World > Latin America > Caribe > Dominica Rep.

Artist

LUIS KALAFF CON LOS ALEGRES DOMINICANOS

Title

EL REY MERENGUE


kalaff
Japanese Title エル・レイ・デル・メレンゲ
Date 1962 /1963
Label ボンバ BOM2028(JP)
CD Release 1991
Rating ★★★★
Availability


Review

 原題を日本語訳すると“メレンゲの王様”ってことになるんだろうけど、同じボンバからリリースされたアンヘル・ビローリアのアルバムに『メレンゲの王様』なんてタイトルを付けちゃったもんだから、「どっちが王様なんだ?」てことになってしまうんで、苦しまぎれにこんなわかりづらい邦題を付けられお気の毒。

 ドミニカ共和国特産の音楽メレンゲがレコーディングされたのは、1920年代半ばにプエルト・リコ出身のラファエル・エルナンデス率いるトリオ・ヴォリンケンがトリオ(またはグルーポ)・キスケヤの変名を使っておこなったものが最初らしい。メレンゲではないが、この変名を使ってレコーディングされた演奏が、"LAMENTO BORINCANO"(ARHOOLIE 7037-38)で1曲だけ聞くことができる。
 
 しかし、ドミニカ出身のミュージシャンがニューヨークで本格的にメレンゲを演奏するようになったのは、それから約4半世紀を経たアンヘル・ビローリアあたりからということだ。
 後発のラテン・リズムだったメレンゲをニューヨークで研ぎすましモダナイズさせたのがビローリアだったとすれば、もう一人の王様、ルイス・カラフは、ビローリアがつくり上げた“ポピュラー音楽としてのメレンゲ”にドミニカのシバオ地方に伝わる伝統的な要素を注入することでメレンゲに深さと広がりを与えた。

 タンボーラ(太鼓)、グィラ(金属性のグィロ)、アコーディオン、ギター、ベース、サックスというこの時代の典型的な楽器編成で演奏される本盤は、なるほどアコーディオンやサックスがタイトで華麗なビローリアにくらべると、土くさい印象を受けるがけっして野暮ったくなく楽曲も演奏内容もそれなりに完成度は高い。
 あの特徴的な「デケデケデン」と入るタンボーラと終始「シャカシャカ」と刻まれるグィラの軽快なリズムにのって、軽やかに舞い踊るアコーディオンとアルト・サックスはどこまでも牧歌的。ルイス・カラフとタビリート・ペゲーロがほぼ半分ずつ担当しているヴォーカルも技巧的なところはなく純朴そのもの。
 
 このように、メレンゲの典型といえるような演奏のなかにあって、2曲目の'LA SALVE DE LAS ANTILLAS'って曲は、マイナーな感じがどこかプエルト・リコのプレーナぽいなと思っていたら、歌詞に「プエルト・リコうんぬん」という一節が出てきたので解説を読んでみると、この曲はメレンゲではなくて古くから伝わるサルベというスペイン系の歌曲をもとにしたリズムなのだそうだ。
 また、6曲目の'MADORA CHE CHE'と12曲目の'TU SI SABES COMO FUE'は、4分の2拍子の明快なリズムであるメレンゲとちがって、なんとハチロク(8分の6拍子)!これはメレンゲ以前からドミニカにあったカラビネというリズムだという。素直に聴いたらコロンビアのバジェナートとまちがえてしまうぐらいよく似ている。
 
 20世紀になって、ポピュラー音楽が成立、発展していくプロセスで、カリブ海の音楽はさまざまな地域の音楽と融合しながら、独自のスタイルをかたちづくっていったが、根っこの部分ではつながっているんだってことを実感した。音楽評論家の田中勝則氏がよく口にする“カリブ音楽の古層”ってやつね。
 カラフの曲が、ロス・ベシーノスウィルフリード・バルガスといったメレンゲのミュージシャンばかりでなく、ピオ・レイバのような他のカリブ諸国のミュージシャンにもカヴァーされていることは、カラフの音楽が“古層”に根ざしていることのあらわれなのかもしれない。


(9.1.02)



back_ibdex

前の画面に戻る

by Tatsushi Tsukahara