World > Latin America > Caribe > Cuba | ||||||||||||||||
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Artist | ||||||||||||||||
ARSENIO RODRIGUEZ, CHANO POZO, ESTRELLAS JUVENILES |
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Title | ||||||||||||||||
CUBAN CLASSICS VOL.XIII |
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Review |
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コレクターにとって最大の喜びは、思ってもみなかったすばらしい音源に出会えた瞬間である。このアルバムは、ここ数年でもっとも興奮した掘り出し物であった。 キューバン・クラシックス・シリーズの1枚として2001年に発売された本盤は、アルセニオ・ロドリゲス、チャノ・ポソ、エストレージャス・フベニーレスの3組からなるコンピレーション。エストレージャス・フベニーレスなんて聞いたことはないし、ジャケットはチープだし、よくある無節操な寄せ集めを想像したくなるが、さにあらず。知るかぎり、すべて未復刻音源からなるおそろしく内容の濃いアルバムなのだ。 アルセニオ名義の4曲は、ヴォーカルにマノーロ、アントマッテイ、オラーノの3人のクレジットがあるのみ。はじめは音の感じからして"SABROSO Y CALIENTE" (Pヴァイン PCD-2141)、つまり60年前後の録音と思ったが、かつてシーコの廉価レーベルから出ていた12インチLPを復刻した"CLASICAS DE UN SONERO"(SEECO SCCD9352)に、この3人のヴォーカリストの名まえがクレジットされていることから、アルセニオ渡米直後の50年代前半の録音とみるべきではないか。 そう考えるのにはほかにも理由がある。 まず、この4曲の作者はすべてイスラエル・ロドリゲス、つまりアルセニオの弟“キケ”とあること。“キケ”の名がこれほど多く見られるのは52年の"CLASICAS DE UN SONERO" を除いてない。 さらに、'PIMIENTA' にあるソン・カペティーリョなる音楽形式も、ほかに"CLASICAS DE UN SONERO" にあるのみ。また、'QUE ME MANDE LA NINA' はソン・マンボ、'POBRE CHINITO' はマンボとあり、マンボの流行が爆発したのは50年代はじめだったことを考えあわせると近い線を行っているような気がする。 4曲に共通するのは演奏にやたら覇気があること。ハイトーンでブリリアントにかますトランペット、ワイルドなグルーヴあふれるピアノ(レネ・エルナンデスか?)、前のめり気味に突っ走るリズム・セクション。それらをグイグイと引っぱるのはアルセニオ迫力のトレス。なかでも、ソン・モントゥーノ'BAILLA SIMON' はアルセニオの一人舞台で、その変幻自在なプレイに脳ミソがグチャグチャにかき混ぜられること必定! また、変わったところでは、マンボ 'POBRE CHINITO'。「貧しい中国人」(そういえばアルセニオの曲で「貧しいキューバ」'POBRE MI CUBA' ってのがあった)のタイトルのとおり、エキゾチック・チャイナ風なメロディで、途中に胡弓の音をまねた声がはいるなど楽しい演奏だが、それでもアルセニオの体臭はしっかり染みついている。 こんな具合に、どの曲もアルセニオらしい黒っぽいコクのぎっしりつまった充実した内容といえる。 これだけでもたいへんな収穫なのに、本盤のスゴサはこれからである。 エストレージャス・フベニーレスとは聞き慣れぬコンフントだが、音があまりにアルセニオに似ているので、曲目のクレジットを見てみると、そのなかの1曲、ボレーロ'NADIE MAS QUE TU' の作者がハシント・スクールとある。声の感じからして、これはおそらくアルセニオの甥っ子でキューバ時代からのメンバーだったレネ・スクールそのひとではないか。 アルセニオ全盛期のキューバRCA時代をほうふつさせるすばらしくディープな演奏だ。あらためて聴いてみると、ザクザクしたトレスといい、独特のダミ声といい、まちがいなくアルセニオである。つまり、エストレージャス・フベニーレスとは、アルセニオのコンフントの変名だったのである。録音は50年前後と思われるが、渡米前か渡米後かはっきりわからない。 しかし、それにしてもここでのソン・モントゥーノ、グァグァンコー、ボレーロの歌と演奏の密度はおそろしく濃い。なかでも、グァグァンコー'EL VIANDERO RICO' でのアフロなグルーヴがムンムンと立ちこめてくるヴォーカル、トゥンバドーラのど迫力はどうだ! アルセニオの数ある演奏のなかでも屈指の黒さといっていいだろう。 興奮はまだ治まらない。 47年にアルセニオは目の治療のため、渡米したおりにチャノ・ポソと出会い、伝説のセッションをおこなったことはよく知られている。そのときの録音は、現在、トゥンバオから発売されたCHANO POZO & ARSENIO RODRIGUEZ / "LEGENDARY SESSIONS"(TUMBAO TCD-017)とCHANO POZO / "EL TAMBOR DE CUBA VOL.2"(TUMBAO TCD-307)に計7曲復刻されている。うち3曲はチャノ・ポソのコンフント、残りはマチート楽団を借り受けてのビッグ・バンド・スタイルの演奏である。 ところで、チャノの代表曲のひとつ'PIN PIN' をはじめとするここに収められたチャノ・ポソ名義の4曲は、チャノというよりどこをどう切ってもアルセニオ流の黒っぽいソン・モントゥーノ・スタイルだ。 ヴォーカルにはそのときのセッションとおなじパンチート・リセット(30年代、ペドロ・フローレスのグループでも歌っていたキューバ人)とマルセリーノ・ゲーラとあり、第一、こんなすごいトレスは世界中どこを探してもアルセニオ以外には考えられない。ということは、この4曲はそのときのセッションの一部とみてまちがいあるまい。 それにしても不思議なのは、田中勝則さんによると、アルセニオとチャノのセッションは全部で8曲が録音されたとあり、だとするとこれらを加えると計11曲ということになり、つじつまが合わない。もしかしたら8曲というのはコンフントでの録音数なのかもしれない。 どっちにしたって、ものすごく貴重な音源であるには変わりない。神様に感謝せねば。 トータルの収録時間が33分19秒と短いうえ、解説のたぐいがまったくないことを差し引いても、じゅうぶんに満点に値するアルバムだと思う。 |
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(4.3.04) |
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