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Artist

VOX AFRICA

Title

THE BEST OF VOX AFRICA


vox africa best
Japanese Title

国内未発売

Date the late 1960s
Label TAM-TAM AFRICA T.T.A. 0025 (Belgium)
CD Release ?
Rating ★★★★
Availability ◆◆


Review

 63年5月、アフリカン・ジャズの総帥グラン・カレこと、ジョセフ・カバセルは、ドクトゥール・ニコ、ロジェ・イゼイディ、ロシュローを首謀者とするメンバー全員から突如、三行半を突きつけられた。かれらはヨーロッパへ渡りカバセル抜きでレコーディングを敢行。バンド名もアフリカン・フィエスタと改めた。バンドから追放されたカバセルはオルケストル・バントゥにいたギタリスト、パパ・ノエルをさそってアフリカン・ジャズの再建を画策。63年(64年?)、二人はウガンダの首都カンパラでかつて子分、歌手のジャン・ボンベンガと再会する。
 
 話はさかのぼる。60年1月、ベルギーのブリュッセルで開かれる独立円卓会議の文化使節として、カバセルは、ニコ、ロジェ、ヴィッキー・ロンゴンバらアフリカン・ジャズの主要メンバーと渡欧。ロシュロー、ボンベンガ、フランクリン・ブカカ、エド・ルトゥラ、カシノ・ムシプルら、現地に残された若手メンバー(準メンバーというべきか)たちはジャズ・アフリカンというグループを結成する。これを母体として同年中にボンベンガ、ブカカ、カシノらが起ち上げたのがヴォックス・アフリカである。
 
 ところが、ほどなくブカカは脱退し対岸のコンゴ〜ブラザヴィルへ帰ってしまう。カバセルはボンベンガと再会したとき、ヴォックス・アフリカはすっかり落ち目になっていた。「渡りに舟」とばかりにカバセルはヴォックス・アフリカを吸収合併。こうして名門アフリカン・ジャズの再生はなった。
 
 しかし、スタートしてわずか数ヶ月でパパ・ノエルが脱退するというアクシデントにみまわれ、新生アフリカン・ジャズは全盛期の人気に迫ることはついになかった。その時代の録音は"GRAND KALLE & L'AFRICAN JAZZ 1966-1967"(SONODISC CD 36536)としてCD復刻されている。王道のルンバ・サウンドに加え、コンゴの音楽にはめずらしくピアノやフルートが入っていたり、チャチャチャやメレンゲがあったりとカバセルのラテン音楽趣味が前に出たチャーミングな内容ではあるが、ラテン音楽の影響から脱して独自のサウンドを確立しつつあった当時のルンバ・シーンにあっては時代錯誤の印象を免れない。このCDは発売元のソノディスク倒産のため廃盤だったが、最近シラール(SYLLART 823415)から再発された。
 
 新生アフリカン・ジャズが不発に終わり傷心のカバセルは67年、バンドを解散してパリへ拠点を移す。そして、OKジャズやバントゥに在籍していたクラリネット奏者のエッスー、さすらいのヴォーカリスト、ムジョス、カバセルに同道してきたと思われるギタリストのカシノ、カメルーンのタコ、マヌ・ディバンゴらとアフリカン・チームを結成する。
 レオポルドヴィルに残ったボンベンガはヴォックス・アフリカを再開。メンバーにはギター職人パパ・ノエル、ロシュローのアフリカン・フィエスタ・ナショナルにいたサム・マングワナ、のちにOKジャズのメイン・ヴォーカルになるンテサ・ダリエンストら、そうそうたる若手の有望株が名を連ねていた。
 
 ソノディスクからは(わたしが持っているかぎり)2枚の単独アルバムと4枚のコンピレーションが発売されている。

(1)BOMBENGA & VOX AFRICA / NALUKI YO TROP ELODIE (SONODISC CDS 7021)
(2)BOMBENGA & LE VOX AFRICA / MOBALI YA NGELELE (AFRICAN/SONODISC CD 36595)
(3)COMPILATIONS MUSIQUE CONGOLO-ZAIROISE, VOL.1 (AFRICAN/SONODISC CD 36504)
(4)COMPILATIONS MUSIQUE CONGOLO-ZAIROISE, VOL.2 (AFRICAN/SONODISC CD 36507)
(5)COMPILATION LES GRANDS MAQUISARDS-CONTINENTAL-VOX AFRICA-CONGA SUCCES (AFRICAN/SONODISC CD 36513)
(6)COMPILATION ORCHESTRES ZAIRO CONGOLAIS 1968/1976 (SONODISC CD 36526)

