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Artist

FRANCO/ SAM MANGWANA ET LE T.P.OK JAZZ

Title

1980 /1982


cooperation
Japanese Title 国内未発売
Date 1980 / 1982
Label SONODISC CDS 6860(FR)
CD Release 1994
Rating ★★★★
Availability


Review

 サム・マングワナは、75年にTPOKジャズをやめたあと、古巣であるタブ・レイ・ロシュローのアフリザに身を寄せるも金銭上のもつれからすぐに脱退してしまう。アンゴラ人を両親にもつかれは、ザイール人からすればストレンジャーであり傭兵ぐらいにしか思われていないと感じていた。だからザイールをあとにすることに未練はなかった。船でニジェール川をさかのぼり中央アフリカ共和国へ、その後、カメルーン、ナイジェリアを経て、77年はじめにコート・ジヴォアールの首都アビジャンにたどり着いた。マングワナが'pigeon voyageur' と呼ばれていたのは、伝書鳩のようにバンドからバンドへ、国から国へと渡り歩いたかれのそんなノマド的な性格から来たものだろう。

 旧フランス領アビジャンは西アフリカ沿岸最大の貿易都市。政情が安定していたことから、ザイールをはじめアフリカ各地からミュージシャンが集まり、文化の坩堝と化していた。
 マングワナが来たころは、マリ人のサリフ・ケイタ、ギニア人のカンテ・マンフィーラらがアビジャンで結成した多国籍バンド、アンバサデュールによる'MANDJOU' が大ヒットしていた。また、ナイジェリアのハイライフ・スタイルにカメルーンのマコッサとザイール音楽の要素をとりいれたプリンス・ニコ・ムバーガによる'SWEET MOTHER' が人気を博していた。
 このようにアビジャンには多様な出自の音楽が飛び交いぶつかり溶け合って、新しいタイプの、いわば“ワールド・ミュージック”が醸造されていく自由な空気があった。

 78年、タブ・レイとアフリザは西アフリカ・ツアーをおこないアビジャンを訪れた。そこで、ギターのディジー・マンジェク Dizzy Mandjeku 、ロカッサ・ヤ・ムボンゴ Lokassa ya Mbongo ら数名のメンバーはそのままアフリザを脱退してしまう。まもなくかれらはマングワナと再会してアフリカン・オール・スターズを結成する。
 かれらの、ザイール音楽のワクにこだわらない柔軟でスピーディな演奏が若い人たちのあいだで受けて、'GEORGETTE ECKINS'SAM MANGWANA / "GEORGETTE ECKINS" (SONODISC CDS7002) 収録)は大ヒットを記録。かれらは一躍スターダムにのし上がった。

 アフリカン・オール・スターズを中心として西アフリカ一帯で盛り上がったザイール音楽ブームを、ビジネスの「巨匠」フランコが放っておくわけがない。81年、西アフリカではじめてのTPOKジャズのアルバムが発売された。仕掛け人は、アビジャンでディスコ・ストック・レーベルを運営するセネガル出身のプロデューサー、ダニエル・キュザック Daniel Cuxac とアメリカ人のレコード・ディーラー、ロジャー・フランシスの二人であった。VISA1980から前年に発売された"A PARIS" と同一内容であったが、予想以上のセールスを記録した。なかでも冒頭のダリエンストが書いた'LIYANZI EKOTI NGAI NA MOTEMA'、通称'MUSI' は西アフリカでかなりヒットしたという("EN COLERE VOL.2"(AFRICAN/SONODISC CDS 6862)収録)。

 この成功に気をよくしたキュザックがつぎに思いついたのが、ザイール音楽の巨匠フランコと、いま人気のサム・マングワナの師弟をふたたび共演させようという企画だった。キュザックからこの企画を聞かされたフランコは当初、あまり乗り気でなかったという。それでもキュザックの粘り強い説得が功を奏し、フランコはついに首を縦に振った。

 こうして7年ぶりとなる師弟共演のアルバム"COOPERATION" が実現した。レコーディングは、82年3月にキンシャサでおこなわれた。バックをつとめたのは、フランコとマングワナ、それぞれのバンドからメンバーの一部に助っ人ミュージシャンが加わるという編成だった。オリジナルLPではマングワナ2曲、フランコとシマロ各1曲の計4曲構成だったが、CDでは本盤と"FRANCO-SIMARO-SAM MANGWANA & LE T.P.O.K.JAZZ 1982/1985"(SONODISC CDS 6854)の2枚に分けて2曲ずつ収録されている。

 これら4曲のうち、フランコとマングワナがじっさいに共演しているのは'COOPERATION' 1曲のみで、'LOBOKO NA LITAMA' にはマングワナ不参加、'FAUTE YA COMMERCANT''ZALA SPRTIF' にはフランコ不参加である。ザイール音楽が成熟のピークに達していた時期の録音だけにどの曲も悪かろうはずがないが、出色はシマロが書いた'FAUTE YA COMMERCANT' に尽きるだろう。

