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Artist

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Title

DISCOTHEQUE 72


discoteque72
Japanese Title

ディスコテーク72

Date 1972
Label SYLLART/MELODIE 38213-2 (FR)
CD Release 2000
Rating ★★★☆
Availability ◆◆◆


Review

 このアルバムあたりから、音楽の傾向にすこしずつ変化がみられるようになった。それまでのギニアン・ポップは、伝統音楽とラテン系音楽をおもな成分としていたが、そこにロックやソウルなどの新しい外来音楽の要素が混じるようになってきた。

 典型的なのが、ピヴィとバラダンによる'SAMBA'という曲。ファズがかったノイジーなリード・ギター、ファンクっぽいギターとベースのリフ、炸裂するドラムスとパーカッション、歪むテナー・サックス、そしてアジテートするようなヴォーカル。あきらかにフェラ・クティのアフロビートに影響された激しいサウンドだ。

 タイトルからしてブラジルのサンバっぽい曲調をイメージしたくなるが、聴くかぎりサンバらしい要素はどこにも発見できなかった。たしか、ナイジェリアのサニー・アデもタイトルにサンバを冠したナンバーを演奏していたはずだが、そこでもいわゆるサンバは見出せなかった。西アフリカにおけるこの“サンバ”の正体は何なのか、たいへん興味ぶかいテーマである。中央アフリカ・コンゴ起源説を唱えておられる竹本さんにぜひご教授いただきたいところである。

 それにしても、他の2曲'KOGNO KOURA''DJINA MOUSSI'では、ラテン・フレイヴァーただよう従来どおりの温厚なギニアン・ルンバなのに、これが同じバンドによる同時期の演奏だとはにわかには信じがたい。

 ちなみに、バラダンのリーダーはトランペット奏者のバラ・オボノギのはずだが、ここでは番頭格のピビ・モリバがリーダーになっている。これにはつぎのいきさつがあった。かねてより待遇に不満をもっていたバラは、国立楽団(社会主義国ギニアでは政府が主催するコンテストで優秀な成績を収めたバンドは公務員待遇、つまり「国立」バンドになれた)の総責任者であった青年省の大臣にむかって暴言を吐いたことから、バンド・リーダーの職を解かれてしまったのだ。こうしてセク・トゥーレ大統領のツルのひと声によって復帰が許されるまでピビがバンドを率いるハメになった。
 バンド存続の危機にもかかわらず、ピビを中心にバンドの結束力はかえって高まったとみえ、いささかもクオリティが落ちていないのは立派。

 ベンベヤ・ジャズケレチギはそれぞれ1曲のみ収録。
 ベンベヤ・ジャズの'MME TOLBERG'は、英語を交えたちょっとカリプソっぽい異色ナンバー。トルベルグというドイツ人ぽい人物への感謝の歌のようだが、いったいどういう人物なのか。曲としては平凡。

 ケレチギ率いるタンブリーニの'DONSOKE'は、ギターとバラフォン(マリンバ)のつづれ織りのようなアンサンブルが印象的な優雅なナンバー。ここでのバラフォンの音色は、“サワリ”とよばれるビリビリするノイズがたいへん耳に心地よい。この“サワリ”の正体はなにかというと、共鳴体にあたるヒョウタンに穴をあけて、そこにクモの体液でできた薄い膜を貼ったもので、木琴のバーを叩くと、その膜が振動してビリビリするという仕掛けらしい。

 アルバム後半の3曲は、レ・フレーレ・ジャバテによるアコースティック・ギター・デュオ。"DISCOTHEQUE70""71"では、ヴィルチョーズ・ジャバテだったが、ここでは「フレーレ」、つまり「ジャバテ兄弟」となっている。兄弟の正体がパパ・ジャバテとセク・ジャバテかはまったく不明だが、ヴィルチョーズの演奏にくらべるとかなりヨーロッパ的な印象を受ける。なかでも最悪なのはラストの曲で、クラシック・ギターの影響がモロに出た気色悪いイージー・リスニング。まあゴンチチを想像してもらえばいい。

 ゴンチチといえば、かつて浅野ゆう子が浅野温子とともに「W浅野」と呼ばれていた時代にゴンチチが好きだとかぬかしていた。自分を若い女性のファッション・リーダーと勘ちがいしていた彼女にふさわしい趣味だと思った。ゴンチチを聴くぐらいならクロード・チアリのほうがマシ。葉加瀬太郎よりはまともだけど。

 ゴンチチでもうひとつ思い出したことがある。「ワールド・ミュージック」全盛期の90年ごろ、日本でも「ウォーマッド」とか「FUJITSUカリビアン・フェスティバル」など音楽祭がさかんにおこなわれていた。日本が金に任せて開いたものばかりだから、あまりまともなものはなかったけど、なかでも群を抜いてヒドかったのが「コンダ・ロータ」。
 わたしはこのフェスティバルにマルティニークのカリ目当てに出かけたのだが、そのときの取り合わせが驚くなかれ、ウガンダのリンガラ、ジェフェリー・オリェーマに、南アのレゲエ・バンド、ラッキー・デューペ。ほかの日にはサルサのエディ・パルミエリ、プエルト・リコのクァトロ奏者ヨーモ・トーロ、それになんとゴンチチが出演していた。「ウォーマッド」みたいに何会場かに分かれているのならまだしも、昭和人見記念講堂に封じ込められてカリの出番を待つのは本当につらかった。「ワールド・ミュージック」という耳ざわりのいいことばじりだけをとらえて、それぞれの音楽の本質を見ようとしない主催者の底の浅さを露呈した典型的な例。出演するミュージシャンに失礼とは思わんのか!


(5.30.03)



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by Tatsushi Tsukahara