つを並べるのには躊躇いがありましたが、青線が差動出力段、赤線がCk無し共通Rk出力段です。

どちらも冶具ダイレクトドライブでの特性で、出力段の利得は同等です。

Ck付き出力段では1W時1%ほどの歪が、差動では改善されています。Ck無し共通Rk出力段は更に低歪みで、歪み波形の撮影を忘れたので説明し辛いのですが、3次高調波の位相が異なるようです。この点は黒田氏の記事でも解説されてますし、同じ視点での考察を他でも拝見した記憶があります。

昔からの標準pp・・・3極管もしくは3結多極管の話ですが・・・では、出力波形の先端が尖る歪み方をしますが、差動出力段は逆相の、波頭が抑圧(凹む・・・と書こうかと思った)された歪み方になります。Ck無し共通Rk出力段では、それらの中間点で動作しているように感じますし、黒田氏が意図した動作と言えましょう。

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3. 黒田式新バイアス回路

ここまでの実験は出力段の各管カソード抵抗470Ωを、並列に一まとめの共通Rkにしたり、定電流回路に置き換えた程度の荒っぽい実験だったと自覚しております。些細な事かとは思いますが、共通Rkにバイパスコンデンサを入れた実験はしておりません。各管独立RkのCk付きと同等・・・所謂標準pp・・・と考えております。

実験に使用した2本の事情は既にお話しましたが、タマタマとはいえ相当良好なペアだと感じます。それに依存して、DC/ACバランス共省略して進めてまいりましたが、改めて各バランス調整を可能にして詳細に調べようと考えました。「共通RkのCk無し」動作は以後、黒田式と「勝手」に呼称します。

50BM8pp実験3. なんとなく・・・ですが、前段の歪みを相当下げないと黒田式出力段の実力を見極められない印象を、これまでの実験で感じています。TN-351使用時が最良なので、50BM8の3極部でソレを目指そうと考えました。

前段の利得は約+6dbにしました。TN-351使用時と同等を意図したわけです。冶具入力→SP出力までの利得はおおむね−3dbなので通常のパワーアンプ仕様ではありません。

下側回路は、冶具を省けないかと考えたものです。オートバランス型位相反転とは随分ひねくれた選択ですが、入力側にも強度のPG帰還を加える事で、幾つかの欠点を抑制できる見込みです。

注:スミマセン、この時点では冶具のACバランスと、出力段の両カソード間のB50Ωバランサー、定電流に//のC+VRは付けておりませんでした。なお、使用ペアは相変わらず初期からの2本のままです。

50BM8pp実験3.各種ドライブで 例によって解りにくい凡例表現で申し訳ありません。青@は実験2.黒田式動作(共通RkのCk無し)再掲。

赤Aは@を、同→タムラTN-351(1+1:2+2)でドライブしたもの。再掲。

黄Bは@を、実験3.平衡PG帰還増幅でドライブしたもの。

水色Cは@を、同3.PG帰還増幅+オートバランス型位相反転でドライブしたもの。

ある程度、意図した狙いを見ることが出来ました。実測したわけではありませんが(計算すらしてない)利得+6dbのPG帰還増幅回路では・・・推定20dbほどの負帰還がかかって、TN-351使用時の低歪みドライブに近づいている様相です。気になるのは、ハムが増えたこと。特にオートバランス併用時は酷い。2W時に0.1%を切ってるので、ある意味気になるのですが・・・。

タイミングを逸した補足です。50BM8pp実験3.回路の出力段カソードの定電流回路に「B1kΩトリマ+100μF」を並列接続しました。ADJしますと240Ω程が最良値でしたので、初期に挿入していた470Ωのパラ=235Ωは、タマタマ当たったというわけです。

更に、話が著しく前後して申し訳ないのですが、この後に全9本のタマの選別を行っております。その途中で冶具ACバランス、出力段両カソード間のB50Ωバランサーを追加しました。なお、定電流回路に繋がるB1kΩトリマの値は、ペア組み多数のなかで153Ω〜385Ωにばらつきました。固定Rkでは賄えないところです。

ここまで1kHz歪み率一本やりで通してきましたが、初めて10kHzを調べてみますと・・・1W時に0.6〜0.7%も歪んでます。どうやら2kHz位から歪み率の悪化が始っており、頭を抱えました。この点は平衡PG帰還増幅、PG帰還増幅+オートバランス型位相反転は同様です。今思えば、冶具ダイレクトドライブとTN-351ドライブでも確かめときゃ良かったのですが、何故か未確認のまま次の実験に進んでしまいました。

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4. 歪み率の周波数格差

後出し情報的ではありますが、PG帰還増幅+オートバランス型位相反転では反転出力電圧の高域バランスは良くない事は確かめました。10kHz辺りから下側が先に下降します。そのメカニズムは既に解明されているので、改善は可能かと思います。ただし、上下良く揃っている平衡PG帰還増幅(80kHzで、上:−3db、下:−2.5db)でも、歪み率の周波数格差は変わりません。

次に疑ったのはOPTでした。そしてそれは的中したようです。運良く駆け込み注文で入手できたISOタンゴ・FE-25-8との比較をしました。以後の実験には平衡PG帰還増幅回路を使用し、加えてヒーターをDC点火しています。Noisは0.44mV→0.1mV台へと効果はてきめんでした。

50BM8pp実験4.歪率PS-102 10kHzでは両者の違いが明らかになりました。コチラはまるでシングルアンプの様に見えます。

DC点火のおかげで、3極部使用でも低出力時の数値が相当改善されました。

50BM8pp実験4.歪率FE-25-8 歪み率の周波数格差は改善されます。カーブが湾曲傾向になった理由は・・・良く解りません。実はOPTの置き換えだけでも歪み最小値に関わるADJポイントは微妙に異なり、再調整した結果でもあります。

ただ、「見事に揃ってる」訳ではないので、まだまだ追求すべき点は残っています。出力段は無帰還なので、その入出力ともに周波数格差が極小である事が求められそうです。今回はOPTが主因かと考えます。

書きづらいのですが、「別の」大きな歪み発生源のため、それらが埋もれてしまう作例もある、ということは申し上げておきます。

実験4.OPT1次平衡度 両者の違いを別の視点で知りたくなり、OPTの1次巻線平衡度を調べてみました。測定回路はコチラですが、武末先生の文献からお借りしました。測定機材・条件が相当異なるので測定値の信頼性は?ですが、両者の違いは認められます。

実はこの手の測定事例は殆ど見られません。余談ですが、供給メーカーですら開示されませんね。調べてない・・・とも思われませんが。まあ、要するにこの2者の差が著しいものなのか、そんなモン・・・なのかが判断付きかねるのです。

50BM8の実験はこれで終了です。タマは他の「未着手」ネタに回す事にしました。

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次は・・・

50RP28 「全段差動プッシュプルアンプ」へのアプローチは、「駄球」にも掲げられないような忘れられたタマ「50RP28」で取り組みましょう。

PIN接続の違いを直せば、実験セットがそのまま活きますので、片手落ちが多かった本稿の補足的実験も試したいと考えます。

3行空けのために・・・こげなことを

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