 'FAUTE YA COMMERCANT' は、妻と愛人にうっかりおなじドレスをプレゼントしてしまった男の話だそうだが、音楽のほうはというとシマロとマングワナのコンビで生み出された不朽の名作'MABELE (NTOTU)'"1972/1973/1974" (SONODISC CD 36538) 収録)や、'EBALE YA ZAIRE'"1974 / 1975 / 1976" (AFRICAN/SONODISC CD 36520) 収録)をほうふつさせる静かだが強い意志を秘めた中身の濃い名演といえる。マングワナの憂いを含んだハスキーなヴォイスが最大限に生きてくるのは、やはりシマロの楽曲をおいてないと再確認した。フェイドアウトがすこし残念。
 この曲はフランコと多くのミュージシャンがスタジオを去ったあとに、シマロをリーダーとして残ったメンバーだけでレコーディングされたものらしい。
 しかし、いくら名演だからといって肝心のフランコが不参加なのではこのコーナーの趣旨とずれてしまう。だから、ここではフランコが参加したセッションを収録した本盤のほうを採ることにした。

 マングワナとフランコとの陽気なことばのやりとりではじまる'COOPERATION' は、マングワナの手によるシンプルでストレートなダンス・チューン。なによりもマングワナのツテで参加したというメンバー(姓名不詳)のドラム・ワークがTPOKジャズのスタイルとはまったくちがう。ツッコミ気味にえぐってくるベードラや派手なロールがロックっぽく、メリハリが効いて迫力満点。フランコも歌うがメインはあくまでマングワナ。代わりに、フランコはエキサイティングなギター・ソロをたっぷり聴かせてくれる。

 LP"COOPERATION"から採ったもう1曲'LOBOKO NA LITAMA' は、フランコのヴォーカルとコーラスが延々と掛けあいをおこなうミディアム・テンポの典型的なフランコ作品。述べたように、この曲にマングワナの参加はない、というか必然性がない。
 
 この編集アルバムには、上述の2曲のほか、81年にフランコのレーベルEDIPOPの第1弾として発売された4枚シリーズ"LE QUART DE SIECLE" から3曲が選曲されている。
 ベーシストのデッカ編曲とある'BELLE MERE' は、およそTPOKジャズらしからぬ親しみやすいほのぼのとした内容。フランス語で歌われていることからしてフレンチ・ポップスのリメイクだろうか。節目節目で「セーラームーン」といっているように聞こえるのがおちゃめだ。
 つづく'TUTI' は、前の曲にくらべるとよほどTPOKジャズらしい演奏ではあるが、歌も演奏もいつもよりスマートでライトな印象を受けてしまう。作者のウタ・マイはコーラスの妙を聴かせることのみに力を注いだとしか思えない。スキはないけどクセもなく、TPOKジャズとしては平凡な内容。

 本盤ラストは、フランコ作の優雅なナンバー'SANDOKA' 。フランコのヴォーカル参加はなく、コーラス同士が絶妙のコール・アンド・レスポンスのやりとりをくり返すうちにジワジワと熱くなってくるという構成。後半のセベンではめずらしくアニマシオン(ダンスを煽るための掛け声)がはいっている。サックス・ソロはエンポンポだと思うが、うまさはあってもスマートすぎて熱くならない。それでも、クルクルと旋回つづけるギター・アンサンブルはあいかわらずすばらしい。

 このように本盤は1曲目の'COOPERATION' を除けば、とりたてて論ずるに足らない平凡なナンバーでしめられている。LP"COOPERATION" をまるごと1枚のCDに納めればよかったものを、すこしでも多く“売る”ためにソノディスクはわざわざ2枚に分割し、あまった部分を寄せ集めの曲で埋め合わせたという印象をまぬかれない。これを暴挙といわずしてなんといおう。
 それから、銭湯で偶然出会った町内会の仕切りたがりオヤジみたいな風情のフランコをジャケットに使うのだけはやめてくれ。もっとも“幻の名盤解放同盟”的な視点でいけば、かなりいけてるとは思うのだが‥‥‥。

 最後にいい忘れたが、LP"COOPERATION" は、フランス語圏のアフリカとカリブ諸国から選出されるベスト・アルバム部門でマラカス・ドール(フランス版グラミー賞)を受賞した。アフリカではミリアム・マケーバマヌ・ディバンゴにつづく3人目の快挙であった。
 ちなみに、現在、"TRES FACHE"(SONODISC CDS 6863)のタイトルで発売されているCDのもとになっているのは、83年に発売された2枚組LPで、その名もズバリ"DISQUE D'OR ET MARACAS D'OR 1982" という。商魂たくましいフランコの本性、ここに見たり。


(12.10.03)



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by Tatsushi Tsukahara