World > Africa > Nigeria

Artist

CELESTINE UKWU

Title

THE BEST COLLECTION VOL.1


ukwu1
Japanese Title 国内未発売
Date 1971
Label PREMIER MUSIC PMCD011(Nigeria)
CD Release 2001
Rating ★★★★☆
Availability ◆◆◆


Review

 私見によれば、ナイジェリアのハイライフは大きく4つの傾向に分かれる。
 第1に「ダンスバンド型」。ガーナのE.T.メンサーとテンポスの流れを汲む金管楽器中心のスウィング・タッチのハイライフ。ボビー・ベンソン、レックス・ローソンなど。第2に「ルンバ・ロック型」。ザイコ・ランガ・ランガにはじまるコンゴ第3世代の影響をモロに受けたサウンド。オリバー・デ・コケプリンス・ニコ・ムバーガなど。第3に「熱血剛腕型」。力ワザでゴリゴリ押しまくるストレートで男くさいサウンド。オリエンタル・ブラザーズなど。そして第4が「ゆるゆる型」。演奏はギターバンド主体だが、音楽スタイルは「ダンスバンド型」の変異型といえる。チーフ・ステフェン・オシタ・オサデベとともに、このタイプを代表するのがセレスティン・ウクウである。
 
 ウクウは、ディープなイボ・サウンドを展開したことで知られるジェントルマン・マイク・エジーガのグループを経て、66年、自分のバンド、ミュージック・ロイヤルズを結成。ところが、まもなくビアフラ戦争が勃発したためバンドは分裂状態に。戦後、フィロソファーズ・ナショナルとして再スタートをはかる。

 本盤は、ベスト盤のようにみえるが、じつは71年に発表されたウクウにとっては初のLP"TRUE PHILOSOPHY"の完全復刻。なかでも、イボの伝統音楽をモチーフにした冒頭の'IGEDE(Pt.1)' は大ヒットを記録し、ウクウを一躍スターダムに押し上げた。軽めのパーカッションに導かれるように2本のギターとチェレスタ?がかぶさってきて、そこにまろやかなアルト・サックスとクラリネットがからむ、なんとものどかで愛らしいナンバー。ウクウの担当はギターとヴォーカルだが、ここではヴォーカルというよりも「イゲデ、イゲデ」という掛け声が中心。ちなみに、気の利いた選曲センスで世界のポピュラー音楽を紹介する“ラフ・ガイド・シリーズ”の"THE ROUGH GUIDE TO HIGHLIFE"(WORLD MUSIC NETWORK RGNET 1102 CD(UK))や、ナイジェリア・ハイライフのコンピレーション"THE KINGS OF HIGHLIFE"(WRASSE WRASS 097(UK))でもこの曲が選ばれていた。
 
 かれは綿菓子でくるんだようなまろやかで、ちょっとかすれたトーンのクルーナー系テノールの持ち主で、声を延ばすと末尾が微妙に震えるようなヴィブラートの効かせ方がオサデベとよく似ている。イボの伝統的な唱法なのだろうか。この柔らかくあやふやな感じはどっか聞き覚えがあると考えていて、思い当たったのが日系ハワイアンの灰田勝彦。そういえば、'IFE SINA CHI' はハワイアン・スティール・ギターをフィーチャーした南国情緒いっぱいの曲。'IJE ENU' では、チャカポコしたパーカッションにのせて奏でられるトイ・ピアノのようなピアノの響きがじつに微笑ましい。トイ・ピアノを使わせたら右に出る者がいないジョン・ケージに迫るおちゃめさだ。かと思うと、'ILO OYI' のようにホーン・セクションを用いたダンスバンド直系のナンバーもある。また、'ONYE AKWANA UWA' での鋭角的なギターの音色はコンゴのフランコを思わせたりもする。
 
 ナイジェリア音楽の代名詞というべきトーキング・ドラムやサカラを使ったフジやジュジュの大迫力のポリリズムとは対照的な、コンガ、クラベス、マラカス、ティンバーレスなどラテン系パーカッションを中心としたコロコロしたリズム。同じフレーズを延々とくり返すギターやチェレスタ。木管ならではリリカルでスウィートな調べを奏でるサックスやクラリネット。そんなところに、こんなぐあいでまったりと歌われたときにゃ、クラクラめまいがしてきて、しまいにゃ全身脱力感でいっぱいになってくる。
 また、曲によってはミュート・トランペットが効果的に使われている。この場合、マイルス・デイビスのようなピンと空気が張りつめたようなミュートの使い方とは対極にある、そう、あの「南京豆売り」でレンベルト・ララが奏でた心なごませるミュートの響きだ。
 
 このようにウクウの音楽にはさまざまな音楽要素が絶妙にブレンドされているんだけれども、その中心にあるのはイボの伝統音楽とルンバだと思う。この場合のルンバは、もちろんヴォーカルとパーカッションがコール・アンド・レスポンスをくり返すキューバ土着のルンバではなく、30年代に「南京豆売り」ドン・アスピアス楽団やレクォーナ・キューバン・ボーイズによって爆発的に世界に広まった軽いタッチのルンバのほうである。わたしにはハイライフの定義がいまいちはっきりしないので、ルンバ・コンゴレーズといういい方があるのだから、いっそのこと、“イボ・ルンバ”と呼んでみたいような気さえしている。
 ウクウの音楽は、サニー・アデのジュジュ独特のスペイシーな感覚と共通するところがあるが、むしろウクウがジュジュに影響を与えたとみるべきではないだろうか。というのも、こんにちではジュジュの定番になったペダル・スティール・ギターは、ウクウのほうが早く使いはじめているからである。
 
 ナイジェリア・ハイライフにあって独自の世界を創造したウクウであったが、77年、人気絶頂の最中、惜しくも自動車事故で命を落としてしまった。そのため、生前リリースされたアルバム枚数はけっして多くない。CDとしては、ナイジェリアのプレミアから本盤のほかになぜか"THE BEST COLLECTION VOL.3"(PREMIER PMCD017)と、英国のフレーム・トゥリーから"GREATEST HITS"(FLAME TREE FLTRCD532)が出ている。前者は、74年のLP"NDU KA AKU"全曲と、75年のLP"EJIM NK'ONYE"のB面を音源とする。サウンドは"VOL.1"と大差ないが、洗練度も演奏力も格段に向上している。後者は、71年の"TRUE PHILOSOPHY"から4曲、"ILO ABU CHI"から7曲をピックアップ。でも、まあこれら3枚全部そろえる意味はあまりないような気はする。


(5.16.03)



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by Tatsushi Tsukahara