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Artist

FRANCO - SIMARO - JOLIE DETTA ET LE T.P.O.K.JAZZ

Title

1986 - 1987 - 1988


jolie detta
Japanese Title 国内未発売
Date 1986 / 1987
Label SONODISC CDS 6855(FR)
CD Release 1994
Rating ★★★★
Availability


Review

 わたしが知るかぎり、O.K.ジャズがその長い歴史のなかで歌手または演奏者として女性メンバーを迎えたのは、ヴィッキー・ロンゴンバの誘いで63年にわずか4ヶ月間在籍したとされる“ミス・ボラ”ことアンリエット・ボロージマぐらいしか思い当たらない。しかし、そうなると66〜67年の音源からなる"LA BELLE EPOQUE"(AFRICAN/SONODISC CD 36553)収録の'MOSIKA OKEYI ZONGA NOKI' でヴォーカルをとっていた女性はだれなんだ?

 いずれにせよ、86年に女性歌手ジョリー・デッタ 'Jolie Detta' Kamengo Kayobote がメンバーに加わったことは約20年ぶりの快挙であった。ギリシア人とザイール人を両親に持つジョリーは、長身でエレガントな女性だったという。ザイコ・ランガ・ランガから分裂したボジ・ボジアナ Bozi Boziana 率いるショック・スタールに一時籍を置いたあと、当初はフランコレットのダンサーとして参加した。歌手としてデビューしたのは、結成30周年のちょうど節目にあたる86年5月から6月にかけて大規模に敢行されたケニア・ツアーのときだった。

 しかし、彼女が在籍したのはこの前後のわずか数ヶ月間だけだったようだ。したがって、TPOKジャズで彼女の歌が聴けるのは本盤収録の'MASSU' 'LAYILE' の2曲をおいてほかにない。ともにフランコみずからが手がけた作品で、彼女にたいする「巨匠」の期待のほどがうかがえる。

 なかでも、'MASSU' はジョリーのヴォーカルをフィーチャーしたスマートで軽快なナンバー。ジョリーは、ムポンゴ・ロヴムビリア・ベルにも通じるちょっとハスキーがかった淡泊な声質。ぶりっ子といわれた松田聖子の声を想像してしいただければいい。
 'LAYILE' のほうはミディアム・テンポの愛らしい作品。ジョリーと少年系ヴォーカルのイノセントなコーラスがすがすがしい。合間に「巨匠」の説教がはさまれる。といっても、いつものぼやきとちがって声に慈愛が感じられる。これもジョリー効果か。
 これら2曲はいずれも演奏時間が10分前後になるが、すこしも飽きさせないところが、たんなるアイドル・ナンバーに終わっていない証拠。

* このレビューをアップしてから、ボジ・ボジアナのグループでジョリーをフィーチャーしたアルバム"BOZI BOZIANA FEATURING JOLLY DETTA & DEESSE"(NGOYARTO NG020)を手に入れ、そこではじめてジョリーの姿を目にすることができた。細面で大柄そうなうわさどおりの美人である。
 そして、フランコの死後、グループを引き継いだシマロのTPOKジャズの演奏を収めたDVD "LE TOUT PUISSANT O.K. JAZZ / A LA MUTUALITE A PARIS"(SALUMU S002)には、ボーナス・トラックとして、TPOKジャズをバックに
'MASSU' を歌うジョリーのスタジオ・ライヴが収録されている。歌い方も淡々としているが、後半セベンでの彼女のダンスもまた淡々と流れるようでクールなエレガンスということばがぴったり。魅せられます。(10.24.04追記)


 ライヴァルのタブ・レイがムビリア・ベルを起用して大成功を収めたことで、2匹めのドジョウにあやかろうとしたまではよかったが、噂どおりの女性差別癖がわざわいしたのかジョリーにあっさりと逃げられてしまった。
 それでも懲りないフランコは、今度はバニエル 'Baniel' Itela Boketsu とナナ 'Nana' Akumu Wakutu の2人の女性歌手をフィーチャーして88年、"LES ON DIT" "CHERCHE UNE MAISON A LOUER POUR MOI,CHERIE" の2枚のLPをリリースした。これらは、現在、"LE GRAND MAITRE FRANCO ET LE TOUT PUISSANT O.K.JAZZ" (ESPERANCE/SONODISC CD 8462)をはじめ、5枚(再編集盤で日本でも発売された『ル・グラン・メートル〜ザイール音楽の魅力を探る(2)』(オルターポップ AFPCD3213)も含めると6枚)のCDに分散して収録されている。個人的には、となりのネエちゃん風のバニエルとナナよりも、キュートでさらりとしたジョリーのほうが好き。

 ジョリー参加の2曲のほかは、87年末にEDIPOPからリリースされたLP"L'ANIMATION NON STOP" を完全収録。87年は、英国のレーベル、レトロアフリークから"ORIGINALITE"、ビル・ラズウェルのセルロイド・レーベルから"EKABA KABA" などが発売され、ヨーロッパや日本でもフランコの注目度が俄然高まった年でもあった。ちなみに、大林稔さんによる、日本で最初の、そしておそらく最後のリンガラ音楽専門のガイド本『愛しのアフリカン・ポップス』がミュージック・マガジン社から刊行されたのは86年6月のこと。

 そんな流れを受けて、外国人むけのTPOKジャズ音楽ガイドとしてレコーディングされたのがこのアルバム。'MARIO' 'MAMOU' などのTPOKジャズのレパートリー(全9曲)が、ハイテンポなディスコ風ビート?にのせてメドレー形式でつづられていくという趣向。現在、'MARIO (NON STOP)' のタイトルでいくつかのベスト・アルバムに収録されているのは、じつはここからの抜粋('MARIO III' と表記)。
 また、既発表曲ばかりでなく新曲も収録されている。マディル・システムが書いた'IRAN-IRAK' なんて曲はいかにも時代を感じさせる。

 このころからシンセが入るようになって、サウンドがますますメロウになってきた。リズムもスピーディではあるのだけれど、単純化されズークっぽくなった。だから、王道のTPOKジャズ・サウンドを聞き慣れた耳には、どうしても「軽い」というか物足りなさが残ってしまう。でも、歌と演奏テクニックは申し分ないうえ、聞き覚えのあるフレーズが出てきたりすると、思わずニンマリしてしまったりして、それなりに楽しめる内容にはなっている。


(3.21.04)



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by Tatsushi Tsukahara