World > Africa > Guinea

Artist

VARIOUS ARTISTS

Title

DISCOTHEQUE 70


discoteque70
Japanese Title

ディスコテーク70

Date 1970
Label SYLLART/MELODIE 38208-2 (FR) / メタカンパニー XM-0246(JP)
CD Release 2000
Rating ★★★★☆
Availability ◆◆◆


Review

 〈ディスコテーク〉シリーズは、セク・トゥーレ大統領の急進的な自国文化保護政策に則って創設された国営のレーベル、シリフォン SYLIPHONE が、70年から毎年、旬のバンドやミュージシャンの演奏をオムニバス形式で紹介する企画で、76年まで計7枚のアルバムがリリースされた。社会主義路線をとったセク・トゥーレだったが、生産の低下、インフレ、密貿易、汚職などのために70年半ば過ぎには経済は完全に破綻。〈ディスコテーク〉シリーズの終結はそのままセク・トゥーレ時代の終わり(84年死去)を意味するものであった。

 セネガルのポピュラー音楽シーンは、70年代終わりにエトワール・ドゥ・ダカールの若きヴォーカリスト、ユッスー・ンドゥールらの新しい世代が登場して“ンバラ・ポップ”を確立させるまで、長いあいだラテン系音楽のつよい影響下にあった。これにたいし、ギニアではトゥーレ大統領の文化政策のおかげで、独立直後の60年代はじめから民俗色の濃い独自のポピュラー音楽が育っていった。

 ところが、流通の国営化によって半ば鎖国状態に置かれたたため、60年代後半に資本主義社会でおこったロックやソウルのムーブメントに乗り遅れ、80年に入るころにはギニアのポピュラー音楽は完全に過去のものとなってしまった。トゥーレ大統領なればこそのベンベヤ・ジャズの栄光があり挫折があったといえよう。

 さて、シリーズはそのベンベヤ・ジャズによる'WARABA'で幕を開ける。デンバ・カマラのライオンのようなうなり声を合図に、カウベル?、グィロ、コンガなどのラテン系パーカッションが繰り出す軽快なリズムに、ンゴニ(グリオに伝わる三味線のような音色の小型ギター)を模したギターがシンプルなリフを刻む。これらのビートにのせてカマラのゴムまりのようにバウンスする懐の深いヴォーカルがかぶさる。ところどころに合いの手のようにはいる女性コーラスが効果的。セク・ジャバテのめくるめくスティール・ギターもすばらしい。ドラム・キットはまだ使われておらず、伝統音楽の要素とラテン・フレイヴァーとが絶妙に混じりあった名演である。

 ベンベヤ・ジャズの先輩格、ケレチギ・トラオレ率いるタンブリーニの演奏は2曲。
 'TAMBOURINIS COCKTAIL'は、キューバ音楽、正確にはチャランガ編成によるチャチャチャをヒントにした「エージャナイカ」方式のギターとホーンズのリフがしつこくつづくハイテンポなナンバー。せわしないリズムの合間を縫うように、オルケスタ・アラゴーンのリチャード・エグェスのプレイ・スタイルを模倣したリリカルなフルート・ソロは聴きもの。ギターには河内音頭がちょっと入ってる?“無責任男”的な体質が感じられ最高!
 ホンモノのバラフォン(ひょうたんの共鳴装置がついたマリンバ)とグィロが醸し出す優雅なリズムとメロディをバックに、滔々と歌うテナー・サックスが男のフェロモンを発散しまくるのが'NADIA'。リズムはちょっとレゲエを思わせたりもする。わたしは、はしなくもこの曲に勝新を見てしまった。仕事を終えて、なーんも考えずダラーとしているときには最高のBGM。

 ケレチギのライヴァル、バラ・オニボギとバラダンの演奏も2曲。
 'KAIRA'は、ゆったりしたテンポのラテン的ナンバー。コラ(ハープのように弾くリュート型の楽器)のフレーズを模したギターをバックにレイドバックするリード・ギターが泣かせる。もしかしてベンベヤ・ジャズのセク・ジャバテ?
 セネガルのオルケスタ・バオバブに通じるラテン的センティメントが感じられる'MOI JE SUIS DECOURAGE'は本盤中もっとも好きな曲。ホワーンとした脱力系ギター・ソロも最高!しあわせ気分にひたれる。

 本シリーズ最長の17分におよぶ 'LES VIRTUOSES DIABATE' は、パパ・ジャバテとセク・ジャバテによるコラとアコースティック・ギターによるデュオ。ギターでなく伝統楽器ンゴニかもしれない。グリオの伝統とモダニティが融合したこのインストゥルメンタル・ナンバーの透明感にあふれた美しさはどうだ。でも、この曲でアルバム全体の1/3を使っちゃうのはちょっともったいない気がする。

 本盤最大の注目曲は、ラストを飾るデンバ・カマラのソロ・プロジェクト'EXHUMATION FOLKLORIQUE'。テープ・レコーダーを肩から提げて、伝統音楽を採集してまわったといわれるカマラが、ここではギニア東部、マリとコート・ジヴォワールとの国境地帯に位置するワスル地方の音楽を取り入れてみせる。90年ごろ、ナハワ・ドゥンビアやサリ・シディベなど、ワスル出身の女性歌手が世界デビューしてようやく知られるようになったワスルの音楽を、それより20年近くも前に紹介していたカマラの慧眼にはおどろくほかない。
 アコースティック・ギターと民俗打楽器、それにワスル独特の素朴な女性コーラスをともなっただけのシンプルな構成で、ベンベヤ・ジャズの代表曲'TEMTEMBA'を軽くながすように歌う。日本盤(といっても輸入盤に帯を付けただけ)の帯にはアシッド・フォーク調と書かれてあった。雰囲気としてはわかるが、わたしの耳にはちょっとフラメンコが入っているようにも聞こえる。


(5.20.03)



back_ibdex

前の画面に戻る

by Tatsushi Tsukahara