World > Africa > Guinea

Artist

BALLA ET SES BALLADINS

Title

OBJECTIF PERFECTION


balladins
Japanese Title

国内未発売

Date the late 1960s - the early 1970s /1980
Label PAM ADC302(DE)
CD Release 1993
Rating ★★★★
Availability ◆◆◆


Review

 ギニア独立後、セク・トゥーレ大統領の伝統文化保護政策にのっとって編成された国立バンドは、まもなくケレチギ・トラオレ率いるオルケストル・デ・ラ・パヨートと、トランペット奏者のバラ・オノボギ率いるジャルダン・ドゥ・ギネ(JARDIN DE GINEE)に分裂する。そして、おそらく60年代後半にジャルダンの発展型として結成されたのがバラダンである。

 バンドのコア・メンバーは、リーダーのバラ、トロンボーンとアルト・サックス担当のピビ・モリバ、そしてヴォーカルのマンフィーラ・カンテの3人であった。バラとピビは元は音楽教師で、「ギニア伝統音楽のインテリ」と呼ばれていた。マンフィーラ・カンテは、名字からしておそらくグリオ出身。
 マンフィーラ・カンテを名のるミュージシャンはギニアに3人いて、ひとりはサリフ・ケイタとアンバサデュールでいっしょにプレイし、現在はソロとして活躍しているカンテ・マンフィーラ、もうひとりはライヴァル、ケレチギのグループでヴォーカルを担当していたマンフィーラ・カンテ・ダバドゥ、そしてこのバラダンのマンフィーラ・カンテというようにたいへんまぎらわしい。解説によれば、3人は祖父を同じくするいとこ同士とのこと。

 ドイツのレーベルPAMからリリースされた本盤は、シリフォンから80年に出たLP"OBJECTIF PERFECTION"(slp75)に、60年代後半から70年代初めの音源4曲を追加したおそらくバラダン名義では唯一のCD。ほかにボーナス・トラックとして92年におこなわれたバラとピビのインタビューも収録。

 ギニアのポピュラー音楽は、セク・トゥーレの保護のおかげで、アフリカ化が急速に進んだが、反面、欧米などの外来音楽をそのまま演奏するのが禁止されたため、かなり遅い時期までラテン系音楽の影響から抜け出せなかった。じっさい、ここで聴ける音楽は、ラテンといっても70年はじめに登場したサルサのようなハード・エッジなスタイルではなく、50年代はじめにエンリケ・ホリンが創始しオルケスタ・アラゴーンによって世界中にひろまったキューバ生まれのチャチャチャの優雅なダンス音楽を地として、ギニアの伝統的な音楽要素をふんだんに味つけした感じ。したがって、楽器の編成もキーボードやドラム・キットを使わず、ギター、ベース、コンガ、スネア・ドラムにホーン・セクションを加えたシンプルでオーソドックスなスタイル。80年にしていまだに60年代のスタイルで演奏していたのだから飽きられても仕方あるまい。

 でも、時代遅れだからって音楽が悪いわけじゃない。バラとピビを中心としたホーン・アンサンブルはまろやかで芳醇。ギターもパーカッションもぜい肉を極力そぎ落としたシンプルな演奏。モゴモゴしたベースだけはちょっぴりレゲエっぽく今風な感じがする。バックの演奏が万事控えめなぶん、カンテによるグリオ・スタイルのヴォーカルがきわだつ。
 なかでも13分におよぶ'KEME BOUREMA'は出色。カンテの声にはサリフ・ケイタのような威厳に満ちたカリスマ性はないけれども、力づよくも柔軟な節まわしは人肌の温かみを感じさせる。このように肩の力が抜けた自然体のままの歌と演奏が淡々と綴られていくが、ロキア・トラオレのような、いま流行のアコースティック路線を聴くぐらいなら、わたしはこちらのほうが断然リラックスできる。

 60年代後半から70年代はじめの演奏を収めた4曲も80年のアルバムと基本的に大差はない。大きなちがいはギターがフィーチャーされていること。このギター、控えめではあるがツボを心得ていて「タダ者ではない」と感じクレジットを見てみると、なんとベンベヤ・ジャズ・ナショナルの主要メンバーにして、「ギターの神様」といわれるセク・ジャバテの名が!ベンベヤ・ジャズでのときほど派手ではないけれども、ハワイアンっぽいポヨ〜ンとしたギター・ソロが最高に心地いい。

 もうひとつ注目したいのは、'SARA'という曲について。ここにはオリジナルと思われる'SARA'と70年に再演した'SARA 70'が収録されているが、旋律もマンフィーラの節まわしもかなりイスラム的なのだ。つづく'SAKHODOUGOU'もこのけだるい感じはイスラムの独特のものなのでは。セネガルのユッスー・ンドゥールもそうだが、イスラム文化の影響を抜きにしてアフリカのポピュラー音楽を語れないことをあらためて思い知らされた。

 さらにラテン色がつよい音楽を求めるなら、"JARDIN DE GINEE"(SYLLART 38218-2)がおすすめ。原盤は、ケレチギの"ORCHESTRE PAILLOTE"に続くシリフォン・レーベル第2弾として発売された"ORCHESTRE DU JARDIN DE GUINEE"であることから60年代前半の録音と思われる。アフリカ音楽にはめずらしくトロンボーンやヴァイブラフォンがフィーチャーされるなど、ほんわかしたムードに包まれたラテン的アフロの小品の数々が聴き手の心をなごませる。ギニアの首都コナクリへの愛に満ちたラテン・ソング'CONAKRY'は、インドネシアの「ブンガワン・ソロ」をほうふつさせる南国歌謡の名曲だと思う。


(9.29.02)



back_ibdex

前の画面に戻る

by Tatsushi Tsukahara