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Artist

MONGUIT "EL UNICO"

Title

A BLACK MAN FROM CUBA



Japanese Title A BLACK MAN FROM CUBA
Date 1963-1970
Label Pヴァイン PCD-2878(JP)
CD Release 1995
Rating ★★★★
Availability


Review

 キューバならではの渋みを効かせたファンキーな唱法で、60年代のニューヨーク・ラテン音楽シーンにおいて異彩をはなったモンギート・“エル・ウニコ”には、“遅れてきたソネーロ”の名を冠したい気分になる。

 サルサにはほとんど興味の湧かないわたしが、かれの名まえをはじめて知ったのは、アルセニオ・ロドリゲス60年代の最高傑作『プリミティーボ』(Pヴァイン PCD-4729)のメイン・ヴォーカリストとしてであった。キューバ時代にくらべると、必ずしもメンバーに恵まれていたとはいえなかったアメリカ時代のアルセニオにとって、キューバからメキシコを経てニューヨークへやって来たばかりのモンギートは、アルセニオ本来の濃厚なソン・モントゥーノをおこなううえで、絶好の声色の持ち主であったことはまちがいない。そう、モンギートは、キューバ音楽史上最高のソネーロのひとりであったミゲリート・クニーの、ドライでアーシーな、でもってちょっとトボけたユーモアがときおり顔をのぞかせる、あの独特なスタイルの正統な継承者といえた。

 アルセニオとの共演で箔をつけたかれは、その後、ジョニー・パチェーコやラリー・ハーロウといったファニア系のミュージシャンたちの楽団で歌手をつとめ、ニューヨークのラテン音楽シーンにおいて確固たる地位を築いていく。

 「サルサ・ブラック」と冠して、イスマエル・リベーラ、アスキータ、レブローン・ブラザーズとともに、サルサのもっとも黒っぽい側面を代表した4アーティストの1人として日本独自に編集された本盤は、おもにファニアの音源をもとに、サルサ・ムーヴメントが勃興する前夜の熱いラテン・シーンを、モンギートという鏡をつうじて映してみせる。おもにジョニー・パチェーコやラリー・ハーロウ楽団、それにモンギートのソロ・アルバムからのピックアップだが、キューバ直系のソン・モントゥーノを中心に、なるほど凡百のサルサにはない一本筋のとおった硬派なサウンドが展開されている。

 わたしが本盤を評価しているのは、モンギートのファンキーなヴォーカルもさることながら、キューバ音楽ファンとしてはたまらない選曲のよさにある。全18曲中、ミゲリート・クニーがヴォーカルをつとめたチャポティーン楽団のレパートリーからの7曲を筆頭に、かつてクニーが参加し、のちにモンギート自身も在籍していたコンフント・モデーロから1曲、モデーロの後身エストレージャス・デ・チョコラーテから1曲、それらのルーツといえるアルセニオの作品を2曲、さらに、上記とはすこし畑ちがいのロス・コンパドレスから1曲というように、キューバ音楽ファンにはおなじみの曲ばかりというのがたまらない。また、カチャーオのベース・ソロがすばらしいキューバ・スタンダード'AVE MARIA MORENA' のアフロ・キューバンな名演も捨てがたい。この曲は、のちにカチャーオの快心作『マスター・セッションズVol.1』(EPIC/SONY ESCA6047)でも再演されている。

 このように、歌も演奏もたしかにすばらしい。しかし、なにかが足りない気がした。その答えは、アルセニオの『プリミティーボ』から選ばれた'RUMBA GUAJIRA' を聴いていて思い当たった。この曲を除いて、キューバ音楽、なかでもソン・モントゥーノにおけるリズムの要というべきトレスが入っていないのだ。トレスの代役を果たしているのはピアノだ。わたしがサルサにいまいち親しめないのは、このしつこいまでにワン・パターンの自己主張を繰り返すピアノと、耳ざわりなカウベルやウッド・ブロックのせいである。こいつらが、ソン・モントゥーノの本領であるとわたしが考えているズシリと重心のかかったビートを台無しにしてしまっている。
 そして、さらに難点をあげるとすれば、ボレーロにおいて、モンギートは、クニーが全身から放っていた男っぽい色気を決定的に欠いている。このことは、モンギートにとって致命傷といっていい。モンギートの力量なのか、バックのせいなのか。キューバ時代のモンギートの録音を是非聴いてみたいものである。


(4.18.02)



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by Tatsushi Tsukahara