 (1)は全14曲、(2)は全13曲。(3)の2曲は(1)と(2)に1曲ずつ収録済。(4)の2曲も同様。(5)には4曲。1曲が(2)と重複。(6)にも4曲。おなじく1曲が(2)と重複。
 クレジットには(1)が67年と68年、(2)が67年と71年、(3)が68年と69年、(4)が69年、(5)が69年、(6)が68年とあり、つじつまが合わない。(2)の71年は別として、残りについては1、2年のずれはあってもほとんど同時期とみるべきだろう。すなわち、かれらの人気のピークは68年前後であり、それはザイコ・ランガ・ランガらヤング・ジェネレーションがコンゴ(71年から国名をザイールに改称)のミュージック・シーンに革命をもたらす前夜にあたる。

 前にふれたとおりソノディスクが倒産してからというもの、ルンバ・コンゴレーズの古典的な録音の入手はむずかしくなっている。それでもフランコ、カバセル、ロシュローなどのビッグネームについては、すこしずつではあるがリイシューされつつある。だが、ヴォックス・アフリカのようなマイナー・クラスがリイシューされる可能性はあまりなさそうだ。
 そこでここではベルギーのタム・タム・アフリカというマイナー・レーベルから最近リリースされたベスト・アルバムを紹介しようと思う。ただし、廃盤ではないといっても通常のルートでの入手はむずかしい。わたしは大阪にあるコンゴ音楽の専門店BAOBABから通販で買った。
 
 アルバムは全17曲構成。()とは11曲、()とは6曲が完全重複。このなかには()と()収録の計4曲も含まれている。
 「アフリカの声」の名のとおり、このグループの売りは透明で美しいヴォーカル・ハーモニー。とろけるような甘いヴォーカルも、たゆたうように優雅なギターの音色もアフリカン・ジャズ直系。といっても、カバセルほどにはラテン音楽に傾倒しておらず、むしろロシュローのアフリザ(アフリカン・フィエスタ・ナショナル)やニコのアフリカン・フィエスタ・スキサからの影響がつよく感じられる。
 
 基本的な楽器編成は、複数のギター、ベース、コンガ、マラカス、複数のサックス。ドラムスはない。楽曲は一部を除けばボンベンガのオリジナルで、ゆったりしたテンポの優雅なルンバ・サウンドで終始する。ただしボレーロ調の甘美なバラードはない。1曲の演奏時間はいずれも3、4分台。コーラス・ワーク中心の歌のパートが大半をしめ、終盤にギターとサックスのリズミカルなインタープレイがはさまれるのが典型的な楽曲パターン。ヴェルキス風のサックスを除けば、60年代末から70年代はじめにかけて一時流行したファンクの影響はあまり感じられない。
 
 楽曲の完成度はどれも水準以上だし、自慢のコーラス・ワークはもとより、パパ・ノエルと思われるリード・ギターをはじめとする演奏レベルも高い。しかし、リーダーのボンベンガがロシュローのようにソロで歌っている形跡は認められず、マングワナ(ときどきダリエンスト)のヴォーカルばかりがきわだって聞こえてくる。そのせいか「これがヴォックス・アフリカだ」という個性がいまひとつ見えてこない。
 わたしはいま、ヴォックス・アフリカをコンゴのクール・ファイブと呼んでみたい誘惑を抑えられないでいる。マングワナは前川清で、ボンベンガは内山田洋である。ヴォックス・アフリカの無個性とはリーダーの無個性であり、その無個性こそヴォックス・アフリカの個性だと思えば得心が行く。

 68年、マングワナとダリエンストはグループを脱退すると、自分たちでフェスティバル・デ・マキザールを結成する。マキザールのサウンドはヴォックス・アフリカと似たところもあるが、マングワナをはじめメンバー一人一人の個性がきわだっていて、楽曲の躍動感やメリハリの点でもヴォックス・アフリカを圧倒しているように感じる。
 
 ついでに71年発売とある()収録の6曲(ベスト・アルバムに1曲収録)についてもふれておこう。そこではトランペットやドラムスが新たに導入され以前よりビート感が強化されている。しかし、まったりしたサウンドの質感は相変わらずで「ザイコ時代にこののんびり感はないだろう」という気がする。
 ボンベンガは73年にパパ・ノエルと組んで、ヴォックス・アフリカを再結成するも失敗に終わったとされることから、たぶん71年ごろにヴォックス・アフリカはいったん解散したのだろう。しかし、何度もいうが音楽そのもののクオリティは総じて高い。ただ時代と歩調が合わなかったというだけである。
 
 聞き入るうちにいつしか桃源郷をさまよい歩いている自分がいた。


(11.30.06)



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by Tatsushi Tsukahara